「それでは笑いで場も温まって来た頃合の様なので、そろそろファンタジーらしき物語を始めましょうかね♪」
「まだ物語始まってなかったのかよ。しかもらしきってのが、読者と俺の不安を嫌に誘いやがるぜ……」
そう言いながらしゃがみ込み、クソメイドは俺の右頬を魔法の杖でグリグリっと抉っているのを止めて立ち上がると、手押し車をしているその大きな黒いドラゴンの前に立ち塞がったのだ。
「もきゅ」
「がるるるるっ」
「くくくっ」
さすがは元魔王様とも言うべきか、ドラゴンを前にしても一切の動揺を見せず、威風堂々の井出立ちで俺とドラゴンの間で立ち塞がっていた。
「(まさか今更になって、このクソメイドが俺を助けてくれるって言うんじゃ……)」
その姿はまるで俺を庇うかのようにも見えてしまうのだが、そんな期待を込めた錯覚も数秒と持たずして、次のクソメイドの言葉により速攻で裏切られてしまうのだった。
「あの~、今後ワタシの店先でゴミを轢くのは止めてくださいね。正直言って、店の中までホコリ立って掃除するのが面倒なんですよ……」
……たぶんその井出立ちが救いの姿に見えたのは、錯覚の類だろう。またそのように見えたのは俺が台車の下敷きとなり、クソメイドを下から見上げていたのも要因かもしれない。
「も、もきゅー」
「が、がぁー」
そしてまるでクソメイドの言葉を理解したかのように、二体のドラゴン達は済まなそうに彼女に対して頭を下げていた。
「マジかよ。ドラゴンが頭下げて謝ってる。あのクソメイドほんとに元魔王なのか。ってか、俺の役割が『背景』どころか、いつの間にか『街のゴミ』へとランクダウンしてんのは、もはや気のせいなんかじゃないよな?」
「人間ヨ……」
だがそんな俺の物語上の立ち位置に対する苦言も、突如として重々しい声が響き渡ると、まるで砂埃のように掻き消されてしまう。
「えっ? この声はどこから……って、まさかコイツからか?」
俺は既に理解していたのだが、物語の摂理的に嫌でもオーバーリアクション気味に驚きの声を上げながら、目の前にいるドラゴン達に目を向けた。……じゃないと今後俺の出番が減らされるだろうと、物語に住む登場人物としての危惧する生存本能的行動だったのかもしれない。
「もきゅもきゅ♪」
「ソウダ。我ノ声ダ」
頭に乗っている赤い子供ドラゴンが『もきゅもきゅ♪』っと鳴きながら、黒いドラゴンの頭をペチペチと叩くと同時に、乗っているドラゴンごと俺の方へと顔を近づけてくる。
「コイツら人間の言葉まで理解してるだけじゃなく、ちゃんと喋れるのか!?」
「ふふふっ。何せドラゴンだからな。人間のような下等生物の言語なんぞ、我々もしっかりと人間の子供に交じって勉強すれば造作もない事よ!!」
そんな俺のセリフに対する補足説明は、何故だかドラゴンからではなく隣にいるクソメイドから聞こえてきていた。しかも何気に『今のワタシ良い仕事しましたよ!』っと言った感じで、俺の方を見ながらドヤ顔を決めてやがるのが更にムカツク案件である。
「何でアンタが代わりに喋ってんだよ。クソメイドもドラゴン種族なのか? そしてドラゴンも子供に交じって人間の言葉覚えてやがったのかよ……」
だがそんな俺の呟きなんぞ最初からコイツらの耳に届いていないのか、まるで無視するかのように物語は進んでゆくのだった。
「あの~度々すみませんが、漢字交じりのカナ表記だと読者の方々から読みづらいと次話から敬遠されてしまうので、普通にしてもらえませんかね?」
「はぁ!? そんなのできるわけねぇだろうが……ってか、物語の登場人物なのに作者視点で読者への配慮してんじゃねぇよ!!」
(そもそもそんな小説今まで見たこと無い……いや、ごめん。これ書いてる作者の野郎、結構この文章スタイル取り入れてやがったわ。もうほぼ作風が全部一緒一緒っ! もう制作手抜き感甚だしいわ!!)
クソメイドのあまりにも物語の摂理を無視した表現に対し、俺は思わず心の中でそんなツッコミをしてしまう。
「もきゅもきゅ♪」
「心得タ」
「何かすみませんね~」
「……しかもできんのかよ。なら最初からそれで喋りやがれよ(ぼそりっ)」
だがまるで俺の言葉を真っ向から批判したいかのように、そこのクソメイドが頼めば何でもできるらしい。きっと本来俺に授かるべきチート能力が、悪魔の微笑みが良く似合うメイド服を着た悪魔に乗っ取られ、奪われてしまったのかもしれない。
「ゴホン……は~い、どもどもぉ~♪ ワテの名は『ジズ』言いますねん。以後よろしゅうな背景の兄さん!」
「はぁ~~~っ!? そ、そのドラゴンの姿で関西弁喋るのかよ!? ってか、アンタまで俺を背景として認識しやがんのかよ!!」
俺はいきなり目の前のドラゴンの口から関西弁が飛び出したことに大層驚き、動揺を隠せずにいた。まさかまさかカナ表記から関西弁になろうとは……誰が夢に見たことだろうか。
「ま、それも現地言語翻訳の弊害ってヤツですね。やはり低予算で物語を組み上げてしまうと、どうしても演出上での歪みと言うか皺寄せみたいなモノが必ず来てしまうんですよ。はぁ~っ、ほんとやれやれですよねぇ~。アニメ化した際には、その辺りが判り難いのでちゃんと直してもらわないと……」
「……そんなの知るかよ。そもそも小説に予算とかどんな仕組みで文章構成されていやがんだ? もしかしてこの物語は、外注で誰かに書いてもらってんのかよ? あとあと既にアニメ化意識しまくってんじゃねぇーこのクソメイドが……」
俺はまだ物語も序盤なのに即行でネタバラシを始めたクソメイドに対して、そんな苦言を示すのだったが、見事なまでのクリスクロスで入れられ反撃されてしまう。
「いやいや外注とか、なぁ~にゴミ虫の分際で自分のこと棚に上げて害虫をディスってんですかね? それは害虫の方々に失礼ってものですよ(笑) そもそもアナタは制作費削減の一番始めの犠牲者なのですよ。だから今なお、そこらに落ちてる山賊ですら挿絵が導入されてるってのに、未だアナタには一枚の挿絵すらも導入されていないのですよ(笑)」
「もきゅきゅ~♪」
「おや兄さん、挿絵が無いんでっかぁ~? そりゃツライでんなぁ~♪ ま、背景やさかい、それも仕方ありまへんなぁ~(笑)」
「ま、マジかよ。そんな理由で俺の挿絵が導入されないわけ? なんだか俺だけ嫌にハブられてんなぁ~、なんて内心思ってたどさ……とほほっ」
聞きたくない制作秘話を聞かされ、俺のHP表示は赤色交じりのドン底表示どころか、既にその表示枠すらも削除されていたのだった……。
常にアニメ化した際の制作費削減を意識しつつ物語を構成しながら、第8話へとつづく
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