「それでは残りは『食材の仕入れの安定的な取引先』だけだな!」
「あっ、いえ……そちらもワタシがどうにかいたしますので……」
「うん? そちらの問題も、シズネがどうにかできるというのかっ!?」
「…………はい♪」
「ほほぉ~っ♪ それは凄いな!」
そんなアマネの問いかけに対し、シズネさんは「ま、なんとかしましょう……」っと少しだけ口元を緩めて応えてくれた。だから俺達も「まぁシズネさんならどうにか(武力によって)してくれるだろうなぁ~」っと謎の安心感を得て、みんな頷いてしまう。
「それで、あとお客様を呼び寄せる他のアイディアはありませんかね?」
「へっ? さっき新メニューというか、朝食セットは決定なんだよね? 他にも考えるの?」
「ええ。確かにそれで数日間はお客様が大量に押し寄せるでしょうが、それも一時的なものです。すぐに固定客だけが定まり、今と同じく離れていってしまうと思われます」
シズネさんは既に『朝食セット』提供のその後についてを考えているらしい。確かにウチの店も珍しい料理であるナポリタンやもきゅ子の可愛さ、水の無料提供などで数日間はお客を惹きつけることができたが、今はご覧の有様になっている。次へ次へと、新たな戦略は大いに越したことはない。
「そっか……確かにそうかもね」
「はい。常に新しいアイディアを展開していかねば、お店は維持できません」
俺とシズネさんは人がいなくガランっとしている店内を眺め寂しい気持ちになりつつも、この店をどう盛り立てていくかを考えねばならない。
「ふーむっ。ならば……こういうのはどうだろうか?」
「「えっ?」」
「いやなに、以前働いていたレストラン……まぁギルド直営店というか、この店の目の前にある店でのことなのだが……」
突然アマネが口を開き、俺とシズネさんにポツリポツリとお客を惹き寄せるアイディアを説明してくれた。
アマネは以前の店では、最初に勇者として魔王討伐のために雇われたとのこと。しかしアマネは名ばかりの勇者様で魔物と戦った実績もなければ、またその実力も一切何もなかった。
雇い入れてからその事実を知ったギルド側も困り果て、タダ飯食らいのアマネを遊ばせて置くわけにはいかず、一従業員としてレストランで働かせていたのだ。
それも待遇は非常に悪く働いた分のお給金どころか、食事すら一日一つの硬いパンしか与えられなかったらしい。そんな状況を見兼ねてマリーも「なら私の所に来ればいいじゃないの!」などと誘ったらしいのだが、アマネは「それでは義理を欠くことになる……」っと頑なに断わっていたそうだ。
だがそれも向かいの店を俺達……というか、主にジズさんが壊してしまい、いよいよ住む所もまた働き口も同時に失い、俺達の店へ訪れ今に至る。
「そんなことが……あったのですか……」
「だから……屋根裏部屋なんかの部屋を割り当てられてたのか?」
「(コクリ)」
俺とシズネさんはその話を聞き、言葉を濁してしまう。アマネは少し顔は影を落とし頷くと今にも泣いてしまいそうな、とても寂しそうな顔になっていた。
「きゅ~きゅ~っ」
「うん? ふふっ。ああ、もう大丈夫だから安心するがいい。何せ今はキミ達が傍にいるからな……よしよし」
その話を聞いてもきゅ子も悲しいのか、アマネのスカートの裾を引っ張り慰めようとしていた。またアマネもそんなもきゅ子の頭を撫でてやる。
「きゅ~♪」
「んっ♪」
頭を撫でられているもきゅ子は、目を瞑りながら少し首を横に振っていた。でもそれは嫌がっている風ではなく、撫でられるのが少しくすぐったいのだろう。二人共微笑んでいるように俺には見える。
「……まぁ私も悪いのだがな。実力も実績も、また魔物とすら一度たりとも戦った経験すらないのに『勇者』なぞを名乗るなんてな……」
「きゅっ。もきゅきゅ! きゅ……もきゅっ!」
アマネは少し自虐的にそう語るのだったが、もきゅ子は「ううん。全然そんなことないよ! だから……自信を持ってよ!」と右手を挙げてアマネを元気付けていた。
「ええ、ええ。もきゅ子の言うとおりですよ! 例え落第勇者のアマネであろうとも、何かしら役に立つはずですしね! ねっ! 旦那様もそう思いますでしょ?」
「ああ、そうだとも! 例えアマネが落第勇者……いやいや、ちょっと待ちやがれよ、そこのシズネさん。いつも思うけどさ、アンタ口悪すぎんだよっ! もうちょっとオブラートというか、アマネを気遣う優しい言葉くらいかけてやれ……ってか、もきゅ子! お前まで本当にそんなこと言ってたのかっ!?」
「も、もきゅっ!? も~…………きゅきゅっ!!」
そんなシズネさんのあまりにも配慮しない言葉に対し、俺はノリツッコミの雰囲気を醸し出しながら怒った。あとついでにもきゅ子にもその真意を問いただすと、「えっ!? あ~……そうかもしれないっ!!」との返事が返ってきてしまった。どうやら強ちシズネさんの翻訳も間違いではなかったらしい。
「ほらほらぁ~、もきゅ子だってもきゅ語だから読者にバレないだけで、実は結構腹黒いこと言ってるんですよ~。ね、もきゅ子?」
「きゅ? …………きゅっ!」
「ってマジかよ……俺、すっかり騙されてたのかぁ~っ!?」
シズネさんは、「ほれ、みたことか! もきゅ子も見た目の可愛さを武器にしているだけなのですよ!」などともきゅ子の同意を得て、本音トークを暴露していたのだ。
「…………」
「「あっ!?」」
「もきゅ!?」
そこでようやく俺達は気が付いた。隣にアマネがいたことを……そして、無言で下を向き俯いている姿を……視界に入れてしまった。
「ふふふふふっ。あはははははっ。あっ~はっはっはっ」
「「「っ!?」」」
そして突如としてアマネは大きな笑い声を上げ、お腹を抱えている。それはまるで気でも狂ったかのうような、そんな笑いだった。
「あ、アマネ? 大丈夫……なのか?」
俺は心配になり思わず、声をかけてしまう。
「ははっ……うん? ああ、いやいやこれはすまんすまん。いや、なに、別に気が触れたわけではないのだぞ。私はな……嬉しいのだ。このように心配してくれる仲間がいてくれる……ただそれだけでも十分すぎるのだ!」
「アマネ……」
アマネは笑っていたかと思うと、目元に光ものが溜まっていた。そして右人差し指の腹を当て、それを拭った。アマネはディスられたというのに、それでも「嬉しい……」そんなことが言えてしまうほど、辛い生活をしていたのかもしれない。
「ま、アマネも今となってはウチに必要な勇者様になっておりますからね。既にこの店は貴女が居なければ、回らないと言っても過言ではないのですよ! だからいつまでここに居ても良いですからね……ね? もきゅ子、旦那様?」
「もきゅ!」
「ああ、そんなの当たり前だろ!」
シズネさんも「ま、ウチで働けば飯くらいは出してやんよ。だからこれからもウチの店で働きやがれよ!」とアマネを高く評価していた。俺ももきゅ子も口には出さないが、既にアマネは無くてはならない存在になりつつあったのだ。
「みんな……みんな、ありがとう!!」
アマネは俺達に頭を下げ、感謝している。
「ま、かくゆう俺だってさ、昔はアマネと同じように苦労を重ね……」
「あっ、そういえばアマネのアイディアとは何のでしょうか?」
「もきゅ!」
「うん? ああ、そうだったな。話が脱線したままだったな。うむ、私は以前の店で……」
俺も自分の身の上話をしようとしたのだがシズネさんに邪魔をされ、華麗にスルーされてしまうのだった。
ハヤシライスの如く月イチでスルー推奨しながらも、お話は第48話へつづく
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