燃えた家が焼け落ちるのを見守りながら、俺は数人の村人たちと一緒に、野外で暖を取っていた。
近くで家が燃えているから、焚き火も灯りも要らなかった。
側に居る村人に訊いたが、いま俺が見ている燃えた家の主は、この場には見当たらないらしい。
おそらく燃える家の中か、村のどこかで殺されているんだろう。
村人たちは、散り散りになっていた家族と合流すると、見当たらない人々までは捜さなかった。
夜だし疲れているのだろう。
あまりにもショックが大きすぎて、見当たらない人々の安否までは諦めている。
とりあえず生き残った村人たちで一ヶ所に集まっているのだ。
また、コボルトたちが戻ってくるかもしれないから警戒している。
村人たちは俺がコボルトたちと戦っていたのを見ていたらしく、俺がコボルトを追い払ってくれたと思い込んでいるようだ。
まあ、追い払ったと言えば、間違いではないだろう。
俺は火に当たりながら硬い黒パンを噛っていた。
それと革袋の水筒で水を飲んでいる。
俺が村人に全裸でひもじいと告げると、善意有る村人が服と一緒に、水と食料を分けてくれたのだ。
それと靴もだ。
水も飲めたし、腹ごなしもできた。
服と靴まで貰えたから、コボルトと戦って損はなかったと思う。
二回目の全裸からの卒業である。
そして俺は、燃える家の炎を眺めながら考えた。
そもそも魔女から解放されたら自分の身を守るだけで、村人なんてほっといてもよかったのだ。
さっさと逃げても問題なかったはずだ。
でも俺には、そんな人で無しな振る舞いは、いまのいままで想像すらできなかった。
なんやかんやで自分は外道じゃあなく、善人の側なのだと思った。
とりあえず、今後のことをどうすべきかを決めなくては成らない。
生き残った村人と話して分かったことは、36人居た村人が、14人まで減ったらしい。
半数以上が殺されたか、まだ行方不明になっているようだ。
俺は、あの魔女のことを、村人には話さなかった。
あいつが述べたとおり、いま話しても、なんの得にもならないし、コボルトに殺されたことにしといたほうが、まだましだろう。
信用していた村の住人が、村人を殺して生け贄に捧げていた上に、食べていたと知ったらダブルショックだ。
これは、確かに要らない話である。
村人たちは、明日になったら、まだ生存者が居ないか調べたのちに、死んだ村人たちの遺体を埋葬するらしい。
この後のことは、それから考えるとか──。
村を捨てるか、とどまり復興するかは、まだまだ分からないらしいのだ。
難しい選択なのだろう。
俺も明日は生存者捜索と、遺体埋葬だけは、手伝おうと思う。
そのぐらいは、人として当たり前かなと思ったからだ。
今晩は村人たちが交代で見張りをすると言うので俺は眠らせてもらうことになった。
寝てて良いとのことだ。
ただし、もしもコボルトたちが戻ってきたら叩き起こしてもらうことになっている。
やはり戦うのは俺一人の仕事らしい。
村人たちは、そのことを口に出さなかったが、そんな空気感だった。
まあ、気にはしない。
兎に角、寝ることにした。
戦い疲れたし、歩き疲れてもいる。
魔女にも疲れたし、インプにも精神的に疲れた。
だから目蓋を閉じたら直ぐに眠れた。
朝は一瞬で来る。
あまり疲れは取れなかった。
俺は朝起きると村人たちと一緒に、村の中や外などを生存者の捜索をした。
更に生き残っていた村人を5人ほど発見できた。
これで生存者は19人に増えた。
みんな抱き合って無事を喜んでいる。
その後に、昼から遺体を村の墓地に埋葬する。
穴を掘って埋めるだけの簡単な埋葬だった。
村人が木の枝で十字架を作って建てると、女の子が花を摘んできて添えていた。
俺が村人にコボルトの残党を討伐しに行くと告げる。
今すぐにだ。
村人からは、反対の声は一つも上がらなかった。
俺が昨晩見せた戦いから、実力的に心配もしていない。
むしろ、コボルト退治を歓迎していた。
殺された村人たちの仇を取ってくれと言っている。
それにコボルトが全滅するなら、村を捨てずに復興も前向きに考えられると言うことだ。
俺がコボルトの住みかになるような場所に心当たりが無いかと訊くと、村人たちはこぞって心当たりがあると答えた。
30匹ぐらいの大きな群れが暮らせそうな場所である。
昨晩、俺が殺した数と、逃げた数から推測するかぎり、あのコボルトの群は、そのぐらいのサイズである。
向こうさんも今は、13匹も殺されたので半分ちょっとぐらいには減っていると思う。
村人の説明では、南の岩山に、昔の鉱山跡地が在るらしい。
この村から2キロほど離れているそうな。
そこならば30匹から40匹ぐらいは、楽々と住める大きさらしいのだ。
俺は直ぐに出発することにした。
コボルトたちも大勢の仲間を俺に殺されて、混乱中だろう。
どうせこちらは一人で戦うのだ。
体制が完全に立て直される前に攻めるべきだろう。
少しでも有利に戦いたい。
ならば直ぐに行動だ。迅速に動くべきだ。
俺は村人の一人に鉱山跡地まで案内してもらうことにした。
村人たちには、必ず勝ってくると言ってから手を振って、村を出た。
出陣する。
その俺を鼻垂れ小僧が両腕を振って見送ってくれた。
あの鼻垂れ坊主は、今回の襲撃で両親を二人とも殺されたらしい。
今後は姉との二人暮らしになる。
だからせめて、仇ぐらいは取ってやりたい。
気合いを入れた俺は、そう誓ってコボルトが待つ鉱山跡地を目指した。
2キロなんて目と鼻の距離である。
直ぐに鉱山跡地に到着した。
案内してくれた村人は、少し前に別れている。もう俺一人だ。
鉱山跡地の出入り口は、岩山の斜面に、ポッカリと口を開いていた。
半円で3メートルぐらいの出入り口は、洞窟っぽかった。
見張りは立って居ない。
俺はショートソードを鞘から抜いて、忍び足で出入り口に近付いた。
鉱山内を覗き込むが、暗くて奥は何も見えない。
やはり明かりが必要になるな。
でも、明かりを灯せばバレる可能性が高くなる。
これは不意打ちを諦めないと駄目だろう。
堂々と正面から戦うはめになりそうだ。
でも、上等である。
こっちは全滅を狙って殴り込むのだ。
とっくに覚悟は固まっている。
俺は拾ってきた30センチほどの木の棒の先に、マジックトーチの魔法をかけた。
利き手にショートソードを構え、逆手にマジックトーチのかかった枝を持って鉱山内に侵入して行った。
【つづく】
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