俺は全裸のまま謁見室を出た。
ベルセルクの爺さんやベオウルフの髭オヤジとは話が付いたのだ。
まあ、誤解が解けたと言えば明確なのだろうか。
結局俺はポラリスを何とも思っていないと告げてベオウルフの髭オヤジを納得させたのだ。
兎も角、エロイことをすると死ぬ呪いの説得力が強かったのかも知れない。
子作りをしたら死んじゃうのだ。
そんな体で娘を誑かすわけがないと知れたのだろう。
まあ~、ポラリスは残念がっていたがね。
あの怪力プリンセスは、本気で俺の子種が欲しかったようだ。
まったく呆れた話である。
理解できんな、本当によ。
そして、俺が全裸で城内を闊歩していると、後ろから声を掛けられる。
全裸な俺が振り返ると警備兵長が、ローブを片手に立っていた。
「これを着ていけ」
警備兵長はぶっきらぼうに述べると俺にローブを投げつける。
そして、何も言わずに去って行った。
なんなんだ、あのオッサンは?
ツンデレですか?
名も無きツンデレモブてすか?
まあ、ローブは感謝しよう。
俺はローブを広げて肩から羽織った。
しかし、残念なことに、丈が短く下半身が丸出しになる。
あの糞警備兵長め!!
もっと大きなローブを持ってこいや!!
短すぎるだろ!!
何これ、バスタオルか何かですか!?
俺は仕方がないのでローブを腰に巻いて裏庭の詰所まで帰った。
勿論ながら城内なので、行き来する人々には冷たい眼差しを浴びせられましたがね。
もう、明日からは裸少年とかあだ名がつけられますわ。
間違いないわ。
そんなこんなで詰所に到着する。
「よ~う、アスランくん、どうだった?」
パーカーさんたち三人が俺を出迎えてくれたが、朝食は先に食べたから無いぞと告げられる。
なんだよ、畜生が!!
朝食まで抜きですか!?
それは嫌だな、も~!
仕方がないので俺は部屋に戻ると服や装備を装着してから城を出た。
しゃあないから町の酒場で飯にすることにしたのだ。
なんだろうかな、今日はついていない。
兎に角だ、運が悪いぞ。
朝から疑われて逮捕されるは、全裸だは、朝食は先に食べられるわで、本当に運が無い。
こんな日はダンジョン探索はよしたほうがいいのかな?
これ以上、何か不運が続いたら、今日の仕事は休みにしようかな。
まあ、仕事は順調だから、たまには休んでもいいだろうさ。
そんなことを考えながら俺はゴモラタウンの酒場に到着する。
店の看板を見上げたら不買品亭と書かれていた。
なんとも冗談が詰まらない店の名前である。
まあ、飯を食うだけだから関係ないか。
俺は店の中に足を進めた。
店内はソドムタウンのように騒がしくない。
静かな酒場である。
客の数も少なかった。
とても落ち着いた感じが深い。
流石は商業の町ですな。
朝から飲んだくれて居る野郎は少ないようだ。
俺がカウンター席に座ると店の女将が相手をしてくれた。
俺が食事を頼むとパーカーさんが作る料理よりも不味い食事が出て来る。
なんとも不味い肉料理だった。
俺が頼んだのはパンと肉入りスープだったが、もうパンは乾いてパサパサで、肉は石のようにカッチカチに硬いのだ。
俺は肉を頬張りながら、やっぱりついてないなと絶望に浸る。
まあ、仕方がないか……。
今日の仕事は休みにしよう。
そう考えた──。
そんな感じで俺が食事をしていると、酒場の二階から一人のお客が降りてきた。
痩せた若い男である。
冴えない顔立ちで、大きな欠伸をしていた。
身形の装備からいってシーフだろう。
俺が食事を取りながら、その男をチラリと見ると、見覚えが有る容姿であった。
俺は少し悩んだ。
何処かで会ってるような気がする。
確か、何処だっけな?
なんとも平凡な冴えない男なので思い出せん。
俺は美味しくない肉を噛み締めながら考える。
その男は俺の後ろに在るテーブル席に座った。そして朝食を注文する。
俺は自分の食事を終えると男に近寄った。
「あんた、何処かで俺と会ったことが無いか?」
俺は本気で訊いているのだ。
しかし、男は怯えるように顔を反らして「知りません」と突っぱねた。
その怯える仕草が俺の記憶を呼び覚ます。
「思い出したぞ!」
俺は言いながら、そいつの肩をガッシリと掴んだ。
「おまえ、リックドムだろ!!」
「ちっ、違いますよ!!」
男は俺の腕を払うと椅子から立ち上がった。
周りの視線が俺たちに集まる。
「まさかこんなところで出会うとはな。もっと遠くに逃げているかと思ったのによ!」
「あっ、何あれ?」
「えっ?」
リックドムが俺の後ろを指差したので、なんだろうと俺が振り返る。
しかし、そこには何も無い、ただの壁だった。
「何か、在るのか?」
俺が前を向き直して見ると、リックドムが酒場の出入り口から逃げ出すところだった。
「あの野郎、古典的な手段で逃げやがったな!!」
古典的な罠に引っ掛かった俺は、慌ててリックドムを追いかける。
そして、ゴモラタウン内で、逃げた張ったの追いかけっこが始まった。
追うは俺ことアスランさまだ。
逃げるは裏切り者のこそ泥野郎のリックドムだ。
朝の街中を疾走する二人。
馬鹿めが!!
俺は逃げ足に鍛えられた冒険者様だぞ!!
貴様みたいな裏切り者が、足の速さで俺から逃げきれるわけが無かろうて!
「まて、ごらっ! 逃げると追うぞ!!」
「ひぃぃいーーー!!!」
女々しい悲鳴を上げやがって。
絶対に逃がさねえぞ。
こっちとら、逃げ足に鍛えられた冒険者様だぞ!!
貴様みたいな裏切り者が、俺の足の速さから逃げきれるわけが無かろうて!
んん?
なんだ、デジャブ?
それよりもだ。
てか、なんだろう?
なかなか追い付かないな。
あいつ、足が速くね!?
もう、二回も同じ台詞をリピートするぐらい走って居るのに追い付かないぞ。
まさかこんなに足が速いやつが居るとはびっくりだわ。
てか、俺も追われるばっかで追いかけるのは初めてだから、上手く走れて居ないのかな?
ええい、こうなったら切り札の魔法オーバーランを使うか。
この隠し球でイチコロだぜ。
魔法で一気に距離を縮めてやるぞ。
「魔法オーバーラン、発動!!」
一日一回一分の超加速だ。
これで、一気に間合いを詰める!!
詰める!!
詰める!?
詰める??
詰まらねーーぞ!?
なんでだよ!?
なんで追い付かないんだよ!?
何このシーフ野郎!?
足が速すぎね!?
すげー、速くね!?
俺ですら追い付けないのかよ!?
魔法を使っても駄目なのか!?
くそーーー。
こうなったら持久戦だ。
何処までも追いかけてやるぞ!!
そして、二時間経過──。
ひぃぃいいいい!!!
なんでこいつは走り続けられるの!?
もう二時間も走りっぱだよ!!
普通ならガス欠してませんか!?
何故に追い付けない!?
何故に疲れない!?
何故に止まらないのさ!?
ぜぇはー、ぜぇはー……。
もう駄目だ……。
お、俺がガス欠だわ。
もう走れない……。
俺の足が止まった。
俺は疲れた体を沈めるように両膝を地に付けた。
完敗である。
俺が息を切らして立ち止まっていると、軽い足取りでリックドムが駆け寄って来た。
そして、俺に言う。
「ご、ごめん。裏切るつもりは無かったんだ。ただついつい体が……」
そう述べるとリックドムは、再び走り出して、人混みの中に消えて行った。
ちっ、畜生……。
足には自信が有ったのに、上には上が居るってことか……。
そして俺は、最後の最後で思い出す。
「あいつの名前はリックドムじゃなくて、リックディアスだったっけな?」
あれ、やっぱり思い出せない。
【つづく】
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