「(このままの体勢を維持すれば、なんとかやり過ごせるかもしれないな……)」
俺は今なお地面に左頬を擦りつけ、右頬はクソメイドの魔法の杖の餌食となりながらも、そんなことを思いどうにかこの危機的状況を乗り越えようとしていた。
「きゅ~っ、きゅ~っ」
「がぁ~っ、がぁ~っ」
何やら俺の上の方で、ドラゴン達が悲しそうな声で鳴いているのが聞こえている。
たぶんその会話らしきものを翻訳すると、
「どうしよう、ガンスタ決められちゃったよぉ~」
「こりゃ~俺達じゃ、手も足も出せないなぁ~」
っと言ったところかもしれない。
「(ふふふっ。さすがの極悪非道人畜無害なドラゴン共と言えども、俺の演技にゃ敵わねぇだろうなぁ~)」
俺は貴族に賄賂を送る商人のように悪い笑みを浮かべつつ、そんなことを思ってしまう。だがしかし、そんな俺のターンも突如として終焉の時を迎えてしまうのだった。
「もきゅもきゅ!」
「がぁ? がぁがぁ!」
何やら頭に乗っている赤い子供ドラゴンが手足をバタバタさせ、騒いでいる。またそれに呼応するように黒く巨大なドラゴンも、何かをしようと動き出そうとしていた。たぶん小さいのが何かを見つけて、教えたのかもしれない。
「(アイツら、何に反応してやがんだよ?)」
少し目を開け覗き見ると、ドラゴン達は俺に背を向けて、何かを必死に探しているようだった。
「(アッチに何か興味を惹くような物でもあんのか?)あてっ……あっ」
そんなドラゴン達の様子が気になり、体を起こし連中を見上げたのが不味かったのか、少し地面にある砂で右手が滑ってしまい、ズサッ。っと小さな音を立ててしまい、思わず声が出てしまった。
「……もきゅ?」
「……がぁ?」
そんな小さな音でも気を惹いてしまったのか、突如としてドラゴン達が一人称視点ゲームでありがちなクイックターンのように、右足を軸にしてクルリっと180度こちらを振り向き、そこでふとソイツら四つの目が、地面で死んだフリを決め込んでいる俺のお目目と合ってしまう。
「まずっ!?」
俺は反射的に顔ごとうつ伏せにすると、両手を太もも脇へとピシャリっと添えると気をつけの姿勢よろしく、地面と同化することに努めた。
ドッ、スーン。ガッシャーン。ドッ、スーン。ガッシャーン。そしてドラゴンが俺の方へと再び動き出したのか、道路に敷き詰められているレンガが砕け散る音だけが辺り一帯に響き渡っている。
「(大丈夫、まだバレてない。アイツらには絶対バレるわけがないんだ……俺は地面だ。将来有望のレンガ作りの道路さんなんだ……)」
俺は唯一の望みであるように、自分がレンガだと言い聞かせることで現実逃避をしていた。
少し間を置くと俺が横たわってる近くで、きゅるきゅる、きゅるきゅる……。っと、何かが軽く擦れるような音が俺の耳にまで届いてきていた。だが当の俺は地面と一体化するため必死にブツブツと呟きながら、現実逃避する事を止められずにいた。
「(そして俺の将来の夢は、高級住宅地の庭に埋められる理想のレン……)ガぁ~っ!? ぐほぉっ!! いってぇ~、チクショー一体何が起こったって言うんだよ……」
だが、突如として背中にこれまで感じた事のない衝撃と痛みが襲い、思わず大声をあげてしまう。そして背中の上から何かで圧させつけられ、その重みで身動き一つできなくなってしまった。
「って、何でこんなもんが俺の上に乗っていやがるんだっ!?」
首だけはどうにか動かせるので再び顔を横に向けると、俺の背中には何故だか車輪付きの台車が乗っているのが見えてしまう。そして台車の持ち手部分のところには、起用にも二本足で立ちその大きな手にも関わらず、手押し車のように俺を轢き殺そうとしているドラゴンがいたのだ。
「あ~たぶんなのですが、このドラゴン達も死んだフリによって手も足も出せないからっと、道具を使ったのですね! なかなかこのドラゴン達も頭が良いですよね♪」
俺が台車に轢かれる横でしゃがみ、この危機的状況を楽しんでいるメイド服を着た悪魔が笑みを浮かべてそこにいた。
「何笑ってやがんだよ……このクソメイドが……」
「おやおや~、何やらゴミ虫の鳴き声が聞こえますね~。一体どこで鳴いているのでしょうか……ねぇ~♪」
グリグリ、グリグリ……っと、再び魔法の杖俺の右頬を抉るのを再開し出しやがった。しかも『ねぇ~♪』などと俺の目を見ながら言葉をかけてきた。
「ふにゃにゃ、ふにゃ~」
「おや~、猫さんでもいるのですかね~。ふふふふふっ」
俺は強制笑窪が出来てしまうほど、ねじ込まれまともに喋れなくなってしまう。まさに『死人に鞭打つ』とは、このクソメイドの為に作られた非人道的言葉なのかもしれない。
「いや、まだ死んでねぇっての……」
「もきゅもきゅ♪」
「がっははははっ♪」
俺の絶妙なノリツッコミが面白かったのか、それとも下敷きになり滑稽な姿を晒しているのがそんなに可笑しいのか、二体のドラゴンは歯が見えるほど大きな口を開けながら笑っていた。
今のドラゴン達の笑いを翻訳するならば、
「見てみて~、なんか地面に落ちてるゴミが喋ってるよ~。でもさすがに、ガンジースタイル出された時にゃ、私達も焦ったよね~♪」
「でもさぁ~発想の転換っていうか、ガンスタのせいで手も足も出せないから、そこらに置いてあった移動式の野外商店を使うのは、なかなかのトンチが利いたアイディアじゃないかなぁ~? ま、どちらにしてもあの無様な姿は笑えるね~♪」
などと差し詰めそんなことを言いたいのかもしれない。
ドラゴンにさえ馬鹿にされつつ、お話は第7話につづく
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