金庫室内でのガーディアンドールとの戦い。
金庫に付いてる眼球が小五月蝿く語る。
『どうした冒険者。逃げてばかりじゃあないか!』
俺は逃げているのではない。
ガーディアンドールの攻撃を躱しているのだ。
確かに反撃の暇は無いよ。
でも、逃げてはいないのだ!!
ガーディアンドールが風を切って逆水平に手刀を振るった。
俺は体を反らして、顔を狙う手刀を回避する。
だが、ガーディアンドールの掌内から刀身が伸び出てリーチを広げる。
刀身が俺の頬に迫った。
瞬時に俺は考える。
このままでは顔面をザックリと切られる。
それは致命傷の深さになるだろう。
不味いな。
俺は反らした背を更に反らして背中から床に倒れてしまった。
そして、倒れた俺の足を狙ってガーディアンドールがローキックを繰り出す。
その爪先からも刀身が伸び出ていた。
俺は体を丸めると膝が顔に付きそうなぐらいまでに身を縮める。
そのままでんぐり返しで後退ると、可憐に立ち上がった。
そこにローキックを空振ったガーディアンドールが逆の足で上段後ろ廻し蹴りを放って来た。
当然ながら踵からは刀身が伸び出ている。
俺は身を屈めて回避した。
そしてバックスェーで後退する。
だが、後退しすぎて壁に背を当てた。
これ以上は後退できない。
ならば!!
「ライトニングボルト!!」
俺は雷撃魔法を繰り出して反撃に出た。
だが、ガーディアンドールの貧相な胸に魔法陣が輝くとライトニングボルトをかき消してしまう。
レジストじゃあないな、あの魔法陣で無効化されたんだ。
「こいつは魔法が効かないのか!?」
俺が愚痴っていると、そこにガーディアンドールが追い討ちを狙って来る。
左のジャブだ。
俺は首だけを傾げて躱した。
すると瞬速の直突きから伸びた刀身が俺の背後にある壁を傷付ける。
続いて中段前蹴り。
俺は体をスピンさせながら横に移動させて回避すると、ガーディアンドールの踵から生えた刀身が壁に刺さって動きが止まる。
隙有りだ!!
俺は僅かな隙すら見逃さずに反撃を繰り出す。
大きく致命傷を狙わずに、次に繋がる確実なダメージを狙う。
俺は手に有るショートソードでガーディアンドールの壁に突き刺さって止まっている右足を狙った。
俺の振るった斬激がガーディアンドールの脛から足をバッサリと斬り裂いた。
更に片足を切断されてよろめくガーディアンドールに、逆手に持っていたロングソードで斬り掛かる。
俺は逆水平に振るったロングソードの一文字斬りに闘志を込めたが躱される。
ガーディアンドールは片足でバク転しながら距離を作った。
「ちっ、躱されたか」
だが、片足を奪えた。
これはデカイぞ。
ナイスな功績である。
これで機動力は半減だ。
もう、勝ったも同然である。
ガーディアンドールは両腕を十字に広げて片足でかかしのようにバランス良く立っていた。
そして、ガーディアンドールが膝を曲げて屈伸する。
来るか?
しかし、次の瞬間には高く跳躍して天井に消えた。
あれ?
落ちて来ない。
俺はマジックトーチで輝くショートソードを上に翳して天井を照らした。
天井には四角い穴があった。
ガーディアンドールはそこに入って行ったのかな?
「あいつ、逃げたぞ」
俺が呟くと扉の眼球が答えた。
『違う、修理だ』
「へぇ?」
するとガーディアンドールが天井の穴から降って来た。
その姿は斬られた足が修復されている。
「この野郎……。新しい足と交換してきたな……」
『ご名答』
うわー、小賢しいー……。
ならばチマチマした攻撃で戦力を削ぐ作戦は通じないかな。
できるだけ一撃で決められるように作戦を変更しよう。
少なくとも修理している暇を与えないように戦わなければならないな。
『くっくっくっ、ガーディアンドール、お前の刃を見せてやれ』
扉の眼球が笑いながら言うと、ガーディアンドールは両腕を広げて胸を張る。
そして次の瞬間には、全身から無数の刀身を露にさせた。
それは殺伐とした光景だった。
掌、肘、肩、爪先、踵、脛、膝、股、腰、腹、胸、首、頬、こめかみ、額、脳天から鋭利な刃が伸び出る。
うわ~……。
全身隠し刃だらけじゃんか……。
あんなのに抱き付かれたら、ズタズタのボロ雑巾になっちゃうよ……。
ガーディアンドールは見せびらかしていた刀身を仕舞うと構えを築く。
なるほどね。
動き回る際は刀身を片付けてるってわけか。
じゃあないと、動き回れないもんな。
自分を傷付けてしまう。
インパクトの瞬間だけ刀身を出すのね。
さて、ならば……。
「今度はこっちから行くぞ!」
俺は左手に持っていたショートソードを振りかぶるとガーディアンドール目掛けて投擲した。
ガーディアンドールは上半身だけを反らして投擲されたショートソードを躱す。
すると的を外したショートソードが金庫の扉に激突して跳ね返った。
『危ないな! ワシに当たるところだったぞ!!』
ウッサイ扉だな。
俺はショートソードを投擲後に、ロングソードを両手で確りと握ってガーディアンドールに斬り掛かった。
袈裟斬り!
しかし、ガーディアンドールは床を滑るように移動して俺の右に移った。
そして移動しながらの中段廻し蹴りで俺の腹を狙って来る。
勿論ガーディアンドールの脛からは刀身が出ていた。
俺はその刃物をロングソードで受け止める。
更に俺の右側を取ったガーディアンドールの上段廻し蹴りが、俺の後頭部に迫る。
俺は視界外から迫る攻撃を察して体をスピンさせながら身を屈めた。
そこからの低い姿勢で、水面蹴りを繰り出す。
回避と攻撃の一体技だ。
足を払ってやるぞ!
蹴り技を使えるのはお前だけじゃあねえんだ!
しかし俺の水面蹴りはガーディアンドールのジャンプで躱された。
更に空中から飛び蹴りを放って来る。
ガーディアンドールの飛び足刀が、しゃがんでいる俺の顔面に迫る。
だが俺は、ロングソードを盾に踵から出ていた刀身を防ぐ。
更に俺は防いだだけじゃあなく、立ち上がる力を利用して体当たりをかました。
肩を突きだし着地したばかりのガーディアンドールの背中に体当たりをいれた。
「くっ!」
ガーディアンドールは衝撃に飛ばされるが両手で着地するとバク転をして距離を放した。
そして体当たりをかました俺の肩からは血が溢れ出ていた。
俺が肩を当てる刹那にガーディアンドールの背中から刀身が出ていたのだろう。
「本当に隙が無いな……」
しゃあねえな……。
本当は、こんな作戦を取りたくなかったんだが……。
俺は異次元宝物庫からシルバークラウンを取り出して被った。
「これは大火力な波動砲が撃てるマジックアイテムなんだぜ」
俺が言うと扉の眼球が高飛車に反論した。
『馬鹿め、ガーディアンドールには魔法が通用しないぞ』
それは知っている。
俺は微笑みながら扉の眼球のほうを向いた。
「そもそも俺は鍵をどうこうするスキルを有していないんだ。だからガーディアンドールを倒せても、お前さんの鍵を開けられない」
『だからどうした?』
「だから最悪は、このマジックアイテムで金庫室の扉は撃ち破ろうと考えてたんだよ」
『お前、もしかして……』
「お前さんにも魔法防御魔法が掛かってるとして、その他の壁はどうなんだ? 俺の広範囲魔法にこの部屋が耐えられるのか?」
『それをワシに撃つつもりなんだな!!』
「それと、俺がシルバークラウンでお前を撃ったら、ガーディアンドールはどう動くのかな?」
『おいおいおい、ちょっと待ってくれ!!』
「波動砲、発射!!」
問答無用で俺は口から波動砲を放った。
狙いは金庫室の扉だ。
金庫の扉どころか金庫室の壁ごと破壊するつもりで波動砲を撃つ。
金庫の中の物がどうなるかは分からないが、この際だ、しかたあるまい──。
するとガーディアンドールが俊敏に動いて扉の前に立った。
予想通りの動きである。
自分を盾に扉を守りに出たぞ。
まあ、当然だろうさ。
ガーディアンの定めだね~。
俺は数秒間、波動砲を吐いた。
そして波動砲が収まる刹那に次の攻撃を放つ。
「ダッシュクラッシャー!!」
3メートルダッシュから横一文字斬りが波動砲を防いでいたガーディアンドールを切り裂く。
その一撃がガーディアンドールの胸を一文字に切り裂いた。
だが、浅いな。
切ったが、斬り裂いてはいないのだ。
更に──。
「ヘルムクラッシャー!!」
俺の振るったロングソードの兜割りがガーディアンドールの頭にヒットする。
頭を真っ二つに割り、ロングソードは胸まで斬り裂いた。
ロングソードはガーディアンドールの腹で止まる。
硬いな。
ヒットしたら全身を真っ二つにできると思ったんだけどね。
「まあ、決まっただろう」
俺が呟くと、ガーディアンドールの腕が力無く垂れ下がり、続いて膝が崩れると、背中から床に倒れ込んだ。
おそらく頭か胸にあったゴーレムとしてのコアをぶっ壊せたのだろうさ。
【つづく】
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