セルバンテスミイラが盾の中から召喚したシルバーウルフ三匹が俺に向かって走り出した。
三匹とも敵意満々ですな。
はーい、俺はロングボウを異次元宝物庫に仕舞いまして、からのーー!
代わりに【エクスフロージョンスタッフ+2。爆発系魔法の範囲向上。爆発系魔法の破壊力向上】を出しまして、構えます。
指の一つには【ファイヤーボールリング+2。ファイヤーボールが一回使える。ファイヤーボールが一回使える】が装着されておりますがな。
「食らえ、ファイアーボール!」
シルバーウルフに飛翔したファイアーボールが爆発した。
「どぉーーわあ!!」
凄い爆風がシルバーウルフを包んだが、爆風が俺にまで届いた。
危うく俺まで吹き飛ばされるかと思ったぜ。
エクスフロイダー・プロミスの爆発力を見ていたから、大体の範囲は推測していたつもりだったけれど、想像以上に爆発範囲が大きかった。
だが、しかし、念には念をいれて爆風の中に更なる一発を投げ込んだ。
「ファイアーボール二発目だ!!」
爆風の中から更に爆風が吹き荒れる。
これでシルバーウルフはやっつけただろう。
俺は爆炎を見ながら異次元宝物庫にエクスフロージョンスタッフを投げ込むと、代わりに【ロングソード+2。攻撃速度向上。アンデッドにダメージ特効向上】と【マジックメイス+1。クラッシュウェーブが一回使える】を取り出した。
右手にロングソード、左手にマジックメイスの二刀流だ。
俺は爆炎がやむのを待った。
床一面が燃えている。
俺が炎を眺めていると、燃え盛る炎の中からセルバンテスミイラが歩み出て来た。
セルバンテスミイラの歩みに合わせて周囲の炎が消えて行く。
彼は微塵にもダメージを受けている様子は無い。
「凄い冷気だな……」
しかも、セルバンテスミイラの陰から焼け焦げたシルバーウルフが姿を表した。
あら、まあ、生きておりましたか狼さんたち……。
でも、一体は減ってるな。
一体は倒せたみたいだし、残った二体も随分とダメージを受けてますね。
そして負傷したシルバーウルフ二体が走り出した。俺に迫る。
「こな糞が!」
俺は左手のマジックメイスを振りかぶった。
それで足元の床を叩く。
「クラッシュウェーブ!」
叩いた床から衝撃破が波となって沸き上がった。
魔法の波がシルバーウルフを飲み込みながらセルバンテスミイラに迫る。
シルバーウルフ二体はセルバンテスミイラの後方まで飛ばされた。
そして霧となって消えて無くなる。
だが、セルバンテスミイラはよろめきすらしていない。
完璧な魔法防御かな?
ならば!!
俺は異次元宝物庫にマジックメイスを仕舞うと左手を向けた。
「マジックアロー!」
魔法の矢が飛んで行くが、セルバンテスミイラに着弾する寸前で霧のように消えて無くなる。
完璧なレジストですか!?
なんですか、こいつは!?
魔法や飛び道具は無効ですか!?
インチキ臭いよね!!
これだから高レベル冒険者ってチート臭いとか言われるんだよ!!
なんか戦うの面倒臭いな。
戦うのやめよっかな。
えっ?
なんかセルバンテスミイラさんが、枯れた頬肉をバキバキ裂けさせながら、やたら一杯に口を大きく開いて来ましたよ。
何をしていますか?
なんか、口の中で真っ赤な魔法陣が輝いてませんか?
魔法を撃つきですか?
『お♯っ■►◇ぃ◈!!』
チュドーーンと口から波動砲を撃って来やがった!!!
ド太い波動ビームが俺に迫る。
俺の体を丸ごと巻き込めるサイズの飛翔光ですわ!!!
俺は必死に飛んで波動ビームから逃れた。
横っ跳び一線のヘッドスライディングで回避する。
こわっ!!
俺は腹這いから立ち上がる。
そして、俺が立って居た場所を眺めた。
「なんつう破壊力ですか……」
そこには抉られて削られた傷跡が床に残っていた。
長々と一直線にだ。
駄目だな、こりゃあ……。
遠距離戦は無理だ。
こっちの攻撃は効かないのに、向こうは超破壊力ですよ。
もう無理無理無理ですわ。
俺はロングソードを構えて走った。
セルバンテスミイラに接近戦を仕掛ける。
遠距離戦が無理なら接近戦しかないだろう。
「うらぁ!!」
俺はアンデッド専用のロングソードで斬りかかる。
だが、初弾の一打目はシールドに容易く弾かれた。
そして、盾の裏から黄金剣の刀身が飛んで来る。
光輝く一太刀だった。
俺もその一太刀を左腕に装着されたバックラーで受け止める。
しかし、凄まじい衝撃が身体全体に響いた。
ズシンと重い衝撃だった。
全身の骨が軋みそうに悲鳴を上げていた。
そしてバックラーごと左腕が俺の脇腹にめり込んだ。
「ぐっが!!」
俺の体がくの字になって横に吹っ飛ばされる。
「がはっ!!」
うわ、消化された朝食が逆流してきそうだったわ。
やばい、倒れる!!
俺は右足に力を込めて踏ん張った。
うーーぬ!!
我慢からのーー!!
袈裟斬りだ!!
だが、それも容易く躱された。
セルバンテスミイラは躱すと同時に膝を俺の脇腹に蹴り入れる。
「うぷっ!!」
俺の体が後方に飛んだ。
この野郎、攻防一体の動きが鮮やか過ぎませんか!?
こりゃあ、倒れますよ。
俺は尻餅を付いたあとにゴロゴロと転がった。
二回転してからスクリと立ち上がる。
俺は剣を構えて凛々しく振る舞ったつもりだったが、完全に目が回り吐きそうな感覚であった。
やばいわ……。
こいつは強いよ……。
正面から堂々と戦って勝てる相手じゃあ無いぞ。
マジでやばいぞ。
俺は踵を返して走り出していた。
逃走──。
とりあえず、逃げる。
作戦を考えなくてはならない。
策して企まなくてはならんだろう。
実力の違いは知恵と勇気で埋めなくてはなるまい。
そう自分を正当化しながら俺は走った。
恥ずかしいとか、卑怯とか言ってられませんがな!!
死んじゃいますよ!!
マジでさ!!
【つづく】
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