呪いの激痛のために気絶していた俺が目を覚ましたら、そこはベットの上だった。
縛られていない───。
なんだかそれだけで安堵した。
ベットに仰向けになる俺は部屋の天井を眺めた。
知らない天井である。
なんだか聞いたことの有る台詞だな。
まあいいか──。
右に有る窓からは日の光がさんさんと入って来る。
俺は上半身を起こして部屋の中を見回した。
俺が寝ているベットの横に、もう一つベットがある。
その他に、これといって目だった物はない。
なんとも殺風景な部屋である。
まるで病室のようだった。
ベットとベットの間に俺のバックパックが置かれていた。
シミターもショートソードもある。
どうやら盗まれた物は無いようだ。
それにも安堵した。
魔女に拘束されたさいには、荷物はマジックアイテムごと全部失ったからな。
俺はベットから立ち上がると靴を穿いて窓際に立った。
どうやら二階のようだ。
外を見ると狭い裏路地と数人の娼婦が見下ろせた。
どうやらまだソドムタウンに居るようだ。
俺がボケッとしていると、部屋の扉が開いて人が入って来る。
「よぉ~、少年。もう立ち上がって大丈夫かい?」
話し掛けてきたのは女性だった。
スラリと背が高い女性は、ボディコンドレスに白い白衣を纏っていた。
首には聴診器を下げているので、娼婦じゃあなくて医者なのだろう。
女医だ!
女医って、なんだかエロイ響きだよね!
ぅぅ……、要らんこと考えた……。
ちょっと痛い……。
でも、ナイスバティーとは裏腹に、シャープな顔には怪しげな髑髏の仮面を着けている。
額、頬、鼻を隠した髑髏の仮面。
赤いルージュが塗られた唇だけが怪しくも露出されていた。
それでも彼女が美人のお姉さんだと判別できる。
「あなたが俺を助けてくれたのですか?」
「ええ、そうよ。ここまで運んでくるのは、大変だったんたぞぉ」
「ありがとうございます」
礼だけは述べておく。
女医は、さばさばした口調で話す女性だった。
とても気さくなお姉さんに思えたし、彼女のボディコンを見ても余り興奮しない。
なんだか実の姉を見ているような感覚だった。
だが、女医というキーワードは別であるので気をつけよう。
女医が自己紹介をする。
「私はドクトル・スカル。スカル姉さんっとか、先生って呼ばれているわ。どちらでも好きなほうで呼んでいいわよ」
「じゃあ、スカル姉さんで」
「先生って呼べよ!」
「選択肢、無いじゃんか!?」
「まあ、いいわ。あんたは弟みたいな感覚がするからスカル姉さんでも許してあげる」
「許すんかい……」
「で、あんたの名前は?」
「アスランです」
「そう、ダサイ名前ね」
なに、ダサイの!?
マジで!?
「で、あんた何か病気なの。私の見た目だと心臓が病んでるっぽいけど」
ああ、やっぱり医者にはそう見えるよね。
まあ、本当のことを言ってもいいかな。
「実は言いますと病気じゃあなくて、呪いに掛かってまして」
「あら、そうなの。それじゃあ私の専門外ね」
「どんな呪いか訊かないんですか?」
「なに、訊かれたいの、あんた?」
「訊かれたいと言いますか、話したいと言いますか……」
「どっちなの、ハッキリしなさい!!」
うわ、怒られた!!
「じゃあ、いいです。話しません……」
「なによあんた、ここまで焦らして話さんのかい!!」
「聞きたいんかい!!」
「いいから話せよ。聞いてやるからさ!」
むかついたが話してやる。
「エロイことをすると死ぬ呪いです。ちょっとでもエッチなことを考えると激痛がはしるんですよ!」
「なにそれ、バカ!?」
「バカとか言うなよ、バカ女医が!」
「お前こそバカとか言うなよ。人のことバカっていうヤツがバカなんだからな!」
「バカ、バカうるせーーよ!」
「なにを、ウッキィーーーー!」
「やるのか、ウッキィーーーー!」
俺と女医は掴みあって揉めた。
やっぱりこの女医は馬鹿だ!
絶対に馬鹿だ!
少し間を置いて二人は冷静さを取り戻す。
「あんたそんな馬鹿げた呪いに掛かってるのに、なんでこの町に来たのよ。自殺行為じゃない?」
「知らなかったんですよ、この町の主要産業が風俗だなんて……」
「あんた、潜りかなにかなの。この辺じゃあ有名な風俗街よ、この町は」
「遠い土地から来たばかりなんです。だからこの辺のことは何も知らなくて……」
「そうなのか。で、これからどうする?」
「冒険者ギルドにマジックアイテムを売ったら、直ぐに町を出ていきますよ」
「マジックアイテムを持っているのか、おまえが?」
「はい」
ドクトル・スカルは意外そうな顔をしていた。
「これですよ」
俺は売ろうと思っていた魔法のランタンをバックパックから取り出して見せた。
魔法の効果を説明する。
「魔法のランタンです。油の減りが1/10になる魔法が掛かっていますが、こんな物でも売れますかね?」
「ちょっと触ってもいいかしら」
「どうぞ、どうぞ──」
スカル姉さんが、魔法のランタンを手に取りまじまじと眺める。
クルリと回してランタンの裏側まで確かめた。
「確かに魔法の気配は感じられるわね……」
「そんなランタンでも売れますか?」
俺は再び売れるかどうか訊く。
「売れるも何も、マジックアイテムなら高額で売れるわよ。少なくとも魔法使いギルドが魔法研究のサンプルとして、何でも買い取ってくれるわ」
「じゃあ、それも、少なくとも売れるのか」
ちょっぴり安堵した。
それを売るために町に来たのだ。
売れなかったら、ただ地獄に飛び込んで、ぶっ倒れただけになる。
そりゃあもう、ただのくたびれ儲けだ。
スカル姉さんが言う。
「これは良いものね。家電アイテムは遺族や金持ち商人で人気よ。良かったら私が買い取ってあげるわよ」
「でも役人が、観光ビザだと冒険者ギルドでしか売れないって言ってたぞ?」
「あんた、商業ビザじゃあないの?」
「うん……」
「やっぱり馬鹿だね、あんた」
「なにを!?」
「もう一回ゲートに戻って商業ビザを取ってきな。鑑定済みのマジックアイテムをギルドなんかに売ったら安く叩かれるわよ」
「そうなのか?」
「三割から五割ぐらいは叩かれるぞ」
「そんなにも!?」
「鑑定してないと鑑定料だとか何だかんだケチをつけられてな」
「そうなのか──」
「なんなら、私が買ってやろうか。これなら1000Gぐらいで買ってやる。油の相場が一回補充分で3Gぐらいだから300回分ぐらいはお得だからな」
「なるほど」
俺はスカル姉さんに魔法のランタンを売ることにした。
商業ビザを取り直すのは面倒臭かったから、潜りで売買する。
スカル姉さんも、ばれなければいいと言っていた。
彼女も悪よのぉ~。
この女医とは、なんだか気が合う。
本当の姉貴のようだった。
【つづく】
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