「反撃準備とは言いますが……具体的にはどのようにお考えですか?」
四季が冷静に姫乃に尋ねる。
「天下の生徒会が通常の学校生活を送っている生徒には襲ってはこないだろう。ただ、念の為に単独行動は避けていた方が無難だな。連絡も互いに密に取り合えるようにしておこう」
姫乃が淡々と説明する。四季が首を傾げる。
「しばらくは大人しくすると?」
「いや、この旧部室棟を使おう。ほとんど出入りしている者が少ないからな。気付かれにくいはずだ。ここで1人1人のレベルアップを重点的に図る」
「会長と同じようなことを言いますが……こちらが牙を研ぐのを黙って見てくれているとはとても思えません」
四季が眼鏡の縁を触りながら答える。姫乃は頷く。
「そうだろうな。時間的な猶予はせいぜい一週間くらいだろう」
「一週間ですか……」
「その一週間の内の四日で一年生1人ずつを鍛え、残りの二日間で二年生の特別トレーニング。最終日で見極めを行う」
「見極めですか?」
「ああ」
「何の?」
「それは最終日になってからのお楽しみだ」
笑顔を浮かべる姫乃に対し、四季は頭を抱える。
「はあ……とにかく、今日は解散でよろしいですか?」
「ああ、念の為、学内では2人か3人で行動するようにしろよ。学外まではちょっかいをかけてはこないはずだ……恐らく」
「不安なのですが……」
亜門が目を細めながら呟く。燦太郎が声をかける。
「俺も通い組だ! 不安なら一緒に帰ってやってもいいぞ、アーモンド!」
「結構です。1人で帰れます」
亜門はスタスタと歩き出す。燦太郎が慌てて追いかける。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれよ~!」
「俺も途中までは一緒だから、お先に失礼します!」
仁が一礼し、亜門たちの後を追って歩き出す。姫乃が口を開く。
「後は大体寮生か、ならば心配は要らんな」
「いや、むしろ心配なんですが⁉」
超慈がもっともな疑問をぶつける。姫乃は落ち着いて答える。
「寮内での如何なる騒動も禁止されている。そこで騒ぐ馬鹿はいない」
「そ、そうですか……?」
「そうだ、だから安心して今日は体を休めろ」
「反撃準備は?」
「明日からの話だ」
「そ、そうですか。それでは失礼します!」
「お疲れさまで~す」
超慈と爛漫が去っていく。その後ろ姿を眺めながら、姫乃が呟く。
「女子寮組、細心の注意を払ってくれ。さっきの今夜はないとは思うが」
「来たときに考えるよ♪」
「クリスティーナ……考えるのが面倒になったでしょ?」
「そうとも言う……さすが鋭いねステラ♪」
「大体分かるよ、アンタの考えそうなこと」
「クリスもステラもけして無理はしてくれるな……それに鬼龍」
「はっ!」
「男子寮の方でおかしなことがあったら教えてくれ」
「かしこまり」
「よし、解散だ! 今日はご苦労だった」
3人を見送り、四季が問う。
「一週間の猶予……かなり希望的な観測ではありませんか?」
「結果的にではあるが、色々と蒔いた種が実になりそうではある……」
「蒔いた種?」
「その内分かる……そろそろ帰るぞ、家に帰るまでが合魂だからな」
姫乃と四季が帰路につく。その日の夜は何事もなく明け、合魂部のメンバーは昼間まるで何事もなかったかのように振る舞い、放課後、旧部室棟に集まり、バトルフィールドを展開し、特別トレーニングを開始するのであった。
「……準備出来ました」
「よし、礼沢亜門。貴様の場合は純粋な戦闘能力はもちろんのこと、戦闘センスや冷静な状況判断力なども兼ね備えており、ほぼ言うことはない」
「ありがとうございます」
「とはいえ、戦い方はもう少し練り込む必要があるな」
「戦い方……ですか?」
「そうだ。例えば……!」
「うっ⁉」
亜門の首筋に姫乃が魂杖を突きつける。
「魂旋刀のリーチを活かすことに囚われ過ぎている。接近戦についても想定しておけ」
「……はい」
亜門が頷く。そして翌日……。
「鬼龍瑠衣……戦闘能力に関してはほとんど文句のつけようがないな」
「ありがとうございますでござるだし!」
「……直すところは強いて言うなら、そのキャラのブレ具合だな」
「え?」
「まあ、それは冗談だとして……私に打ち込んでこい」
姫乃が両手を大きく広げる。瑠衣が戸惑う。
「え……」
「いつでも構わんぞ」
「……ならば! ⁉」
瑠衣が素早い動きで姫乃に襲いかかったが、姫乃はこともなげに受け止める。
「ふむ……思った通りだな。ふん!」
「くっ!」
姫乃に押し返され、瑠衣は距離を取る。
「体格の問題もあるから致し方ない部分もあるが、一撃がどうしても軽いな。スピードを出来るだけ損なわずに一撃の破壊力をもう少し上げてみろ」
「しょ、承知……」
瑠衣が頷く。さらに次の日……。
「うおっ!」
姫乃が魂杖で仁を抑え込む。
「外國仁……身体能力の高さは申し分ないな。ただ、ヒット&アウェイを心掛けろ」
「ヒ、ヒット&アウェイですか?」
「相手の懐に入ってそれでおしまいというわけではない、一撃を加えて即離脱するということを考えてみろ。あるいはその逆のパターンもな」
「わ、分かりました……ご指導ありがとうございます」
抑え込まれたまま、仁は頭を下げる。さらにその次の日……。
「ぐえっ! どわっ! ちょ、ちょっと待って下さい……」
「実戦で相手は待ってくれんぞ」
「そ、それはもちろん分かっているつもりです……ただ、なんで俺の時だけ先輩方が全員一斉にかかってこられるんですか⁉ 昨日まで基本マンツーマンでしたよね⁉」
「優月超慈……貴様の場合はとにかく打たれ強さを磨け。後はまあ……時間的節約だな」
「そ、そんな⁉」
「各人、続けろ」
姫乃がメンバーに指示を出す。超慈の悲鳴を聞きながら、四季が尋ねる。
「見極めは進んでいますか?」
「大体な……」
姫乃は腕を組みながら頷く。
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