「それで旦那様、何か良い考えをお持ちなのでしょうか?」
「うん。仕入れルートについての解決策は思いつかないけれども、お客を呼び戻すアイディアはいくつか思いついたかな。まぁ……と言ってもどれもありきたりなんだけどね」
俺は改めて言うのも恥ずかしいなぁ~っという思いで、頬を指で掻いてしまう。
「ふむっ」
「ほほぉ~っ」
「もきゅ~」
みんな関心するように頷き、「一体どのようなアイディアなのか?」と前のめりになって話を聞こうとしている。
これは謙遜とかではなく本当に大したアイディアではないので、正直身を乗り出すほどまでに期待されるとこちらも身の置き場所に困ってしまう。だが先程泣かせてしまったもきゅ子のためにも、俺はみんなに説明することにした。
「まずウチの店では今、ナポリタン一品しか提供できていないよね? まぁエールもあるけれども、これは飲み物だから今は除外して……。他にも料理を提供できれば、再度店を訪れてくれるお客がリピートしてくれると思うんだ。いくらウチのナポリタンが美味しくても、さすがに三食を食べたいとは思わないしね。そこが飽きられる要因だと思う」
俺はまずメニューの強化を提案してみた。
まぁこれは当たり前というか、当然すぎて拍子抜けかもしれないのだが、実際作業効率に不慣れな俺達では日々の仕事をこなすだけで精一杯だったのだ。そこにいつまでも甘えていたため、お客さんが離れたのだろうと思ってはいた。
「うむ。確かにそれは一理ありますね。例え一品だけでも増やす事ができれば、朝と昼などと交互に食べることにより、ローテーションを組む事ができますよね。もしメニュー開発が上手くいけば、一日二回などお客様を呼び寄せることもできますね」
シズネさんは俺の言葉を補足するように頷きながら、アマネともきゅ子に説明している。
「うーん」
「もきゅー」
だが、アマネももきゅ子も今の話を聞いて首を捻っていた。……もしかしてまた眠いのかな?
「アマネ? もきゅ子? 今の提案に何か疑問があるって言うのか?」
「あら、そうなのですか?」
俺は二人がお眠さんではないと信じ、話しかけてみる。またシズネさんも同じ気持ちなのかもしれない。
「ふむ。まぁ疑問というか、なんというか……つまり、今の話だと新しい料理をメニューに加えようという事なのだろ? それは容易なことではないと思うのだがな」
「もきゅ!」
「(良かった。どうやら寝ていて話を聞いていなかったのではないようだ。というか、アマネにしてはまともな意見すぎるのだが……一体どうした?)」
などと若干失礼なことをアマネともきゅ子に対し、思ってしまう俺はいけない子。
「そうですね……作業効率の問題もありますしね。あまり難しい料理ですと作るのも手間ですし、調理時間だってかかります。それにメニュー価格だって考えないといけません。旦那様、そのあたりはどうお考えなのでしょうか?」
シズネさんの懸念も実はそこにあると口に出すのだが、俺は尽かさず補足することにした。
「うん、それについても考えてはいるさ。ま、簡単というか……朝食のメニューをそのまま提供すればいいと思ってるんだ」
「えっ? 朝食メニューなのですか? それって……」
「ああ。俺達が毎日朝食べてたやつだよ、シズネさん」
<パン、ソーセージ、目玉焼き、コーンを載せた朝食セット>
そう俺が考えた新たなメニューとは簡単で値段も比較的安価に抑え、尚且つ調理時間が短く手間もあまりかからない朝食メニューだった。これならば今まで昼からの営業だったのを朝から開店させることができるので、今まで以上にお客さんを呼ぶことができるだろう。
また開店時間を早めることにより、他店との差別化も計れるだろう。まぁその他店とやらも今は無いのだけれども、あのギルドがこのまま黙っているわけがない。きっと新たに食事を提供する店を作るか、空き店舗を改装して作るだろうとの懸念もあったのだ。
「どう……かな、シズネさん? やっぱりこんなアイディアじゃダメ?」
「ふむ……」
俺はあまりに大した事のないアイディアだったので、「くだらなすぎて、今にもシズネさんがブチ切れるのではないか?」っと内心気が気ではなかった。そして少し顔を伏し目、お伺いをするように聞いてみた。
だが当のシズネさんは考えるように明後日の方向に視線を送りながら、顎に手を当て何かを考えている様子。
「あの、シズネさん……」
「ああ、すみません。少し考えていましてね。ふむ……良きアイディアだと思いますよ。ワタシは今まで朝食を提供しようなどとは思ってませんでしたしね。ですがそこにエッセンスを加味してはどうかなぁ~、などと思いましてね」
さすがのシズネさんも寝ていたわけではなく、俺が提案したアイディアに対し更なるアイディアを重ねようと考えててくれたらしい。
「エッセンス? というと、あの朝食に何か料理というかアレンジを付け加える感じなのかな?」
シズネさんの言ったことのイマイチ要領を得ず、俺が思いついたのがそれだった。
「あっ、いえいえワタシが考えていたのは料理に対してではありませんよ。なんといいますか、このまま朝食メニューを始めたとしても、今までそのような習慣がありませんでしたよね? こう、我々のようなレストランで食事をするのは昼もしくは夜のみ。つまり朝食を外食するという、習慣が根付いていないので我々作る側よりも来店するお客様が受け入れてくれるかどうかという……」
シズネさんも俺にどう説明すれば良いのやらと言葉をどうにかこうにか紡ぎ、説明してくれた。
要はこの街のレストラン……まぁぶっちゃけ今はウチの店だけなのだが、そこを利用するのは元からいる街に住んでいる住民よりも、他所から来た冒険者が主なターゲットなわけだ。宿屋では朝食を提供する習慣もなく、利用する冒険者達もまた食べる習慣がない。「だからウチの店で突発的に朝食を提供しようにも、ニーズがないのではないか?」そうシズネさんは言いたいらしい。
「ま、そんな感じですね!」
「いや、俺が簡単に説明したのをしれっと盗らないでよシズネさん。ちと、盗人猛々しすぎるよ……」
何故か俺が読者へ説明した話をまるで自分が説明したかのように振る舞い、ドヤ顔を決め込んでいるシズネさんがそこにはいた。
「うむ。シズネの話も一理あるな……それでどうすると言うのだ? 早くその考えとやらを説明してくれないか!」
「もきゅ~?」
アマネともきゅ子は「やべっ。コイツらが今まで何の話してたか分からないけど、とりあえず急かしておけば誤魔化せるだろ!」などと言いたげに捲くし立てていた。
「ふふっ。そうですね……ここは情報戦といきますかね♪」
「「情報戦っ!?」」
「もきゅっ!?」
いきなり突拍子もない言葉が飛び出し、俺もアマネもそしてもきゅ子までもが驚いてしまう。
「シズネさん、その情報戦ってのは一体……」
「ええ、いわゆるステルスマーケティングというヤツですね!」
シズネさんは自信満々にそう宣言したのだった……。
朝食を外で食べる習慣が無い冒険者達にそれをどうやって知らしめるのか、それを次話までにどうにか考えつつ、お話は第46話へつづく
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