冷血女皇様は糖分を摂れば激甘女皇様に大変身!〜お嬢様?なぜ私が女性と会話するとキレるのですか?お嬢様?お嬢様ー!

第一話
リヒト
リヒト

第十七話

公開日時: 2022年5月5日(木) 13:00
文字数:3,143

「ん?」


 ……。

 …………。

 仮面さんの純粋な疑問。もうこの時点で私の心は折れそうになる。私は仮面さんに何を言わせようとしているの……。


「え、えっと」


 だけど、私は止まるわけには行かない。


「霧音はInしている?」


「ん?霧音?まだしてないね」


 よし!霧音は頂いた!後はあの一言がくれば……!


「というか、さらっとリアルの名前言ったけどいいの?」


 来たァァァァァァァアアアアアアアア!!!

 流石は仮面さん!仮面さんなら心配してその一言を言ってくれると信じていたのだ。

 ……あぁ、胸が痛い……仮面さんの良心を利用している私は死ぬべきだと思う。

 でも、この罪悪感にすら興奮している私がどこかにいるのは確かだった。


「大丈夫ですよ。あ、私の名前雨宮理沙って言うんです」


「いきなりどうした!?」


 いきなり本名を名乗った私に仮面さんが驚いたような声を上げる。


「男の子に名前を呼ばれて嬉しくない女の子はいないんです!私の名前を読んでください!」


「え……?理沙?」


「はぁん!」


 良い……。理沙……、良い!すっごく良い!

 興奮する。理性が溶けていくのを感じる。


「えっ……そんななん……?」


 仮面さんの少し引いたような声は今の私に届かない。

 

「おーい!戻ってきてー!」


「はっ!?ご、ご、ご、ごめんなさい!」


「んー?別にいいよ。謝られることの程でもないよ」


「あ、ありがとうございます」


 天使……天使すぎるよ……仮面さん。優しすぎる……。私なんかが仮面さんと話していることが申し訳なくなってくる。


「えっとですね、【神無月】の名前が神崎鈴鹿。【侍ちゃん】の名前が老田愛梨です!」


「……ん?これは一応覚えておいたほうが良いのかな?」


「はい。覚えてくれるとありがたいです。私と霧音だけだと嫉妬されてしまいますので」


「あぁ、なるほどね。鈴鹿……愛梨……。ん。覚えた」


「わざわざありがとうございます!」


 良し!これでみんなの分の名前は獲得した!

 次は言葉だ。

 私は自分の手元に置かれている紙を見る。ここにまだマシな言葉が書いてある。

『俺のうんちとおしっこ飲んでいいぜ?』

『叩いて!そのムチで私を強く叩いて!』

『このド変態がッ!』

『許してくださいご主人さま……』

『私は卑しい雄豚です……』

 ん?……ま、し?

 これが?マシ?どこが?よく見てみると書かれている言葉はどれも日常世界津で絶対に言わないやばい言葉だけだった。

 あまりにもやばいのが多すぎて私の感覚がバグっていた……?

『ピ───────! ピ───────────!!!』

 とかやばすぎる。

 こ、こんなものをか、仮面さんによ、読んでもらうとか……不潔!し、信じられない


「う、うんち!」


 私は高らかに大声を張り上げる。


「はぁ?」


「うんち見たんですよね!」

 


 うんちと。

 


「は?え?……ん?」


 イヤホンから仮面さんの戸惑った声が聞こえてくる。


 な、何を……何を言っているのだ私は!?アホなのか!?

「……いや、なんでも無いです」


「え、あ……そう」


 バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!

 私のバカァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 焦りすぎよ!脈絡なくいきなりうんち!なんて叫ぶなんて正気の沙汰じゃないわ!


 もうすでに1時間。1時間経っていた。

 にもかかわらず私が引き出せた言葉はみんなの名前と『好き』と『大好き』だけ。

 言わせなきゃいけない言葉が書かれた紙の厚みはノート一冊分くらいになるというのに。

 次……言わせそうな言葉……ド変態……雄豚、ムチ……。

 無理だぁぁぁぁぁあああああああ!


「そ、そういえばなんか町を徘徊するド変態がいるらしいんですけど……」


 それでもなんとかしようと奮起する。殺されたくない。


「え?下半身露出してうんちしている人?」


 うんち!キタ!


「あ、違います。うんちは関係ないです」


「あ、ないのね。……じゃあうんちは何?」


「なんでも無いので、気にしないでください!」


 ……あぁ。なんでいきなりうんちなんて言ってしまったんだ……。


「それでそんなド変態のことどう思う?」


「んー、別にどうとも思わないなぁー。ド変態って、この世界の女の子全員ド変態じゃん」


 はうっ!

 

「え、えっと……ムチってどう思います!?」


 私はこのままこの話を続けるのはまずいと判断した私は話題を逸らすためにたまたま目に入った言葉を大声で告げる。

 ……何を口走っているの?私は。


「えぇ!?ムチ!?いきなり何!?話題を逸らすにしてもなんでムチ!?もっと別の何かなかったの?」


「うぅぅぅうううう」


 私は変なうねり声を上げることしか出来ない。

 さっきから変なことしか言っていない。

 もうだめだぁ。私なんかが何か出来るわけがなかったんだぁ。

 

「……もしかして僕になにか言わせようとしている?」

 

 ……ゑ?


「うんち……ド変態……ムチ……普通では出てこないような変態的な言葉。……あぁ、なるほどね。僕の言葉をつなぎ合わせて合成するのかな?だからこその本名か!言わられるのならゲームでの名前じゃなくて本名のほうがいいよね!」


 ……。

 …………ゑ?


「なるほどね。完全に理解したいわ。それで?僕に何を言ってほしいの?なんでも言うよ?……このド変態共がァ!!!とでも言えばいい?」


 イヤホンから仮面さんの楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 

 

 ゑ?




 ……。

 …………。

 ふむ。

 『何を言ってほしい?なんでも言うよ?』か。

 なるほど。


「ごめんなさい。もう一度言ってもらえますか?」


「え?聞き取れなかった?もう一回言うよ。何を言ってほしい?なんでも言ってあげるよ?」


 ……。

 …………。

 なるほど。


「ごめんなさい。もう一度言ってもらえますか?」


「嫌だよ!確実に聞こえていたでしょ!本当に聞こえていないん?僕の滑舌ってそんなに悪いん?え?僕の滑舌って実は死んでいるの?息していないの?」


「あ!別にそういうわけじゃないの!……えっと、その正気ですか……?」


 ……なんでも言ってあげる……?

 なんでも言ってあげる!?


「おん。別に構わんよ?あ、じゃあ交換条件として水面には僕の言ってもらいたいことを言ってもらおうかな!」


「そ、そんなことで許されるのであればいくらでも構いません!……本当に良いんですか?」


「うん。とりあえず言ってほしいことを全部ノートか何かにまとめて写メ送ってほしいな」


「わかりました」


 私は厚さにしてノート一冊分になる紙を一枚一枚写真に撮り、仮面さんに送っていく。


 10分ほどしてようやく送り終えた。


「すっごい量だな」


 仮面さんは送られてきた量に少し引き気味だ。

 まぁそれも当然だろう。

 私だってこの量には引いている。


「ほ、本当にい、いいんですか?……特にここに書かれている『ピ───────! ピ───────────!!!』とか」


「別にいいけど。……水面ってば案外すごいんだね……」


「あ!これはギルドのみんなの分です!わ、私はこ、こんななの恥ずかして無理です!頼めません!その……理沙大好き(はぁと)とか言ってくれれば……」


「あら、純情。あぁー、ごめんだけど、僕Mの気はこれぽっちもないから、Mっぽい言葉は嫌かな」


「別に構いません!」


 それくらい良いだろう。むしろMっぽい言葉以外はオッケイというのが本来ならありえないのだ。


「ちょ!俺のうんちとおしっこ飲んでいいぜ?……って何!?うんち飲むとは?うんち食べるだろ」


 ……え?そこ?

 引かないの?かなりやばい言葉だと思うんだけど。


「とりあえずは全員分の名前に大好き(はぁと)をやっていくか」


 仮面さんはかなり心を込めて一言一言話していく。


「理沙大好き(はぁと)」


 んっ!?!?

 衝撃。

 甘美な響き。

 気絶しかける。

 だが、なんとか耐える。悟りを開いててよかった。

 

「このド変態がッ!卑しい雌豚がッ!」

 

 彼は告げていく。

 霧音が書いたドSな言葉を。


「はぅん!!!」

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