「さてっと、ところでアナタ方はどうしてワタシのお店にいらしたのですかね? あっ、もしかしてお食事なのですか♪ ウチのオススメはですね~、お箸でも切れるこのステーキなんですよ~。ま、その分値も張るのですが……」
「あっ、おい! 俺を置き去りにして、何しれっと物語進めようとしてんだよ!? しかもそこはナポリタンじゃねぇのかよ!? お箸でも切れるステーキとか、俺だって実は興味津々なんだよ! おい、ってば!!」
今なお移動式商店の台車の餌食になってる俺を捨て置き、クソメイドはどこから取り出したのか店のメニュー表をドラゴン達に翳して、物語を強引に進めようとしていた。
「(そもそも自分で笛吹いてアイツら呼びやがったクセに、なに自分ん店の高級料理食わせようとしているわけ? きっとそのステーキも安く仕上げるため、絶対『軟化剤』とか使いやがってるはずだって……そもそもタイトル回収にゃ~、まだまだ展開が早いっての! あと周りにいる連中も少しはこの状況を突っ込みやがれよ!!)」
第三者から見たら、さぞかしこの光景は異様に映るはずだ。何せ台車に轢かれ叫んでいる男(俺)と、メイド服を着た元魔王(クソメイド)と、頭にカワイイ子供ドラゴンを乗っけ、家よりも遥かに巨大なドラゴン(現在のラスボス)が店先で佇み、そこらかしこには数十人の山賊達が転がっている状況なのである。
むしろ何食わぬ顔でこれらを素通りしている、この街の住人が一番に異様に思えてしまい実は怖かったのだ。
「きっとこの街の住人達は、面倒ごとには一切関わらない立ち位置……いわゆる絶対的第三者能力に長けているのですよ! ちなみにパイナップルではなく、マンゴーの絞り汁を肉に浸して使う予定ですので……」
「もきゅ!」
「ま、その分彼らは出番が減るって話をワテも聞いてますさかい、もしかすると兄さんは意外に恵まれてるのかもしれまへんで~」
「……それ、ほんとなのかよ? 台車の餌食になっても出番がある俺ってさ、実は恵まれてんの?」
俺はその言葉を聞いて、僅かながらに自分の存在意義に希望を見出してしまう。
「そうやそうや、昔から『信じる者は足元すくわれるぅ~』って、言いますさかいなぁ~……ぶっはっはっはっ」
「えぇ、えぇ。ほんと文字通り、ワタシがアナタの足元を見事すくってあげましたしねぇ~……くくくっ……あっ~はっはっはっ」
「もきゅもきゅ! ……ぶふっ」
「……全然ダメじゃねぇかよ。あと盛大に笑ってんじゃねぇよ、てめえら」
黒いドラゴンもクソメイドも大口を開けて笑い、赤い子供ドラゴンも笑いを堪えるよう必死に口元を押さえていたのだが、生憎と手が小さいため俺の耳に届くほどには笑っていたのだ。
「んぅ~~~っ! こんのぉ~~っ、くそ、めいどぉぉぉ~~、がぁっと!! はぁはぁ、はぁはぁ……よ、ようやく出れたぜ!!」
「……ちっ」
俺はどうにかこうにか、背中に乗っている車輪を横へと滑らせるように退かす事に成功し、数話ぶりに晴れて自由の身になることができた。ああ、自由とはなんとも喜ばしいことなのか……まぁその俺自前の救出劇を見て、すっげぇ残念そうに舌打ちするクソメイドが隣に居たのは、たぶん気のせいレベルの話ではないだろう。
「で、この店……ってかアンタ、ナポリタン以外の料理も作れんだろ? なら、俺なんか最初からいらねぇだろ?」
「えっ? ワタシはナポリタン専用ですよ。そもそもいつ誰が、他の料理が出来ると言いましたかね?」
お目目パチパチ。俺は上手く状況が飲み込めず、メバチマグロに匹敵至難ばかりの瞬きを披露してしまうのだった。
「……へっ?」
「……えっ?」
「……もきゅ?」
「……なんやなんや?」
俺達二人は互いに首を右横へと傾げて、カワイコちゃんぶってみた。またそんな俺達に釣られるよう目の前のドラゴン達も、俺達とは逆方向に首を傾げている。何だかそれがちょっとカワイイ。
まぁ挿絵が導入され無いのに、いつまでも文字描写だけで読者に対して可愛子ちゃんアピールしてても仕方ないので、そろそろ本題に戻る事にする。
「えっ? だってさっき言っていたメニューだかに『ステーキ』って書いてあるんだろ? なら、アンタ他の料理も作れるんじゃ……」
「あ~、あ~、そうゆう意味でしたか!! あれはただ単にメニュー表が『ナポリタン』一品だけですと、スッカスカの空白だらけなってしまうので、彩りを添える形として書いてるだけです。だから万が一、ウチに来た客共がステーキを注文しても、全部ナポリタンしか出てきませんので大丈夫です♪」
どうやらクソメイドは自分の発言を棚上げして、あくまでもナポリタンしか提供したくないようだ。きっとここいらで正式なタイトル回収を謀りたいのかもしれない。
「……ごめん、ちょっとアンタが何言ってるのか理解できないわ。それにそれは『大丈夫』の部類には一切入らねぇんだよ」
(何々どういうことなの? 要はこのクソメイドは、ナポリタンしか料理が作れないけどメニュー表にはその他の料理名も載せている。けれども注文して出てくるのは、なんとナポリタンオンリーしか出てこないで、しかも価格はその他料理料金のままで。……おいおい、それは自称自営業の方々(通称893)直営のお店よりも本格的にやべぇじゃねぇかよ。いやまぁ、山賊達が代金支払う時の強奪シーン見てたから、薄々は気付いてたんだけどね)
「ま、そうゆうことですね! いやぁ~、世の中はなんとも非常で世知辛いですねぇ~♪」
「……だから勝手に俺の心理描写をリーディングして、そのまま会話続けてんじゃねぇよ。もうあまりにも会話のキャッチボールが斬新すぎて、読者なんかお口をアングリ開けてこれ見てやがんぞ!!」
俺は読者の心の内を代弁する体で、クソメイドにクレームを付けると同時に自らの意見に賛同を得ようと画策する。
うん、画策しようとしたのだったが、生憎とこれを読んでくださってる読者の方々すべては、俺よりも見た目美少女(クソメイド)支持派が圧倒的に多く、「次話より始まる本編は、きっとこんなプロローグ程度の傍若無人っぷりではないだろうなぁ~」などと、今から恐れ戦いてしまうのだった……。
小野小町の如く、恐れ戦きながら『-第2章- 第9話 そろそろ本編開始してみる?』へとつづく
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