「さてっと、メニュー表はこれで良いとして……」
「(ほんとにこれでいいのかよ?)」
そんな俺を他所に、シズネさんは次の話題に話を移そうとしていた。
「それで代金についてなのですが……。まずお客様から注文を受けた際には、必ず先に代金を受け取り、それからオーダーを通して欲しいのです。これはとても大事なことですので、アマネはもちろんですが、旦那様も接客をする時はお忘れなきように注意してくださいね!」
シズネさんは念を押すように何度も繰り返し、右手の人差し指をピンっと立てそのように注意を促していた。
「はぁそうなのか。注文を受けたら、料理よりも先に代金を受け取るのか……うん、分かった」
アマネはその説明がイマイチ理解できないのか、首を傾げながらもどうにか頷いていた。
「シズネさん、それはどういう……」
「あっはい。何故、通常のレストラン同様に料理を食べ終わってからの『後払い』ではなく、注文時の『先払い』にしてもらうかですよね?」
シズネさんはまるで「その言葉を待ってました!」と言わんばかりに、俺の言葉を先回りして言葉を続ける。
「ええ、もちろん一般的なレストランならそうかもしれませんね。ですがワタシはかねがね疑問に思っていたのです」
「「疑問?」」
シズネさんのその言葉に、俺もアマネも口を揃えて繰り返してしまう。
「はい、疑問です。この街では、主に冒険者の方々がレストランを利用されます。ですが皆が皆、常にお金を持ち合わせているわけではないでしょう。これについては、旦那様の方がお詳しいですよね?」
「あっ……そういうことか!」
俺はそこでようやく合点がいった。ある意味ガテン系に勝るとも劣らないかもしれない……ごめん、ちょっと何言ってるか自分でも分からねぇわ。
「うん? 一体どういうわけなのだ? 私にも分かるよう説明してくれ!」
「もきゅ!」
まだダンジョンに潜ったことの無い、アマネが分かり易く教えて欲しいと俺に説明を求めてきた。そして何故か魔王様であるもきゅ子までが「一体どういうことなの?」っと俺のズボンの裾をくいくいっと引っ張り、「説明はよう!」っとせっついてた。
「まぁ簡単に説明するとだな……」
俺は二人でも分かり易く説明することにした。
要するにレストランを訪れる冒険者達は、ダンジョンに潜りそこに落ちているアイテムを売ることで、日々の生活を維持しているわけだ。
だがただ単にダンジョンに潜れば、誰でもアイテムを得られるわけではない。明らかに自分よりも強いモンスターに遭遇した場合、何も盗らずに逃げ帰ることもままあるのだ。
だからベテランの冒険者と言えども、何も得られない日だって当然ある。命からがら街へと帰って来たものの、カネも持ち物も無くしても腹は減るし喉だって渇くのだ。そんなとき目の前にレストランでもあろうものならば、例え無一文だったとしても注文し食べてしまう。そして食べ終わり、いざ精算だと店員に言われ、そこで初めて無銭飲食だと判明することになり、店側としてはどうすることもできず、取りっぱぐれてしまう。つまり持たざる者の強みというやつである。
「……っとまぁ、簡単に説明するとそんな感じだろうな。だからシズネさんはそれを防ぐため、注文を取る際に客から前払いにしてもらおうって腹積もりなんだろ?」
「……旦那様」
隣で今まで黙って俺の説明を聞いていたシズネさんはようやく見直したのか、一言そう呼び納得したように頷いていた。
「へ、へっへ~ん♪」
俺はシズネさんから褒められると思い、少しだけ自慢げに鼻を擦りそのときを待った。だが待てど暮らせど、そのときは訪れるはずもなかったのだ。何故なら……
「旦那様……ぶっちゃけ説明が回りくどくて長いです。そうまでして文字数稼ぎたいのですか?」
「あ、あれ?」
てっきりお褒めの言葉を頂く心構えだった俺は肩透かしを食らい、少しズッコケてしまいそうになる。
「ほら、アマネともきゅ子を見てください。首を傾げすぎてムチウチになりそうですよ!」
「えっ、む、ムチウチっ!?」
俺は思わずアマネともきゅ子に目を向けてしまう。
「「うーん???」」
見ればアマネももきゅ子も首を右へと傾げ、そのまま右側頭部から床に着く勢いだった。ってか、既に着いていたのだ(笑)。
「(器用にバランス取ってんなぁ~っと思ったら、既に頭床に着けちゃってんじゃんか! なんかごめんなぁ~、二人共……)」
俺は声には出さずその様子を見守りながら、心理描写を用いて謝る事にした。
「ま、旦那様はメンドクサイ説明してましたが。お二人共早い話、冒険者カネ持ってねぇ~ぷぎゃ~(笑)。ってことなんです。だから注文時に前金で頂こうと言うことなんです」
「あ~なるほどなるほど。それなら私でも意味を理解したぞ! な!」
「もきゅ!」
シズネさんの簡略すぎる説明とネットスラグ交じりの言語により、アマネももきゅ子も納得した様子である。
「おい、アマネももきゅ子もそんな雑な説明で納得したのかよ!?」
「ああ」
「きゅ!」
本当に納得したのか、コクリっと深く頷いていたのだった……。
丁寧な文字描写も雑な説明には劣るなりなどと思いつつ、お話は第23話へつづく
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