俺は忍ばなくてはならなかったのに、鳴子に引っ掛かり騒音をならしてしまう。
それが目覚まし時計の代わりとなって、ゴブリンたちを起こしてしまった。
なんとも間抜けである。
目を覚ましたゴブリンたちが、寝ぼけ眼で何事かと辺りを見回しながら状況把握に奮闘していた。
不味いなぁ……。
壁に寄りかかりながら寝ていたホブゴブリンも目を覚ましてしまう。
ホブゴブリンが目を覚ました直後に俺と目が合った。
そして、素早く横に置いてあった戦斧に手を伸ばす。
俺はゴブリンたちを無視してホブゴブリンに向かって手に在るショートスピアを投げつけた。
滑空する投げ槍。
しかし、投げたショートスピアは躱された。
ホブゴブリンの後ろの壁に槍先が突き刺さって止まる。
それを見てゴブリンたちがやっと侵入者の存在を把握した。
俺に向かって威嚇の声を上げながら立ち上がる。
畜生!!
頭を取るのに失敗したぞ。
あそこでホブゴブリンだけでも狩れていたら、この先が楽だったのにな。
俺は後退した。
入って来た壁の穴から外に飛び出した。
それから10メートルほど距離を取ると背中に背負っていたショートボウを構えて片膝をついた。
矢筒から矢を一本引っこ抜いて弦を引く。
狙いは俺が出てきた壁の穴だ。
やがてゴブリンが一匹叫びながら飛び出してきた。
俺は矢を放つ。
矢はゴブリンの顔面を射ぬいた。
命中だぜ!
俺は直ぐに矢筒から次の矢を取り出して弦を引いた。
次に備える。
更にゴブリンが壁の穴から飛び出してきた。
次々と三匹もだ。
俺は矢を放つと弓を捨ててショートソードを鞘から抜く。
放った矢はゴブリンの肩に命中したが致命傷ではなかった。
射ぬかれたゴブリンは転んでじたばたともがいている。
しかし、残りの二匹が俺に向かって走って来た。
二匹のゴブリンは木製の棍棒を振りかざしていた。
なんとも粗末な武器である。
俺は襲い来る一匹目のゴブリンの攻撃をショートソードで受け流すと、後ろに居た二匹目のゴブリンを切りつけた。
一振で顔面を深く切り裂く。
致命傷であった。
そして振り返ると同時に横降りの一撃を一匹目のゴブリンに打ち込んだ。
ゴブリンは俺の一打を棍棒で受け止めたが俺のほうが力で勝る。
木の棍棒を弾き飛ばして二打目で袈裟斬りに切り伏せた。
俺が二匹のゴブリンを倒している間に、更なるゴブリンが二匹と、ホブゴブリンが壁の穴から出てきていた。
ホブゴブリンが肩を射ぬかれ悶えて居たゴブリンの頭を踏みつけて殺してしまう。
ウザったかったのかな?
それを見ていたゴブリン二匹が、狂気の奇声を上げながら、こちらに向かって走って来る。
怒るなよ。仲間を踏み殺したのはお前らのボスだぞ。俺に当たるな。
俺は迫り来るゴブリン二匹に対して腰から投擲用ダガーを一本取り出して投げつけた。
投げられたダガーは一匹のゴブリンの胸に突き刺さり命を奪う。
そして更にショートソードを力強く振り下ろして、残りのゴブリンの頭をカウンターでカチ割った。
そこでやっと気づいた。
ホブゴブリンの接近を……。
ゴブリン二匹に気を引かれてホブゴブリンの移動を見逃していたのだ。
ホブゴブリンは大きな戦斧を振り回す。
その強打をショートソードで受け止めた俺の体が後方に飛ばされた。
凄いパワーだった。
完全に力では勝てない。
力で勝てないなら知恵と勇気とスピードで勝てばいいのだ!
俺は片手を突きだし魔法を叫ぶ。
「マジックア──」
魔法の名を叫ぼうとした刹那だった。
俺に炎の飛礫が飛んできた。
すげー熱い!
不意を突かれた俺は、思わず言葉を詰まらせた。
魔法は不発する。
魔法を唱えている場合じゃあなかった。
俺のローブが燃えている。
かなり熱いじゃんか!
火をはらう俺に、ホブゴブリンの戦斧が力強く振られた。
また俺は、ショートソードで重い斧を受け止めると、パワーで体ごと弾かれる。
バランスを崩した俺は地面を転がった。
しかし直ぐに顔を上げる。
何故に炎が!?
どこからだ!?
俺は立ち上がりながら、何が起きたか把握に気を配った。
すると直ぐに炎の正体を見つける。
壁の穴の中に、鳥の羽で飾りたてたゴブリンが、もう一匹居るのだ。
アイツが炎を飛ばして来たんだろう。
手には禍々しい杖を持っている。
それすなわち、アイツはシャーマンだ。
ゴブリンシャーマンだろう。
だとするとボスはホブゴブリンじゃあない。
あっちだ。
知恵の高いほうが、ゴブリン業界ではボスに座る。
だからゴブリンシャーマンのほうがボスだろう。
不味いな……。
ちょっと不利かも知れない。
パワーキャラに攻撃魔法の支援。
その組み合わせが厄介だ。
俺に考える暇を与えないかのように、ホブゴブリンが攻めて来た。
俺は咄嗟にショートソードを地面に突き刺した。
そしてスコップで土を掘るかのように地面を堀上げた。
そのまま地面の土をホブゴブリンの顔面に投げつける。
|目眩《めくら》ましだ。
うむ、我ながら卑怯だな。てへぺろ。
俺は顔の土をはらうホブゴブリンを後回しにして、ゴブリンシャーマンに向かって走り出す。
自分にターゲットを変えたと分かったゴブリンシャーマンが俺に炎の魔法を放ってきた。
俺はローブで顔を隠して炎の飛礫を我慢する。
熱いが我慢出来ない火力でもない。
これがレジスト成功なのかな?
そして、ゴブリンシャーマンに接近して必殺技を狙う。
「ウェポンスマッシュ!」
ダメージ1.25倍の一撃がゴブリンシャーマンの体を逆袈裟斬りに捕える。
斬ったぜ!!
大量の血飛沫が飛び散り俺を汚す。
確実に肋骨を裂いた感触があった。
【おめでとうございます。レベル8に成りました!】
よし、レベルアップだ!
それとレベルアップのメッセージからゴブリンシャーマンが絶命したと分かった。
俺は腰に手を伸ばしながら振り返った。
それと同時に投擲用ダガーを下手で投げる。
間違いなくホブゴブリンが迫っていると分かっていたからだ。
投げたダガーはホブゴブリンのお腹に刺さった。
だが、決まり手ではない。
ダメージが浅い。
お腹を押さえて痛みに苦しむホブゴブリンが頭をさげたので俺は大きくジャンプして兜割りを繰り出した。
全体重をのせた一撃が、ホブゴブリンの右肩口にめり込んだ。
しかし、鎖骨を砕いたがショートソードの刀身は途中で止まる。
まだ決まらない!
「マジックアロー!!」
至近距離からの攻撃魔法がホブゴブリンの顔面に決まる。
魔法の矢が片目を抉った。
痛みに仰け反るホブゴブリンの体からショートソードの刀身が抜ける。
そして俺は、抜けたショートソードを両手で確りと握ると、ホブゴブリンの喉を下から突き上げた。
切っ先がズブズブと突き刺さる。
これで決まりだ!
傷口から鮮血が吹き出し、また俺の体が汚された。
もー、きちゃないよ~~!!
【つづく】
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