夜も大分更けてきた。
空を見上げれば雲の無い夜空が星を美しく輝かせている。
大きな三日月も随分と綺麗だった。
俺は虫の音が鳴く森の中で岩場を登っている。
ヒッポグリフが巣くっている岩場だ。
これがクライムウォークと言うヤツだろうさ。
なかなかの絶壁だが、気合いと根性で何とか登れていた。
マジで根性の賜物である。
我ながらこれだけの絶壁を登れるとは思いもしなかった。
人間もやれば出きるんだなって思ったわ。
俺ってば凄いな。
そんなことより斜め上を見上げればヒッポグリフの巣が見える。
あいつは静かに寝ていやがった。
熟睡中なのかな?
俺が迫っていることに気付いてもいないようだ。
まあ、あんな大型モンスターならば、そうそう夜襲も受けないのだろう。
体格だけ見れば馬並みだもの。
翼を合わせると、それ以上に見えるしさ。
兎に角、ヒッポグリフとは大きなモンスターである。
俺はヒッポグリフの巣と同じ高さまで登って来た。
横を見ればヒッポグリフが巣の中で丸まって寝ているのが見える。
こん畜生、呑気に眠りやがって……。
妬む心を押さえながら俺は、更に上に登って行った。
理由は上から降るように襲い掛かるつもりだからだ。
思いっきり降ってきて、ロングソードをヒッポグリフの首に突き立ててやるぜ。
俺は、わっせわっせっと上を目指す。
このぐらいで良いだろうか?
下を見れば数メートル先でヒッポグリフが丸まって居る。
なかなかのポジションをキープできた。
俺は異次元宝物庫からロングソードを引き出すと、逆手に構える。
狙いはヒッポグリフの首筋だ。
一突きで貫けるだろうか?
分からんが、それで決められたら万々歳だ。
俺は狙いを定めて飛び立った。
急降下して行く。
おぉぉぁらららら!!!
ドスコーーイ!!
全力全身全快全霊の一撃をヒッポグリフの首に突き立てた。
命中!!
しかし、堅い!?
堅いが刺さりはしたぞ!!
ロングソードの刀身が半分ぐらい突き刺さっていた。
この不意打ちでヒッポグリフが目を覚ます。
苦しげに叫んで居た。
出来れば目覚めないまま死んで貰いたかったが、そうも行かないか!?
ヒッポグリフが暴れだすが、俺は突き刺さったロングソードに体重を乗せて放さない。
するとヒッポグリフが舞い上がった。
巣を飛び出し天を舞う。
まだ、そんなに元気なの!?
高い!?
やばくね!!
今ここでこいつが死んだらヤバイだろ!?
こいつが墜落したら俺もヤバイぞ!!
ヒッポグリフ頑張れ!!
もう少し低い場所まで行ってから墜落してくれないかな!!
「ヒヒィーーーン!」
ヒッポグリフは馬と鳥との間の鳴き声で鳴くと低く滑空して行く。
うわぁぁああわわわ!!
ヤバイ、ヤバイ!!
下は茨の畑ですよ!!
ここで墜落するのも禁止です!!
こんなところで墜落されたら俺まで茨でズタボロですわ!!
ひぃぃーー!!
あぶねーー!!
急上昇したぞ!!
助かったって、どわぁぁあああ!!
「ヒヒィーーーン!!!」
あぶね~、今度は魔法使いの塔に激突するところだったわ!!
スレスレのところを過ぎて行ったぞ!
ヒッポグリフは空中でクルクル回りだした。
ううわ、目が回るぅぅう!
んん、なんだ??
魔法使いの塔の屋上にトリンドルが出て来た。
そして大きな風呂敷を剥ぐって何かを出したぞ?
あれって、|クインクレイ《大型固定式》クロスボウじゃあねえか!?
すげー、太い矢が装填されてますね!
丸太サイズじゃんか!?
もしかしてトリンドルさん、それを撃ち込むつもりですか!?
すげー笑顔でこちらを狙ってますね!!
撃つつもりだわ!!!
プシュン!
ゴゴゴゴゴゴゴォォォオオオ!!!
うううわぁ!!
撃って来たぁぁあああ!!
でも、外れた!!!
すげー音がしたぞ!!!
トリンドルがへッピリ腰で二発目を装填してますわ!!
あの糞女、俺が乗ってるのは見えてますよね!?
わざと狙ってますよね!?
分かってて狙ってますよね!!
俺ごと射ぬく気満々ですよね!!
畜生、ヒッポグリフ、こうなったらヤツに突っ込めや!!
俺は刺さったロングソードを捻ってヒッポグリフの舵をトリンドルに向けた。
このまま突っ込んでやるぞ!!
死ねや、トリンドル!!
そこにクインクレイクロスボウからの二発目が放たれた。
その太い矢がヒッポグリフの顔面に突き刺さる。
「ヒヒっ……」
俺を乗せて飛び回っていたヒッポグリフから力が抜けたのが分かった。
死んだな、こいつ!!
【おめでとうございます。レベル15に成りました!】
やったー、レベルアップだぜー。
ってか、それどころじゃあねえよ!!
このままだと塔の屋上に墜落するぞ!!
いや、そのほうがましかな!
茨の上に墜落するよりましですか!!
墜落するぅぅううう!!
どぉぉおおわわわあああ!!
ドッシャンガラリン!!
ヒッポグリフの巨漢がクインクレイクロスボウとトリンドルを撥ね飛ばして塔の屋上を滑った。
わひゃゃぁあああ!!
滑る、転がる、すってんころりん!!
と、止まった……。
何故か俺は直立不動で止まっていた。
後ろを振り向けば、塔のへりに立っていたのだ。
土俵際ギリギリなのかよ!?
あと一歩下がっていたら塔から落下していただろう。
「だ、大丈夫ですか、アスランさん……」
倒れたままのトリンドルが心配そうに言ってきたが、さっきまでこいつは満面の笑みでクインクレイクロスボウを俺に向けて撃っていたのだ。
決して信用できないな!!
【つづく】
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