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「……以上、報告になります」
部室で四季の報告を受け、姫乃は頷く。
「水上と深田と遭遇して、よくぞ無事で戻ったな」
「正直間一髪でした」
「あのカップルの連携は厄介だからな」
「カップル……相手がいるのに、合魂に参加するなんて……」
端の席で超慈がブツブツと呟く。姫乃が首を傾げながら、超慈を指差して尋ねる。
「優月の奴はどうしたのだ?」
「僻みです」
「妬みです」
「嫉みです」
四季とステラと瑠衣が立て続けに私見を述べる。超慈が慌てる。
「そ、そんな一言で片づけないでくださいよ!」
「まあ、それはいいとして……クリス、よく戻ってきてくれたな」
「合魂サークルが半壊状態ですからね、そりゃあ戻ってくるしかないでしょうよ……」
褐色の女性は両手を広げて部室の天井を仰ぐ。
「不満か?」
「本当に不満が残っているならここにはいませんよ」
「ということは?」
「合魂部の為に、懸命に踊らせてもらいますよ♪」
クリスティーナは姫乃を見てウインクする。姫乃が笑う。
「それはなによりだ。今後も頼むぞ」
「それで工業科の方ですが……」
四季が姫乃に説明を求める。
「ふむ、礼沢、簡単にで構わんから説明を頼む」
「……俺がですか?」
姫乃の言葉に亜門が眉をひそめる。
「ああ、流れを把握しており、分かりやすく言語化出来るのは貴様だけだからな」
「部長は……」
「私はなんとなくしか把握していないし、言語化するよりも感覚で捉える方だからな」
「ええ……」
「その都度補足は入れる。だから説明を頼む」
「はあ……まず朝日先輩が斥候として先行し、工業科の校舎に潜入してもらいました……」
「俺って斥候だったのか、ジンジン⁉」
「ジンジン⁉ ……と、とにかく今は礼沢の報告中ですから……」
燦太郎のマイペースぶりに戸惑いながらも、仁は報告の邪魔をしないようにする。
「……苦戦の末、朝日先輩、自分、外國の3人でなんとか、桜花先輩を制圧しました」
「油断した~」
爛漫が机に突っ伏す。ステラが感心する。
「部長抜きで爛漫っちを制圧とは……やりますね」
「うむ、うれしい誤算というやつだった。お陰でその後の夜明戦に魂力を温存できたからな」
「……夜明さんとは同じ土俵に上がったのですか?」
四季が眼鏡をクイっと上げて尋ねる。姫乃が首を振って答える。
「そのようなことはしない。人数的には有利だったからな。なんとか隙を作りだして、接近戦に持ち込んだ。仕留め損なったが」
「……まさか仕込み杖だとは思いませんでした」
「中に刀を仕込んでいたんすね。どおりで特別トレーニングのときも二刀流を杖で簡単にいなされるなとは思ったんですが……」
亜門の言葉に超慈が反応する。亜門は黙って姫乃を見つめる。姫乃が尋ねる。
「どうした?」
「……まさかそれが奥の手というわけではないでしょう?」
「ふむ、鋭いな。他にも色々と仕込んでいるぞ?」
「まきびしとか⁉」
「いや、鬼龍、お前の物差しで考えるなよ……」
瑠衣の言葉を仁が否定する。姫乃が笑みを浮かべる。
「それは今後のお楽しみだ」
「出たね、部長の秘密主義! 合魂部に戻ってきた気がするよ~」
クリスティーナが頭を抱えながら苦笑する。燦太郎が爛漫に尋ねる。
「爛漫! なにか知っているだろう⁉」
「ギクっ⁉ な、なにを根拠にそんなことを……」
「確かに悪だくみはしてそうですからね……」
「四季ちゃんまで⁉ ひ、ひどくない⁉」
「部長の杖に何を仕込んだのさ?」
ステラも悪戯っぽい笑みを浮かべながら問う。
「しゅ、守秘義務というものがあるからね! 答えられないよ!」
「答えたようなもんだけど……」
久々に合魂部に戻ってきた5人の二年生たちを中心に話が弾んできだ。超慈たち一年生は自然とその輪から離れ、観察するように見守る。亜門が口を開く。
「この5人の先輩方が戻ってきたということは、部長は本格的に動き出すな」
「俺らを合わせても10人だぞ。少なすぎないか?」
仁がもっともな疑問を口にする。亜門が答える。
「少数精鋭という言葉もある。人数がいたずらに多ければ良いというものではない」
「そうは言うが……」
「ならば、あの先輩たちを今一度確認してみようか。まずは『竹村四季』先輩。魂道具は『魂昔物語集』、昔の説話を再現したり、それに近い不可思議な現象を発生することが出来る」
「水とかも出せるし、わりとなんでもありだし……」
瑠衣が呆れ気味に呟く。亜門が頷く。
「そうだ、お前を『物理アタッカー』とするなら『魔法アタッカー』という役回りかな。距離や状況を問わない攻撃や援護方法だ。子供じみた言い方だが貴重な魔法使いだな」
「では、『釘井ステラ』先輩だが……」
「魂道具は『魂蒻』、板状だけでなく、糸や玉に変化出来るのは相手にとって厄介だ」
「前衛だけでなく、援護もしてくれるからな……役割は?」
「強いて言うなら『物理アタッカー兼サポーター』だろうな」
仁の問いに亜門は答える。超慈が不思議そうに尋ねる。
「玉魂蒻がたまに爆発するのはどういう理屈だ?」
「さあな、魂道具の練り込みの賜物だろう」
「魂道具、半端ねえな……」
「続けるぞ、『朝日燦太郎』先輩、魂道具は『魂武亜棲』。超スピードで走ることが出来る。基本的な運動能力は高いが、役回りとしては『特殊能力持ち』と言ったところか」
「その俊足を活かすも殺すもこちら次第でござるか……」
瑠衣がうんうんと頷く。亜門が呆れる。
「活かされる側のお前が言うな……次は『中運天クリスティーナ』先輩、魂道具は『魂天保羅利伊舞踏』……竹村先輩の報告によると、独特のダンスを舞うことによって自身の力をアップさせたり、反対に相手の力をダウンさせたりすることが出来るそうだな?」
「うむ、そんな感じでござったな」
亜門の問いに瑠衣が頷く。亜門は淡々と分析する。
「味方にバフ効果、相手にデバフ効果……『バッファー兼デバッファー』って役回りか」
「体格も良いから、戦闘もある程度いけると思うぜ」
超慈の言葉に亜門が頷く。
「それは頼もしい限りだ……最後は『桜花爛漫』先輩、魂道具は『魂波凄』……」
「礼沢、お前も見たようにあの円を用いた戦い方は相手にしたら面倒だぜ? 役回りは?」
「そうだな、強いていうなら『魔法アタッカー兼サポーター』か……結論として戦い方に幅を持たせられる5人が加わってくれたな……」
「そうだ!」
「部長⁉」
いつの間にか背後に立っていた姫乃に亜門たちは驚く。姫乃が高らかに宣言する。
「早速特別トレーニングに入るぞ!」
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