「シズネさん、そのステルスマーケティングってのは一体何なの?」
「まぁ『潜在的顧客開拓』とも言いますか、つまりお客様にウチの店の宣伝だと分からないように宣伝することを指します。略してステマですね」
「うん? その、ステマ? というのがイマイチよく分からないのだが……それで果たして宣伝できているのか? だってお客には伝わらないのであろう? それがどうして店の宣伝になるのだ?」
「もきゅ?」
アマネももきゅ子もイマイチ概要が掴めず、首を傾げている。尤もそれは俺も同じだった。
そもそもお客に対して『宣伝』だと言わないのならば、それは果たして店の宣伝になりえるのだろうか? 本来ならば宣伝というものは、自分の店にある商品の良さを伝えたり、特徴あるサービス……例えば『期間限定の値引き』や『特典』などを知らせることにより、普段お店を訪れないお客を呼ぶのが『宣伝』というヤツなのである。よってそれをしないというのは……そもそも矛盾しているのではないか?
「ふふっ。皆様、鳥が串刺しになり直火で焼かれているような顔をなさっておりますね。ま、だからこそ、その効果があるのかもしれませんがね……」
「(……それはどんな例えで、どんな顔してんだよ俺達? むしろそれを文字描写で表現してもらいたいくらいだわ! そもそもそれは『焼き鳥』とか『チキンバーベキュー』なんて料理名じゃないのかい?)」
シズネさん以外、しゅんっと下を向いた感じにその場に佇みながら、話の続きを待つことにした。
「で、そのステマってのは具体的にどうやるのさ? まさか直接お客に何かするってわけじゃないんでしょ?」
「ええ、そうですね。こういった場合、外的要因からお客に宣伝してもらうのが一番でしょうね。そうすることによりもしもの事態にも、対応できますし」
そう言ってシズネさんは詳細を俺達に説明してくれた。ま、聞いてみれば何の事はない話だったわけだが……。
俺達は新たなお客を呼び寄せるために、新メニューとして『朝食セット』を売り込みたい。だが主な客層である冒険者達にはその習慣が根付いておらず、仮にこのまま出しても周辺に認知されていないので無駄なのだ。
そこでシズネさんはこの街に住む医者達にとあるアンケートを取る事により、ステマ……つまり無意識下の内にその内容を刷り込ませ、店に呼び込もうとしているらしい。
「ふむっ。医者達にアンケートを取るのか? むむむっ」
「きゅ~っ?」
「そもそもそのアンケートの内容はどんなヤツなのさ、シズネさん?」
俺達は何故医者にアンケートを取ることがウチの店の宣伝になり得るのか、意味がよく分からずにシズネさんの説明に聞き入ってしまっていた。もしかするとこの惹きつけこそ、無意識下に起きる興味本位というやつなのかもしれない。
「ま、そのように難しい顔をするほどの質問ではありませんよ。それに質問するのはお一つだけですしね。くくくっ」
シズネさんは自分の考えに自信満々なのか、それとも既にその話にハマっている俺達が愉快なのか、少し口元を釣り上げ悪魔染みた表情で笑っていた。
「シズネさん、もったいぶらずにそろそろ教えてよ!」
「そうだぞ! 文字数稼ぎもいい加減にしろよ!!」
「もきゅもきゅ!」
俺達は散々その詳細とやらを引っ張られ、怒りを露にしながら……いや、アマネさんアマネさん。それは口に出しちゃいけないことだぜ。そんなこと言ったら、読者さん達にバレちゃうでしょうが。これからはもうちょっと巧妙に隠し隠しいこうぜ!
「ええ、いいでしょう。もう十二分に文字も稼ぎましたしね……。ま、聞いてしまえば何のことはない質問なんですよ。つまりお医者さま達にこんな質問を投げかけるわけですよ。『栄養価がある食事を『朝食』として摂るのは、果たして普段ダンジョンに潜る冒険者達にとって望ましいことなのか?』とね」
「へっ? た、たったそれだけ?」
「う、うむむ? ……本当にそんなことを聞くだけでお客が増えるというのか、シズネは?」
「きゅ~?」
それは……聞いてしまえば本当に何のことはない質問だったのだ。俺達はみな一様に首を捻り、疑わしいというか戸惑った表情をしてしまう。
「(だってよ、そうだろ? そんなの医者に聞いたからって、冒険者がウチの店に朝食セット食いに来るのかよ? 宣伝にも何もならねぇと思うんだけれども……)」
「ま、皆様がお疑いなのは重々承知のうえですよ。ですがこれを実行した暁には、店の中が溢れんばかりにお客様が殺到するとワタシは考えております。それにまた宣伝費用も一切かからないので、ノーリスクハイリターンを見込んでおります」
そう語るシズネさんの表情は今なお、「どうせお前らにゃ、こうして口で説明してもちっとも分からねぇんだろ? ならさ、いいからそこらで馬鹿みたいに口開けながら、事の成り行きってヤツを黙ってみてやがれよ。そもそもあたいが言う事に間違いねぇんだからよ! はん!」っと言いたげになほど、自信満々な顔をみせていた。
「じゃ、じゃあそれはシズネさんが手配してくれる……ってことでいいんだよね?」
「はい♪ お任せくださいませ、旦那様」
シズネさんはスカートの端と端を指で摘まみながら、上品にお辞儀をした。ちなみに下を向いてる顔がニヤケているのは、触れない方がいい案件かもしれない。なら、そこまで描写すんなよな! などと思うかもしれないのだが……いや、だって俺の位置から見えちゃったんだもん。仕方ないだろ?
「アマネももきゅ子もそれでいいよな?」
「ふむ……なんだかよく分からない話だったが、ワタシは別によいぞ! 勇者は細かい事を気にしない性質なのでな! あっはははははっ」
「もきゅもきゅ♪」
アマネももきゅ子も、その案件についてはシズネさんにお任せするとのこと。そもそもあの説明を理解したのかも疑問であるのだが……。
常にカーテシーをしながら、お話は第47話へつづく
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