三方を三階建ての建物に囲まれた空き地。
正面の道は人通りが少ない。
しかし、まったく人が通らない寂しい道でもない。
元々はスカル姉さんの診療所が建っていたスペースなのだが、今は何も無いただの空き地である。
その空き地の置くで、隣の建物の影に潜むようにボロいテントが建っていた。
人が二人なら並んで寝れそうなテントだが、中には鞄に詰められた荷物が押し込まれていて狭苦しい。
おそらく火災から免れたスカル姉さんの僅かな荷物だろう。
俺とスカル姉さんは、テントの前に焚き火を起こして向かい合って居た。
俺が憔悴しきったスカル姉さんに問う。
「何があったんだよ?」
しかし、スカル姉さんが質問に質問で返してきた。
「それよりあんた、何か食べ物を持ってない……?」
「保存食ならあるぞ」
俺がバックパックから保存食を取り出すと、即座にスカル姉さんに奪われた。
「がぶがぶがぶッ!!」
「うわ、卑しい……」
俺は獣のように保存食を食らうスカル姉さんをしばらく見守った。
「げっぷぅ~……」
「落ちついたか?」
「うん……」
「でえ、何があったんだ?」
俺が心配そうに訊くと、スカル姉さんがトボトボと語り出す。
「五日前に、寝てたら突然火が出たの……」
「突然か?」
「火元は一階の診療所前よ。火の気が無い時間だから、放火ってされてるわ……」
「犯人は?」
「捕まってない……」
スカル姉さんは深い溜め息を吐いた後に語り続ける。
なんか凄く老けた感じがした。
「この二ヶ月ぐらいの間、ソドムタウンで不審火が続いてたのよ……」
「不審火。それが放火ってことか?」
「あんたが家を借りた時も燃えたでしょ……」
「ああ、確かに燃えてる」
でも、あれは、大家の寝タバコが原因だって聞いてたが……。
まあ、いいや。
「二ヶ月で七件目よ。しかも前回の付け火から、私の家に放火するまで四日だったらしいの……」
「完全にペースが早くなってるってことか。放火犯も調子に乗り始めたってことかい」
「ええ……」
「でぇ、スカル姉さんはこれからどうするんだ?」
「昨日やっと火事場の片付けが終わったの。でも、もうほとんどお金は無くなったわ。貯えてた貯金がほとんど燃えたからね……」
「あらら~」
「今は食べるのがやっとよ。新しく家を建てるお金なんて微塵も無いわ……」
いやいや、食えてもいないじゃんか。
「う~~む……」
それにしても困った話だな。
これは俺としても困った感じだ。
呪いのせいで一般の宿屋に泊まれないからスカル姉さんのところに住んで居たのに、本拠地を失ってしまったことになる。
俺にも貯えはあるが、流石に家を建てるほどは無いしな。
「スカル姉さん、仕事はどうなってるん?」
「医療は薬が無いからやっていない。たまにヒーラーとして治療はやっているが、ほとんど稼ぎにはなっていないわ……」
収入も無しかよ。
「じゃあ、冒険者に復帰するかい?」
「無理。もう現役を離れているし、装備も無いわ。何より今の私に気力が残ってないの。絶望で何もやる気が出ないのよ……」
あらら~。
気力を失ったパターンですか。
一番駄目なパターンだよね。
気力が無い人は救いようもないからな。
「さて、どうするかな~」
俺がゴロンと寝そべると、スカル姉さんもゴロンと寝そべった。
「どうしましょう……」
少し考えてから俺が問う。
「ゾディアックさんに頼ってみたのか?」
「もう、お金を借りたわ……。でも、住まいまでは頼れなかった……」
「なんで?」
「私には、この土地が残っているのに、そこまであいつに頼れないわ……」
無駄にプライドが高いな。
むしろゾディアックさんと結婚したら良かったのにさ。
あの人もスカル姉さんのことを好きなんだから。
そう言うところがさ、この二人は不器用なんだよな。
まあ、女の弱みに漬け込みたくない男と、自分の弱みに漬け込まれたくない女の|性《さが》なんだね~。
男女の関係って難しいわな。
結婚って、俺には無理だわ。
でも、いつまでもこうしてられないか。
まずは寝床を確保しなければなるまい。
「スカル姉さん?」
「なぁにぃ……?」
「この土地はまだスカル姉さんの物なんだよね?」
「そうよ……」
「じゃあ、まだここはスカル姉さんの土地なんだ。なら俺も隣にテントを建てていいか?」
「金を取るわよ」
「絶望しててもがめついな……。まあ、それはそれでいいや」
寝そべる俺がスカル姉さんのほうにコインを一枚だけ投げた。
「うわぁー!、お金だぁお金だぁ!!」
うーわっ!!
すげー卑しいぞ!!
ちょっとビックリしたわ……。
引くわ~……。
俺は起き上がるとテントを建てた。
まあ、とりあえず寝るスペースがあれば良いだろう。
俺はテントを建て終わると寝そべるスカル姉さんに訊いた。
「スカル姉さんは、これからどうしたい?」
「どうしたいって……?」
「まずは、ちゃんと生活できるスペースを確保したいか?」
俺は更に二つ目の質問を投げ掛ける。
「それとも放火犯をぶちのめしたいか?」
俺の質問を聞いたスカル姉さんが上半身だけをムクリと起き上がらせた。
そして冷めた目で俺を見上げながら言う。
「私はこの土地から出て行かないわよ。この土地は父が残してくれた土地なんだもの。それと放火犯はぶん殴りたいわ。私が育った家を燃やしてくれたんですもの。復讐は当然の義務よ!」
うわ、冷めた視線と冷えた台詞が怖いですわ……。
この人はマジだよ。
絶望して落ち込んでても、復讐心は消えてないのね。
むしろそれだけが燃料で生きてるのかな?
「でもよ~、犯人は見つけられるかな?」
俺は三階建ての建物に囲まれた空を見上げながら呟いていた。
放火犯のほとんどは男性って聞いたことがある。
だいたい男性が六割で、女性が三割ぐらいだとか……。
あれ?
あと一割は、なんだっけ?
まあ、いいや。
兎に角いろいろ事件を探ってみるかな。
あと、ちゃんとした住みかも築かないとな。
そう、作るんだ──。
スカル姉さんは、この土地にこだわっているから動かないだろう
ならば考えないといかんぞ。
まあ、策はある。
まずは、放火犯からかな。
じゃあそうなると、情報収集からだ。
うん、今回は推理小説的な展開だぜ!!
なんか格好良くね?
よし、頑張ろう。
「じゃあ、スカル姉さん、俺は放火犯をとっ捕まえてくるからな~」
「はいはい、いってらしゃ~い……」
この人は、俺が放火犯を捕まえられるなんて考えてもいないな。
そう言う態度だわ。
こんちくしょう、宛にされてないぞ。
そうなると逆に燃えてくるぜ。
絶対に放火犯を突き止めてやるぞ。
俺はメラメラと燃えながら町に出て行った。
これから捜査だぜ!!
【つづく】
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