ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。

ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態OK=絶賛連載中÷微妙に癖になる。
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第180話【吟遊詩人の歌声】

公開日時: 2020年12月8日(火) 17:08
文字数:2,510

己の視界を黒い布で隠している吟遊詩人の男は、暖炉の前で椅子に腰掛けながら俺の顔を見上げていた。


いや、見えていないのかな?


おそらくこいつは両目が不自由な吟遊詩人なのだろう。


リュートを片手に流しで酒場を回っているのかな。


でも、そんなヤツが何故に眠りの魔法で酒場の客を眠らせるんだ?


分からないなら訊いてみるか。


「何故にお前さんは、こんなことをするんだ?」


「いや、これは、なんといいますか……。ほら、みんな疲れていたから眠りたいかな~って、思ってさ……」


「なるほど」


「信じてくれるかい?」


「信じるかよ、ボケ!」


「ですよね~……」


「お前、強盗だろ?」


「えっと、それは……」


「夜の酒場でお客を眠らせて、その隙に懐からお金を抜くつもりだな」


「そ、そんなことしたら、直ぐにばれて私が犯人だと疑われるじゃあないですか!!」


「じゃあ、お金は全部抜かないで、全員から少しずつ抜いて、誤魔化そうってこんたんか。セコイな~、お前」


「うぐぅぅ……」


どうやら図星だったらしい。


ロン毛の吟遊詩人は、歯を食いしばりながら黙り込む。


「じゃあ、縛り付けて番屋に付き出すぞ。もしかしたら賞金が出るやも知れんからな」


「ちょーーっと、待ってくれ!!」


「なんだ?」


「どうだい、私と組まないか!?」


「組む?」


「そうだよ。ここで客の全員からお金を抜いて逃げるんだ。取り分は山分けでいいからさ!!」


「そんなことしたら、直ぐにお前が犯人だって分かるぞ。皆が何故か眠ったあとに、お金が無くなり、そのあと吟遊詩人だけが消えていたら、犯人はお前だって言っているようなものだろ。だから、お前は小銭しか抜かずに盗難に気付かないよう仕込もうとしたんだろ」


「うぐぅぅ……」


「しかも、お前が捕まれば、直ぐに組んだ俺の存在をゲロるだろ。たかだか小銭のために、そんな不利な条件で組めるかボケ」


「うぐぅぅぅ……」


どうやら吟遊詩人は何も言い返せないようだった。


「す、すみません。ほら、まだ私はお金を取るまでの犯行はしてないからさ、無実だよね!?」


「もう、眠らせた段階で犯行未遂だろ。アウトだよ」


「そんな~! この盲目な吟遊詩人を哀れだと思うなら、見逃してください!」


「駄目だろ。盲目だからって罪人を見逃せるかよ」


「そ、そんなぁ……」


「俺は盲目だろうと無かろうと、人は人として平等に扱う主義なんだよ」


よし、さっさと捕まえるか。


俺は異次元宝物庫から荒縄を出した。


それを見て、吟遊詩人が驚きの顔を見せる。


まあ、異次元宝物庫に驚いたんだろうけど──。


それより、もしかして、こいつ……


「あれ~?」


「うぅぅ……、何ですか?」


「お前、今さ、俺がロープを出したの見て驚かなかったか?」


「いや、なんか珍しい魔法を使ってロープを出したから……」


「あれれ~~。お前、もしかして見えてるの?」


「えっ!!」


「目が、見えてるよね?」


「み、見えてませんよ。私は盲目ですから……」


「いやいや、見えてたよね?」


「見えてませんがな……」


「え~~、本当かな~?」


「本当ですがな……」


「怪しいな~。だってお前はホラ吹きだしな~~」


「信用してください! 私は盲目ですから!!」


「まあ、どっちでもいいや。取っ捕まえるか~」


俺はロープを両手に持って自称盲目の吟遊詩人に近寄った。


すると──。


「こんちくしょう!!」


「おおっ!?」


吟遊詩人は突然立ち上がるとリュートの蔭から細身の短刀を引き抜いた。


その短刀で、俺に向かって斬りかかる。


そして初弾の一撃が、俺が両手に持ったロープを真っ二つに切り裂いた。


「あぶねっ!」


俺は切断されたロープを投げ捨てると、異次元宝物庫から【ショートソード+1。攻撃力向上】を引き出すと 前に構えた。


周りのテーブルには他の客が寝て居るのだ。


兎に角、邪魔くさい。


もしもロングソードで暴れて、他の客を傷付けたら問題が大きくなる。


ここは他人を傷付けないように、間合いのコンパクトなショートソードで立ち回ろう。


「見逃してくれ。見逃してくれたら、傷付けないからさ!」


「武器を持って脅すヤツを信用するかよ」


「じゃあ、死んでもらうぞ!!」


「強盗未遂だけじゃあなく、殺人まで追加するのか? 殺人は重罪だぞ」


「そ、それじゃあ、殺さない程度に切るぞ!!」


「それだとまだ殺人未遂にはなるかな。暴行罪かもよ」


「それじゃあ、刺したり切ったりしないから、見逃してくれ!?」


「なら、短刀を収めやがれ」


「それは出来ない!!」


「もー、わがままだな~」


「こ、こうなったら……」


おおう?


逃げるのか?


それとも、なんかしてくるのかな?


吟遊詩人は大きく息を吸い込んだ。


それから大きく口を開いて声を奏でる。


『ぼぇぇぇ~~~~ええ!!』


「ううっ!!」


俺はショートソードを捨てて、直ぐに耳を両手で塞いだ。


超音波のようなダミ声が酒場内に広がる。


これはジャイアン・オブ・デスボイスか!?


『ぼぇぇぇ~~~~~~~~~!!!』


「な、なんだこの酷い声は!?」


鼓膜が破けそうだ。


テーブルに顔を押し付けながら眠っていた客たちが床に落ちて痙攣し始める。


寝ていて耳が塞げずに、このダミ声をモロに食らったのだ。


そりゃあ、たまらんだろうな。


そして床に倒れた客たちは、口から泡を吹き出し始めた。


これは不味くね!?


『ぼぇぇええええええええ!!!』


吟遊詩人はダミ声を叫びながら俺に斬りかかって来る。


両手で耳を塞いでいる俺は、防御が出来なかった。


ダミ声に苦しむ俺は、それでも吟遊詩人の一太刀をヒラリと躱す。


俺が横にずれるとへッピリ腰の吟遊詩人が短刀をテーブルに突き刺してあたふたしていた。


それでも吟遊詩人はダミ声を止めない。


ウザイ声である。


俺はテーブルに突き刺さった短刀を引き抜いた瞬間の吟遊詩人に、ハイキックを打ち込んでやった。


後頭部を全力で蹴飛ばしてやる。


短刀を引き抜いた勢いと、俺のハイキックがぶつかり合うようにヒットして、蹴った俺も驚くほどの威力となっていた。


吟遊詩人は後頭部を蹴られると、勢いそのままに、テーブルに顔面を打ち付ける。


それでダミ声が止まった。


「わぁお、ナイスなハイキックだったわ……」


テーブルの上でグッタリしていた吟遊詩人がズルリと床に落ちた。


完璧に気絶してやがるな。


ザマ~~。



【つづく】

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