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「どらあっ!」
「おあ!」
建物の西側の出入り口で超慈が見張りの生徒たちを手当たり次第に殴り倒す。
「よし……この辺は大丈夫ですよ、中運天先輩」
「……随分とまあ、思い切ったことを……」
クリスティーナが呆れた視線を向ける。超慈が後頭部を掻きながら答える。
「そ、そんな風に褒められると……照れてしまいます」
「いや、褒めてないよ」
「え?」
「悪いけど全然」
「はあ、そうすか……」
超慈は分かりやすくうなだれる。クリスティーナは慌てて場の空気を変える。
「ま、まあ、遅かれ早かれ、潜入は察知されていたはず……余計な手間をかけずに突っ込んだ判断も悪くはないと思うな!」
「……そうですか?」
「う、うん」
「……なんか燃えてきた! このまま突っ走りますよ!」
超慈が階段を勢いよく駆け上がっていく。クリスティーナはその後ろ姿を見ながらため息交じりで続く。
「さすがに考えなさすぎだと思うんだけど……まあ、賽は投げられたってやつか……」
階段を上がると、見張りが数名、超慈たちに気が付く。
「む! なんだ、お前ら!」
「おらあ!」
「げはっ!」
「こらあ!」
「ぬはっ!」
見張りを次々と倒して、超慈たちは上の階に進む。
「良い調子だぜ!」
「口当たりなめらかでつるつるしている~♪」
「人当たり舐められたら負けで、ギラギラしている?」
「それは気志團じゃ! 私が言っているのはきしめん!」
「ぐはあっ⁉」
2人の男女のやりとりから火が燃え上がり、超慈が思わず倒れ込む。それを見てクリスティーナが舌打ちをする。
「ちっ、部長の読みが的中しちゃったか……」
「思わぬ対面だがね、クリス……」
「出来ればこんなかたちで会いとうはなかったけど……」
暗がりから茶色い短髪の男子と黒髪ロングの女子が歩み寄ってくる。合魂サークルの代表、水上日輪と副代表の深田奈々である。クリスティーナは軽く会釈をする。
「……どうも」
「クリス、サークルに戻ってこんかね? おみゃーさんはやはり惜しい……」
水上がクリスティーナの豊満な身体を舐め回すように見つめながら笑顔で呟く。
「せい!」
「どわっ⁉ な、奈々、いきなり何をするんだぎゃ⁉」
深田の強烈な回し蹴りを後頭部に喰らい、水上は憤慨する。
「視線と言い方がいやらしい……私というものがありながら……」
「お、男の性みたいなものだがね。クリスの力が惜しいのはおみゃーさんも同意だろう?」
「それは確かに……」
「というわけでクリス、戻ってこい」
水上が満面の笑みで手招きをする。クリスティーナは構えを取って呟く。
「……先日の今日で、またそちらに戻るというのはさすがに無理な話ですね」
「はあ……しょうがにゃーね……」
「覚悟は出来とるということね?」
「……!」
対面する水上と深田の魂破が急激に高まってくるのをクリスティーナは感じる。
「奈々、最近わしは悩んでおってな……」
「へえ、珍しい……」
「鶏が先か、卵が先か、手羽先か、それが問題だがね……」
「一つ余計なの混じっとる!」
「ぐうっ!」
水上らの軽妙なやりとりから爆発が起こり、先ほどよりも大きな火が燃え上がる。クリスティーナは後退を余儀なくされる。水上が感心する。
「ほお~今のをかわすとは……流石のステップだがね」
「クリスはダンスやっておるからね」
深田がさっと髪をかきあげる。クリスティーナが自身の服にわずかに燃え移った火を消しながら苦々しく呟く。
「これが『漫才魂火』……! 今のように『フリ』『ボケ』『ツッコミ』が上手く決まると、爆発に近い現象が起きる……!」
「そんなわざわざ解説せんでも……」
「いや、クリスと本格的に手合わせするのは初めてじゃなかったか?」
「……そう言われるとそうだがね」
水上の冷静な分析に深田が頷く。水上が両手を広げる。
「さてと、気は変わったかね? 降参するなら今なんだわ……」
(二対一で不利な状況……向こうの連携は抜群……付け入る隙はないか?)
「うおお!」
「⁉」
超慈が咆哮を上げながら立ち上がり、クリスティーナたちは驚く。水上が呟く。
「へえ、さっさとくたばったかと思ったのに……」
「くたばるかよ! ラブラブなカップルの癖に、2人揃って合魂に参加しやがって! 彼女さんはともかく、てめえだけは絶対に許さねえ!」
「だ、だから、合コン違いだがね!」
「問答無用!」
超慈が魂択刀を水上に向ける。水上がやや気圧される。
「も、もの凄い殺気を向けられとる……」
「以前のような急激な魂力の高まり……これは捨て置けないわね、アンタ!」
「ああ、分かっとる! 2人まとめて始末する!」
「……来る!」
「中運天先輩! 俺が合わせます! 踊って下さい!」
「ええっ⁉」
「早く!」
「わ、分かった! ~~♪」
「! な、何をするつもり⁉」
「こうするつもりだ!」
音楽とともに踊り出したクリスティーナに続き、超慈も奇天烈なダンスのようななにかを踊り始める。当然だが、両者のダンスは全然嚙み合っていない。水上が困惑する。
「な、なんじゃ⁉ コンビネーションダンスでもするかと思ったら、片方はダンスとはとても呼べない代物! ひょ、ひょっとして、これが『魂天保羅利伊舞踊』というものか⁉」
「アンタ、考え過ぎ! それより迎撃を!」
「はっ! そ、そうか!」
「遅いぜ!」
「むうっ!」
超慈の振るった刀が水上を斬る。水上は体を抑えながら後ずさりする。深田が叫ぶ。
「ここは撤退よ!」
「まだ動けるか⁉ 待て、逃がすかよ!」
「待った! 超慈ちゃん! 追撃よりむしろ優先すべきは生徒会だよ。先を急ごう」
「は、はい……」
クリスティーナの呼びかけに超慈は平静さを取り戻し、上のフロアを目指す。
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