『タチバナ・ユウキと書いて、ルビ振りで『背景』と読ませるのはどうでしょう? もしくはゴミ背景でも可(笑)』
「おーそれは良き変換ですね! ですが、その逆理論で『背景』と書いて『タチバナ・ユウキ』としてみるのも一興ではないかと思うのですよ。そこらかしこの背景にタチバナ・ユウキが溢れかえる……ぷっ」
「おい……」
『それも良いですねぇ~♪ ですがどうせそこまで行ったらのならば、いっそ『 《空白》』などとルビで表示するのが一番読者の虚をつくのではないでしょうか?』
「それも面白い考えですよね~♪ いやぁ~、ルビ振り一つでここまでネタにできるとは……このワタシ、元魔王であるシズネでさえ感無量ですよ!」
「だからてめえら、俺の名前ルビ振り表記でいつまでも遊ぶんじゃねぇよ……」
(あと『感無量』の意味知らねぇのかよクソメイドは? もしこの場合だったら『感服』とか……いや、自分でアイツらフォローしてどうすんだよ俺は!?)
俺は妻であるシズネさんことクソメイドと、何故か初っ端から導入された選択肢設問の野郎めにディスられまくっていたのだ。ついでに自分自身でもちょいディスってしまったので、どうしようもない状態である。
『なんですかね?』
「おや、旦那様どうかしたのですか?」
何食わぬ顔でしれっとしたシズネさんと、また空中に文字表示しかされない選択肢設問野郎めが俺を構って来てくれる。
「いや、人の名前で遊ばないで欲しいわけなんだよ……」
いきなり構ってもらい、本来『構わないでちゃん』代表のこの俺は動揺からか、声無き声の如く消え去るような小声でそう抗議をしてしまう。
『あっ、そうですよね。つい盛り上がってしまいまして……ごめんなさい』
「調子に乗りすぎてしまいました。すみません……」
二人(?)は叱られた子犬のように、しゅんっとした声で俺に向かって謝罪をした。シズネさんに至っては顔を下に向け、しょんぼりとしている。
さすがに妻とはいえ、美少女に頭を下げてもらい暗い顔をさせるのはなんとも忍びないので、俺は慌ててフォローする言葉を口にした。
「あっ、いや、分かればいいんだよ。分かれ……」
『では、『おい、そこのオマエ!』とか『犬ころ』などと呼びましょうかね♪』
「いやいや、『犬ころ』では犬のみなさんに対して大変失礼だと思うのですよ(笑)」
「……ばぁ~っ!! って、コイツら全然反省してねぇじゃねぇかよ……ったく。大体犬の皆さんに失礼って……どんだけ俺の立場は低いんだよ?」
俺はまたもやディスられ、犬未満の待遇に不平不満を漏らすしてしまう。そしてそれは街で犬を見かける度、頭を垂れようと心に懐いてしまうほどだった。
『うーん。役割が『背景』とか言いつつ、その背景挿絵すらまだ一枚も導入されない主人公(笑)みたいな存在ですかねぇ~(笑)』
「ですね~(笑)。こりゃもう、あらすじから変更を余儀なくされてしまう勢いですよねぇ~(笑)」
「俺の存在意義を真っ向から否定して、あらすじごと消し去り証拠隠滅を図ろうとしてんじゃねぇよ。ほんと、疲れるわ……はぁ~っ」
疲れからか、それとも呆れたのか、口から自然と溜め息が出てしまった。
『それではここで、いい加減アナタの呼び名を決めるべくして、恒例の選択肢を導入させていただきますね! 以下よりお選びくださいませませ♪』
『タチバナ・ユウキと書いて『背景』と読ませる!』第11話冒頭を延々ループいたします♪
『犬ころと呼べ!』それは犬に対して失礼なんですからね!
『もう、アナタ様でいいです……』そっかぁ~……
「(……ロクな選択肢ねぇな。もういい加減、突っ込む元気も無くなってきたわ)うん、シズネさん……俺のことは無難にさ、旦那様って呼んでくれるかな? じゃないとマジで数話単位で自己紹介だけで終わりそうなんだもん!」
俺は自棄になり、ややキレながらそう呼んで貰うよう頼み込んだ。
「あ、別に何でもいいですよー。それではこれからは『旦那様』と及びいたしますので……」
『……ちっ』
妻であるシズネさんは軽い口調で、俺の提案を呑んでくれた。あと何故だか選択肢の野郎が舌打ちしてたのは、この際シカトすることにしよう。じゃないとイチイチツッコミを入れていたのでは、こっちの身が持たない。
「もきゅもきゅ♪」
「おわっ!? な、なんだお前か……」
ようやく俺の元に辿り着いたのか、赤い子供ドラゴンは可愛らしい鳴き声と共に俺のズボンの裾をくいくいっと引っ張り、自らの存在アピールしようとしていた。
「(チクショーめ! 可愛いなコイツ……)よしよし」
「もきゅ? もきゅ~っ♪」
俺はソイツに合わせるようしゃがみ込みむと、優しく頭を撫でてやる。背的には俺のちょうど膝下ほどの身長しかないので、本当に『子供ドラゴン』と言ったところだろう。また撫でられるのがくすぐったいのか、両目を瞑り気持ちよさそうに俺の脚にスリスリしている。正直、そんな姿がとても愛らしい♪
「そういえば。コイツの名前は……」
さすがにいつまでも子供ドラゴンと呼ぶのも何なので、コイツを呼び寄せたシズネさんに名前を聞いてみた。
「あっ、この子は『もきゅ子』と言います。ねぇ~もきゅ子~♪」
「もきゅ♪」
シズネさんは優しく声をかけると、そのもきゅ子は「うん♪」と言った感じで右手を挙げていた。
「兄さん、ワテもいまっせぇ~♪」
キィィィィーッ、バタンッ。どうやって施錠されている玄関ドアを開けたのか、そんな声と共に両開きのドアが勢い良く開くと鳩時計の鳩よろしく、外で待機していた黒いドラゴンが首だけを店の中へと強引にねじ込み、そんな挨拶をしてきた。
ギシッ、ギシッ。だがやはり無理があるのか、玄関ドアの木で作られた上部と両端の仕切りにその大きな顔が挟まり、今にもこのレストランが倒壊せなんばかりの音が建物の到るところで奏でられていた。
「いやいや、顔だけ店の中に入ってくるとか怖すぎんだろうがっ!! ってかこの店潰す気なのかよ!?」
鳩の如く首を前後に突き動かしながら、お話は第12話へつづく
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