「じゃあ、これで今後一切ギルドの邪魔は入らないってことなのかな?」
「そうですねぇ~。あれほど痛い目にあったので、もうワタシに刃向かうことはないでしょうね。ま、ワタシとしては、むしろ刃向かってくれる方が楽しめるので、ちょっぴり残念な気はしますけど」
シズネさんは本当に残念なのか、しょんぼりとした顔で落ち込んでいた。
「(おっほぉ~♪ どうやらシズネさんは、まだまだ暴れ足りないみたいだぞ~。でもきっと台本があるとするならば、ここいらで誰かしら訪ねて来たりす……)」
ガチャガチャ、ガチャガチャ。コンコン、コンコン……コココココココココ、コン♪ そんな俺の願いが通じたのか、はたまた超ご都合主義に作者の野郎めが目覚めてしまったのか、突如として乱暴に施錠されている玄関ドアのノブが回されると、間を置かずして、まるで矢のように返事を催促する激しいノックがされるのだった。
「だ、誰か来たみたいだよ、シズネさん。もしかして……」
(すっげぇ激しいノックだよな。こりゃ下手しなくても、見つかったんじゃねぇのか?)
俺は速攻でケチャップ製造の犯罪現場が見つかってしまったのではないかと、妻であるシズネさんの名前を呼んでみた。
「あらあら~、ウチの店にキツネさんでもいらしたのですかねぇ~♪」
「いや、仮にキツネさんならドアノブ回さねぇだろうが……。何ファンシーな匂い醸し出そうとしてやがるんだよ」
ガチャリッ。シズネさんは俺の苦言を物ともせず、また誰が来たかの確認もせずに何食わぬ顔でドアのロックを解除してしまったのだ。
「ちょおまっ!? シズネさんっ!!」
そのあまりにも無用心すぎるその行動に対し、俺はオマ国非対応の如く半端な言葉と共に名前を呼んで止めようとした。だがしかし、それも時既に遅しであった。
バンッ!! すると蹴破るように勢い良くドアが開かれ、その子は現れたのだった。
「コンニチハー! あなたの街の『勇者アマネ』で~す♪」
「……はっ? ゆ、勇者? 勇者ってまさか……っ!?」
(何でよりにもよって、この場面で勇者が来店して来やがるんだよ!?)
俺はいきなり元気良く挨拶をしながら入って来た、自称『勇者』と名乗る長く赤い髪を靡かせている美少女に目を奪われてしまうのだった。
そして彼女は何故だか、右手に伝説の剣らしきモノを既に鞘から抜いて装備し、左手には盾を持っていた。それはもはや殺る気満々と言った感じかもしれない。
「おやおや、これはこれは……」
さすがのシズネさんでもこの場面での勇者の来店には大層驚いたのか、言葉を上手く続けられな……
「まさかあの伝説の勇者様がご来店になるとは……いやはや、ワタシの店も随分有名になったものですねぇ~♪」
「(俺の文字数稼ぎ目的の補足説明文を潰した挙句、何自分ん店の評判気にしやがってるだよ)」
そんな心の内を秘めている俺をお構いなしに、シズネさんは来店してきた勇者の応対をしようとしていた。
「それで勇者様、本日はお食事にいらしたのですかね?」
「ふむ。実は私ギルドに所属する『勇者』なのだが……いつもは向かいの店で食事をしていたのだが、どうやら何者かに襲撃されたのか、店が木っ端微塵に破壊されててな。それでコチラのお店に寄らしてもらったのだが、今日は営業しているのかな?」
さすがは勇者様なのか、すっごく偉そうな物言いでシズネさんの問いに答えていた。
「(ってか、ギルドの回し者の勇者様なのかよ!? し、シズネさん! シズネさんってば!! これはマズイってば!!)」
俺はギルドの回し者である勇者と応対しているシズネさんに聞こえるくらいの小声で彼女を呼ぶと、右手をピロピロピロ~ッ♪ っと素早くそしてスナップを利かせながら、残像が見え隠れするほど高速の手招きをしてコチラ側に呼ぼうと画策する。
「そうだったのですか! それはそれは……おや、旦那様。どうかなさいましたか? そんな招き猫のようなマネをなさって」
「うん? 旦那様? もしかしてキミ達、二人は夫婦なのか?」
「あっいや、その……」
シズネさんだけでなく、勇者と名乗る美少女まで俺の方を向いてしまったのは誤算である。だが、そんな俺をシズネさんがフォローしてくれる。
「ええ。そうなのです。実は最近この街に越してきまして、それで旦那様である彼とそこらで出逢い、このレストランを買い上げて、共にお店を営んでいこうかと思いまして……ね? 旦那様?」
「あ、ああ……そうなんだ。まだ分からないことばかりで戸惑ってるけど、どうにかこのレストランで食べていけるようには繁盛させたいかなぁ……」
シズネさんは怪しまれないよう仲良しアピールのため、俺の右腕を抱きついてきた。
当の俺はというと、いきなりシズネさんとの距離が縮まってしまい、気が気ではなかった。それに右腕には、お淑やかでありつつも柔らかい何かが当たり、余計ドギマギしてしまう。だがそんな挙動不審の俺の行動が逆に初々しさを助長し、かえって自然に見えるのかもしれない。
「ほほぉ~っ♪ それは何とも羨ましいなぁ~♪ 私のような無骨者では、異性とのそのような出逢いすらも無いのだぞ! いつもダンジョンに潜り、魔物と戦う毎日なのだ。ふむふむ……」
勇者であるその子は、右手を顎に当てながらまるで俺を値踏みするかのように、じっくりと観察していた。
「じーっ」
「……うっ」
美少女とはいえ、じーっと見られるのは妙な気分である。また彼女はギルド側の人間なので、余計緊張してしまう。
「(ってか、この勇者様もごくナチュラルに効果音を自らのセリフにして、制作費削減に貢献しやがってるぞ!?)」
もはや未書籍化の予算無関係な小説だろうが、アニメ化した際の制作費削減を念頭に置かねば、物語は成り立つ気配をみせないのかもしれない。
登場人物すべてがアニメ化した際の制作費削減を意識しつつ、第18話へつづく
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