カタカタ、カタカタ。先程から体が小刻みに震え、身動き一つできない状態にある。それもそのはず、俺の目の前には現在のラスボスだというドラゴンがいるのだから……。
「がるるるるるるるっ」
ソイツはお腹を空かせているのか、重低音の唸り声と共に、今にも獲物目掛けて食らいつかん赤く鋭い捕食者の目をしてながら、俺を見つめていた。
「おいおい……こんなのってアリなのかよ? だってよ、まだまだ物語は序盤なんだぜ! それなのに……」
俺はあまりにも急すぎる展開に目をパンダの如く白黒させ、言葉を詰まらせてしまう。
「(どうする? 一体次にどんな行動すりゃ、俺は生き残れるんだ!? これを読んでる読者のみんな、助けてくれ!!)」
『目の前のドラゴンに対してどんな行動をとりますか? 次の選択肢からお選びくださいね♪』
『攻撃する』その鋭い歯で、相手の頭蓋骨ごと噛み砕いて殺せます♪
『防御する』両腕を顔の前でクロスさせ、そのまま噛まずに丸呑みできるようになります♪
『にげる』しかし、クソメイドがまわりこむので逃げられません
『作戦を変更する』はっ?
「…………」
(ごめん、あのさ……何でこの物語は、こんなクソ選択肢しか表示されないわけ? そもそも『攻撃する』が、何でドラゴンの視点なんだよ。防御も防御で、ただ単に俺が食べられ易くなってるだけだしな!! あと『逃げる』もクソメイドが背後にいて逃げれねぇし、そして肝心要の作戦項目な! 補足説明文で『はっ?』ってのはねぇだろう、『はっ?』ってのは。ほんとこんなの見たことも聞いたことねぇよ……)
俺は選ぶに選べないクソ選択肢を前にして、何もすることができなかった。
「おやおや、どうやらお悩みのようですね。それでは一応王道テンプレの『作戦を変更する』でも選びましょうかね♪」
「…………って、アンタが俺の行動選ぶのかよ!?」
俺の苦情も聞かず、何故だか俺が選ぶべき選択肢は隣にいるクソメイドによって勝手に選ばれてしまうようだ。
『認証いたしました。それでは以下より、変更する作戦をお選びくださいませ♪』
『説得する』そもそもドラゴンに言葉通じねぇし、無理じゃねぇの?
『何もしない』ただその場で突っ立ってるだけ
『完全無抵抗主義(いわゆる死んだフリ)を披露する』地面とお友達になれます♪
「結局、どれ選んでも結果が同じじゃねぇかよ。しかも選択肢も選択肢で、俺の了承取らないで認証してんじゃねぇよ……」
もはや補足説明文にツッコミを入れる元気さえも、俺は持ち合わせていなかったのだ!!
「(あと『~のだ!!』じゃねぇよ。勝手に俺の心理描写すんなよな!! まぁ……実際当たってるけどさ)」
「う~ん、これは悩みますよね~。じゃあとりあえず、『ガンスタ』でいきましょうかね♪」
クソメイドは『悩む』と言ってた割りに、容易に俺の作戦行動とやらが決められてしまった。
「いやいや、ガンジーって、あの眼鏡をかけて平和を唱えたおっさんのことだろ? それのスタイルって何だよ!? そもそも『死んだフリ』ってのは本来さ、野生の熊さんにするやつだよね? それが果たして目の前のドラゴンに利くのかよ!? あとあと『ガンスタ』って、ちょっと今風のカッコイイ略称にしてんじゃねぇよクソメイドがっ!!」
「ほんっと背景のクセに、イチイチうっせーヤツですね……これでも食らって黙りやがれ! オラッ!!」
そんな文字稼ぎの抗議の言葉虚しく、俺はクソメイドが放った綺麗な円錐蹴りで両脚を薙ぎ払われてしまい、その衝撃で強制的に顔面から地面へとダイブさせられてしまった。
「ぶっはっ!! いってぇ~っ!?!? 何しやがんだよ、このクソメイ……」
「がるるるるるるっ」
俺はすぐさま顔を上げて、クソメイドへと再度抗議しようと思ったのだったが、目前にはドラゴンが迫り、危うくソイツと初めてのキッスをしてしまいそうになった。
「あっはははっ。ほ、本日はお日柄も良いようで……(ささっ)」
俺はやや乾いた笑いと額から滲み出る脂汗を滴らせると、速攻で顔を地面へとめり込まんばかりに押し付け、死んだフリを決めることにした。まぁめり込ませると言っても、街の通路にはレンガが敷き詰められているのでレンガon俺の顔状態である。
「(これは妥協じゃない。これは決して妥協なんかじゃないんだ。ましてや、クソメイドの言いなりになってるわけじゃない。俺は地面とお友達になりたいんだ……)」
俺は痛いくらい目を瞑り、そして自分に言い聞かせるよう心の中でそんなことを呟き、何とかこの場をやり過ごせるように祈るばかりである。
「…………」
だがどういうわけなのか、ドラゴンは地面とお友達になり無防備な姿を晒している俺に一切の手出しをして来なかったのだ。
「(ど、ドラゴンにも死んだフリが通用するって言うのかよ? ほんとに?)」
俺は戸惑いながらも、顔を少し右横に向けついでに右目も開いてみる。
「もきゅ? もきゅもきゅ?」
「がるるるるぅ?」
どうやら本当に効果があるのか、黒く大きなドラゴンとその頭の上に乗っている赤い子供ドラゴンはどうすればいいのか、戸惑っていた。
「……マジで?」
「ほらぁ~、ワタシの言ったとおりでしょ! ガンスタの前では、例えドラゴンであったとしても、手も足も出せないのですよ♪」
そう言いながらクソメイドは、魔法の杖の柄の部分を俺の頬へと押し付け、後々傷が残らないようグリグリっとねじ回し嫌味を述べていた。
地面に埋まりつつ、第6話へつづく
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