「大変お待たせいたしました~♪ ナポリタンがお二つになります♪」
シズネさんは先程とは打って変わった対応で、ちゃんとした接客をしている。
「あら、案外早かったわね。もっと時間がかかるのかと思ってたわよ。もしかして生麺を使っているのかしら?」
「うわぁぁぁ~っ。美味しそうな匂いですね~♪」
「もきゅ♪」
調理時間があまりにも早く予想外だったのか、マリーは少し驚いた様子である。またそれと同時にアヤメさんともきゅ子はケチャップが奏でる音と匂いだけで既に舌包みしている。
「ふふっ。お客様をお待たせしないのも、当店のサービスですので……ね♪」
「むっ」
シズネさんは誇らしいのか、口元を緩め右側だけを少し吊り上げ「えっ? ウチの店だとこれくらい当然だけど……あら、貴女のお店は違うのかしらね(笑)」っと勝ち誇りマリーの目の前にナポリタンを置いた。またマリーもそんなシズネさんの態度が癇に障ったのか、ちょっと少し眉を顰めたのが見てとれる。
「何で客に喧嘩売ってんだよ……ったく。アヤメさんもお待たせ♪ あともきゅ子預かっててくれて、あり……」
「はぃぃぃぃっ。待ってました。待ってましたよ~……この瞬間を! それでは、いただきまーす♪」
アヤメさんの目の前にナポリタンを置き、もきゅ子を預かってたお礼を述べようとしてのだが、アヤメさんは「とても待ちきれませんでした!」といった様子で、もきゅ子を隣の空いている椅子へと乗せた。
そしてシズネさんが紙ナプキンを敷いてフォークの配膳をする前にその手から受け取ると、主であるマリーを待たずしてさっそく食べ始めのだ。
「ふぉぉぉおっ!! これは、これは……とても美味しいですね~♪」
見た目のとても落ち着いた年上お姉さんとは思えない、そんなアヤメさんが目の前にいる。目の前のナポリタンの山に頭からフォークを突っ込み、クルクルっとフォークを回してそのままイートイン♪
「ははっ」
「ふふっ。まったくもう……ほんとアヤメらしいわね」
普段からこうなのか、マリーは少し呆れながらも笑い、俺もまた見た目とのギャップに少し笑ってしまう。
「ふぁんですか~、おふぉうちゃま」
余程お腹が空いていたのか、アヤメさんはリスのように頬を膨らませ喋っている。きっと「なんですか、お嬢様……キリッ」と表現したいのだろうが、如何せんそれには無理がありすぎる様だ。
「はぁ~っ。食べながら喋らないの。まったく……ほぉ~らもうアヤメったら、口周りがケチャップだらけじゃないの。女の子なんだからちゃんとしなさいよね!!」
「ふみまふぇ~ん」
マリーはそんな口周りを赤く染めた、ナポリタン捕食専用アヤメさんの口元を手元のナプキンで拭いていた。これではどちらが年上なのか、分からない。
どうやら食事のこととなると、アヤメさんはいつもこうなるようだ。そんなところも可愛らしい。
「ふぇすが……ゴクン。で、ですがお嬢様、このナポリタンは絶品なんですよ! お嬢様も食べてみてください!!」
「……そうね。いつまでもアヤメの世話ばかりじゃ、せっかくの料理が冷めてしまうものね。それではいただくわね」
マリーは『世話』という部分を嫌に強調すると、紙ナプキン上に置かれたフォークを手に取った。
「(もぐもぐ)……へぇ~、これはなかなかね」
プライドが許さないのか、もしくはただ単にシズネさんに美味しいと言ってしまうのが癪なのか、「それなりに美味しいんじゃなくて?」などとぶった態度を取っていた。
「ふっ♪」
シズネさんもそんなマリーの強がりが理解しているように、少しだけ口元を上げ「ほんとは美味しいんでしょ? ね? ね? ほらほらぁ~美味しいなら美味しいって、素直に言えばいいのにさ。お子様のクセにやせ我慢なんかしちゃって……何コイツ、ぶってんの? ツンデレ? ははっツンデレ? 古いっーの(笑)」っと俺でも判り易い表情を浮かべていた。
「むっ!?」
マリーもマリーでそんな余裕綽々な顔をされ、少しご立腹気味になっていた。そしてそんな俺の地の文を汲み取るように、マリーが口を開いた。
「ま、それなりに、は美味しいわね。でもこれ……デュラムセモリナ粉100%の乾麺を使ってるのでしょ? まぁこの程度の店じゃあ~……ね。ふふっ」
「ぐぬぬぬぬっ」
マリーは一口食べただけで、このナポリタンに使われている麺が何かを言い当てた。しかも銘柄まで……。
「な、何でそんなことまで分かるんだよ……。た、たった一口食べただけなのに……」
「ま、私にかかればこの程度のことは食べなくても分かるわよ。どうかしら、見直した?」
マリーは椅子から立ち上がると、偉そうに腰へと両手を当てとても自慢げにしていた。尤も俺もそんな底知れぬマリーの実力に驚きの声をあげてしまったのは事実だ。
「(あと細かいかも知れないけれども、一応マリーも一口は食べたよな? なら、食べなくてもってのは矛盾してるよな?)」
だが例え行動と言動が違っていたとしても、材料を言い当てたのは揺るがない事実だった。
「あのー、これってもしかしてウチで卸してる業務用の乾麺ですかね? 確かこの辺りでは、ウチの商業ギルドでしか販売を許可していないはずですし……間違いありませんよね?」
「あっ……お、おやおや、良く判りましたね! そうです、実はそうなんですよ!!」
横から口を挟むように、アヤメさんはシズネさんにそんなことを訪ねていた。
「……ま、というよりもワタシも注文を受ける際、ちゃ~んと説明しましたし……ねぇ~っ?」
「あ、アヤメっ!? 貴女、一体どっちの……っ!?」
シズネさんはしてやったりというような、「ふふっ。身内に裏切られちゃいましたね♪」などとニヤニヤ笑みを浮かべながら、マリーへ顔を向けた。
またマリーもすぐさまアヤメさんに対して文句を言おうとしたのだが、シズネさんがこちらを向いていると気付くなり、かあぁぁぁっと顔を赤らめるととても悔しいのか、テーブル下へと向けスカートを両手を掴んでいる。
「あっ、すみませんお嬢様……つい」
そんなマリーを見て失言だったと気付くと、アヤメさんは少し頭を下げ謝罪した。
「それでもさ、一瞬とは言えシズネさんもマリーの言ってることに驚いた顔してたよね?」
「えっ? あっいや、その、旦那様。ワタシは最初から……」
俺がそんな横槍を入れると、シズネさんは焦ったように慌てた感じを言い繕うとしていた。だがそんなシズネさんを遮るように、俺が先に言葉を発した。
「アヤメさんのフォローというか、そのきっかけが無ければシズネさんだって説明したのを忘れたわけでしょ?」
「ううっ」
図星だったのか、シズネさんは「旦那様はどちらの味方なのですか!?」っとたじろぎながら、動揺している。
「……ふん! 別に貴方に助けて欲しいだなんて、私は一言足りとも言っていないわよ!! でも……あ、ありがと……」
マリーはフォローをした俺に怒った態度をとりながらも、先程より顔を赤くしていた。どうやら照れているらしい。
「さぁさぁ。マリーも気を取り直して、ナポリタンが冷める前にマリーも食べちまえよ。美味しいものを食べれば、気分も良くなるだろ? な?」
俺は強引に話を切り上げ、食事を続けることを提案した。もちろん料理が冷めるのもあったのだが、いつまで続くか分からない喧嘩を見ているのが忍びなかった。
「ふふっ単純なのね、貴方は。まぁ……それもそうよね。せっかくの料理が冷めてしまうものね。もぐもぐ……ふふっ」
マリーは納得したのか、気を取り直してナポリタンを食べ始めた。少し笑っているのは、何故だろう? 俺の言い方が悪かったのかな?
たまには真面目に書きつつ……あっいつも真面目ですよ。などとしれっとアピールしつつ、お話は第35話へつづく
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