「ぶ、部長⁉」
仁が驚く。亜門が訝しげに尋ねる。
「……大丈夫なんですか?」
「ああ、基本的体力も戻り、魂力も回復してきた。そろそろ本気を出せるぞ」
姫乃が笑顔で首の骨をコキコキと鳴らす。仁が小声で亜門に問う。
「……どう思う?」
「おっしゃっている本気がどの程度なのか分からんが、全面的に頼るのは不安だ。基本は俺たちでなんとかする方向で行くぞ」
「わ、分かった」
「さあ、燦太郎に続くか」
姫乃が声をかけ、3人は校舎に入る。校舎内には倒れた男女数人の姿がある。
「こ、これは……」
「……思った以上にこちらの奇襲が効果あったようだな」
仁の呟きに姫乃が反応する。亜門が口を開く。
「とはいえ、朝日先輩1人では限界があるはずです。早く合流しましょう」
「そうだな……こっちだ」
姫乃は亜門たちを案内する。天井のひときわ高い部屋に出て、仁が首を傾げる。
「こ、ここは?」
「工業科の作業場のようなものだ」
仁の疑問に姫乃が答える。亜門は周囲をさっと見渡すとうずくまる燦太郎を見つける。
「む? 朝日先輩、どうかしましたか?」
「おおっ、来たか! いや、靴ひもがほどけたので直していた! ……これで良し!」
燦太郎が立ち上がる。姫乃が頷く。
「よし、先に進むか……」
「そこまでだ!」
「!」
姫乃たちが先に進もうとすると、3人の男子生徒が姿を現した。
「合魂部の連中だな! これ以上先には進ませんぞ!」
「俺たち合魂愛好会の四人衆が相手だ!」
「四人衆?」
仁が首を捻る。姫乃が呟く。
「一人いないようだが……」
姫乃の言葉に3人が動揺する。
「なっ⁉ あ、あいつ、どこに行った⁉」
「わ、分からん!」
「ど、動揺するな! 俺たちだけでも十分だ!」
3人のやりとりを見ながら、亜門が姫乃に尋ねる。
「合魂愛好会の四人衆……ご存知ですか?」
「さあな。この手の連中をいちいち覚えていたらキリがない……」
「なるほど。要は雑兵に毛が生えたようなもんですね」
「な、なにを⁉ 生意気な! お前らやるぞ!」
「俺が行く!」
1人の男子が飛び出す。燦太郎が姫乃たちの前に進み出る。
「ここは俺に任せろ!」
「ふん!」
「どわっ⁉」
男子が手をかざすと、男子に飛びかかろうとした燦太郎が体勢を崩し、横滑りしていく。それを見て仁が戸惑う。
「なっ⁉ 触れてないのに転倒させられた⁉」
「ふん、見たか。俺の……」
「ベルト状のものが周囲に張り巡らされているな、さながら『部流戸魂部亜』か……」
「お、おう……と、とにかく、この魂道具で貴様は俺には近づけんぞ!」
亜門の鋭い分析に男子は困惑するが、気を取り直して叫ぶ。燦太郎が呟く。
「なるほどな……」
「この魂部亜はスピードも自在に変えることが出来るぞ!」
「スピード勝負だったらこちらに分があるぜ!」
「なっ⁉」
燦太郎は魂武亜棲を光らせて突っ走り、あっという間に男子との距離を詰める。
「懐に入ったぜ!」
「ば、馬鹿な! 高速で動くベルトを逆走するだと⁉」
「おらあ!」
「ぐはっ!」
燦太郎が足を振り上げ、男子を蹴り倒す。動かなくなった男子に歩み寄って呟く。
「お持ち還りだぜ……」
「や、やられただと⁉ くそ、ならば俺が行く!」
2人目の男子が飛び出す。仁が迎撃する。
「今度は俺の番だ!」
「そんな棍棒で何が出来る!」
「⁉ 危ない⁉」
男子が手を鋭く振り下ろす。仁は咄嗟にかわす。地面が焼ける。
「ふっ、よくかわしたな。俺の……」
「あの切れ味……電線管をねじり切る『魂嫉妬機械』といったところか……」
「お、おう……と、とにかく、この魂道具で貴様は俺とはまともに打ち合えんぞ!」
亜門の的確な分析に男子は困惑するが、気を取り直して叫ぶ。仁が呟く。
「打ち合わなきゃいいだけのことだろう!」
「む⁉」
仁が魂棒を二本とも投げて、男子に当てる。男子は思わず体勢を崩す。
「ただ持って歩くだけじゃないんだよ! そらっ!」
「どはっ!」
仁は二回側転すると、男子の懐にすっと入り込み、鳩尾に蹴りを喰らわせ、さらに宙を舞っていた魂棒を掴むと、間髪入れず男子を殴る。男子は仰向けに倒れて、仁が呟く。
「お持ち還りだな……」
「くっ! どいつもこいつも! こうなったら俺がやる!」
最後に残った男子が叫ぶ。亜門が呟く。
「俺が相手しよう……」
「うおおっ!」
男子が掲げた物体から水流が出て、亜門に当たりそうになるが、亜門はなんとかかわす。
「む!」
「よく避けたな! これが俺の……」
「まるで『魂圧縮機』だな……」
「な、なんでお前、さっきから先に言ってしまうんだ! 少しは空気を読め!」
男子が怒りながら、魂圧縮機を亜門に向ける。
「ふん!」
「なっ⁉」
亜門の振るった魂旋刀によって弾かれた魂圧縮機から噴出された水が自らに思いっきりかかり、男子はずぶ濡れとなってしまう。亜門は笑う。
「水も滴るいい男になったぞ……『放電』!」
「どわあっ⁉」
亜門の振るった刀から電気が流れ、男子が感電して倒れる。亜門が静かに呟く。
「お持ち還りだ……むっ!」
「すっかり出遅れてしまった! こうなったら四人衆の紅一点の私がまとめて倒すわ!」
そこに女子生徒の運転するミキサー車が突っ込んでくる。仁が驚いて叫ぶ。
「く、車だと⁉ 危ない! って、ええっ⁉」
「来てくれて良かった。出番がないかと思ったぞ……」
勢いよく突っ込んできた車に対し姫乃が杖を立てて、その動きを止めてみせる。
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