「ぐはっ……」
建物の東側の出入り口で見張りに立っていた生徒たちがぞろぞろと倒れる。
「さてと……」
「堂々と乗り込むとは……」
亜門に対しステラは意外そうに語りかける。
「忍び込んでもどうせ魂力を察知されるのがオチでしょう? それならば余計な小細工は必要ありません」
「確かに一理あるね……」
「とはいえ、殺到されても面倒です。さっさと上のフロアに行きましょう」
亜門が走り出し、ステラもそれに続く。階段を上がりながらステラが呟く。
「……案外警備は薄かったりする?」
「そうだと良いのですが……!」
「!」
広い空間に出た亜門たちに向かって大きな影が襲いかかり、亜門たちが左右に飛んでそれをなんとかかわす。
「へえ、よくかわしたね」
スラっとしたスタイルでオシャレな眼鏡をかけ、髪型もキッチリとセットした作業着姿の男性が端正な顔を崩して笑う。亜門が声を上げる。
「貴様……茂庭永久!」
「やあ、また会ったね」
「ここで会ったが百年目だ!」
亜門が魂旋刀を構える。茂庭が冷静に分析する。
「蛇腹剣のような特殊な形状の刀か……それを絡ませられると厄介だね……だが!」
「む!」
「接近してしまえば良い!」
茂庭が乗り物のスピードを上げ、亜門との距離を一気に詰める。
「早い!」
「魂場隠の突進を喰らえ!」
「ちっ!」
亜門は天井の照明器具に魂旋刀を絡ませ、上に飛んで魂場隠の突進をかわす。茂庭が驚く。
「上に飛ぶとは器用な真似を!」
「そっちもスピードが上がっているんじゃねえか?」
「君には辛酸を舐めさせられたからね……」
「もう一度味合わせてやるよ!」
「やってみなよ!」
亜門が天井から勢いよく飛びかかる。茂庭が魂場隠を後退させてそれを避ける。
「くっ!」
「どうだい?」
「気を抜くなよ! 追い打ちだ!」
床に降りた亜門が魂旋刀を伸ばす。
「甘いよ!」
「⁉」
茂庭が魂場隠を旋回させ、魂旋刀を弾く。
「そんなものかい⁉」
「ちっ、結構なスピードだな。魂旋刀を絡ませらねえ……」
亜門が舌打ちする。茂庭が笑う。
「前回は駆動部に異常を発生させられたからね、同じ轍は踏まないよ!」
茂庭は旋回を止めたかと思うと、今度は後退し、さらに横に曲がってみせる。亜門が苦々しい表情で呟く。
「好き勝手に動き回りやがって……」
「縦横無尽と言って欲しいな! それ!」
「くっ!」
茂庭が急加速する。亜門の反応が遅れる。茂庭が声を上げる。
「もらった!」
「させない! 『糸魂蒻』!」
「むっ⁉」
「釘井先輩!」
ステラが発生させた糸が茂庭自身の体を絡み取った。
「それ!」
「ぐはっ!」
ステラが引っ張り、茂庭が魂場隠から転げ落ちる。亜門は横に飛んで魂場隠の突進をなんとかかわす。ステラが苦笑する。
「茂庭パイセン細身だけど……やっぱりそれなりに重いですね」
「誰かと思えば釘井さんか……」
茂庭はゆっくりと立ち上がりながらステラを確認する。
「どうも、お久しぶりです」
「こんなことをしでかしてくれるとは……本格的に同好会には戻ってこないという意思表示と受け取って良いのかな?」
「そうなりますね」
「……覚悟はあるのかい?」
茂庭の眼鏡がキラッと光る。ステラが叫ぶ。
「何を今更! 『玉魂蒻』!」
「『魂場引』!」
「なっ⁉」
ステラの投げた玉が、茂庭が腕を掲げて生じさせた黒い穴に吸い込まれる。亜門が戸惑う。
「そ、そんなことも出来るのか……?」
「魂道具の発展形っていうやつだね。まさか君たち相手に使うとは思わなかったけど」
「ま、まさか……」
「言っておくけど、驚くのはまだ早いよ?」
「何⁉」
「吸引するということはその反対も可能ということだ!」
茂庭が再び腕を掲げ、黒い穴から玉が飛び出す。玉はステラに向かって飛び、彼女の足元に着弾すると派手に爆発する。ステラが悲鳴を上げながら倒れ込む。
「きゃあ!」
「先輩!」
「厄介なのが1人消えた……さて、改めて君の出番だ」
茂庭が亜門の方に向き直る。
「くっ……」
「どうする?」
「……こうするまでだ!」
亜門が茂庭に向かって突っ込む。茂庭は一瞬困惑するが、すぐに平静さを取り戻して笑う。
「シンプルに刀で一太刀浴びせようという腹かい? 悪いが、それは出来ない相談だよ!」
「ぐっ⁉」
茂庭が両手を掲げると二つの黒い穴が発生し、凄まじい吸引力で亜門を吸い込もうとする。亜門の顔が歪む。
「手前に吸い込んだところにパンチをお見舞いしてあげようか⁉ 綺麗な顔だ! 殴られたことなんてないだろう!」
「ぶたれたことくらいある! ただ、今日はお断りだ!」
「なっ⁉」
茂庭が驚く。亜門が魂旋刀を絡ませた魂場隠を投げ込んできたからである。
「返すぜ! ちゃんと受け取りな!」
「しまっ……ぐはあっ!」
魂場隠の直撃を喰らった茂庭は窓を突き破り、下に落下する。亜門が覗き込む。
「ちっ、勢いをつけ過ぎたか……下に戻って魂力を吸い取るか?」
「いや、そんな時間はないよ。とりあえず放っておこう」
「先輩……大丈夫ですか?」
「なんとかね……目的はあくまで生徒会打倒だ。体力は出来る限り温存して上に行こう」
ステラが上方を指し示す。亜門は無言で頷く。
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