「ぐでぇ~~っ」
「もきゅもきゅ♪」
トントントン……。俺ともきゅ子は階段を降り、一階へとやって来た。
正直「もきゅ子の短い足でどうやって階段降りるのかなぁ~」とか思ってたら、案の定まったくと言っていいほど届かずに、俺が抱き抱えて一緒に降りてやることとなった。じゃないともきゅ子は階段の一番上から下まで転がり落ち、大怪我をしてしまうだろう。
「おはようございます、旦那様、もきゅ子。あら、どうされたのですか? そのようにアホの子のようにお口をアングリっとお開けになりながら、効果音を自ら口になんかしたりして?」
「ふふっ。言うなよ、シズネ。きっと彼もようやくアニメ化を意識して制作費削減を始めてんだろうよ。ふむ、良き心がけである! あっ、二人共おはよう♪」
シズネさんもアマネも朝の挨拶をしながら、俺を見て驚いた様子。それもそのはず寝不足及び昨日の労働の疲れが残り、体力は底も底である。死人のように下を向きながら首を振り振りして、歩いていたのだ。もし街で見かけたら働く死人に間違わられたとしても何ら不思議ではない。
そうしてアマネが座っている店のテーブル方へとゆっくりと歩み寄り、そしてほぼ惰性的にもきゅ子を隣に座らせ自分もその隣に座り、少しでも体力回復することにした。
「ぼへぇ~っ」
だがしかし、依然お口は全開したままである。むしろお口の中が渇き、余計体力を減らしていたのだ。もしかすると既に自ら口を閉める体力すら、残されていないのかもしれない。
「……どうやら本当にお疲れのようですね。今日のお仕事、大丈夫ですよね? 朝食を食べ終わったら、まず昨日奪ってきた食材を整理して欲しいのですが……」
「ふむ。夜更かしするからいけないのだぞ! むしろワタシなんてベットに辿り着く前に、床でそのまま寝てしまったくらいだぞ! あっははははっ」
シズネさんはとても心配そうな顔で「えっマジで? 今日も仕事たくさんあるんだけどなぁ~。ま、働かせるだけ働かせればそれでいっか♪」などと今日の予定を説明してくれた。
あとアマネも大丈夫なのかよ? お前もベットに辿り着く前に力尽きてんじゃねぇのかよ……。俺はなるべく本文補足説明を用いることにより、自らのセリフを減らし体力消費を防ぐことに努める。
「はい、朝食ですよ♪ さぁさぁコレをお食べになって元気になり、今日も一日仕事を頑張りましょう♪」
シズネさんは既に朝食を作っていたらしく、厨房から朝食を運び俺達の前のテーブルへと次々乗せてくれた。
「もきゅもきゅ♪」
「おおっ! なんと目玉焼きにソーセージにコーンとパンの組み合わせかぁ~♪ 朝からこのように豪勢な食事とは……本当に私が食べても良いのか? あとからお金とか請求されないかな?」
その美味しそうな見た目にもきゅ子もアマネも喜んでいた。だがアマネは「朝から豪華すぎるのでは? お金取られない?」などと、やや心配の様子。
この世界では鶏の卵もまたソーセージだって貴重品の部類である。唯一毎朝食べれるとすればそれは鶏や豚などを飼育している農家かお金持ちの貴族、もしくはウチのように商品として扱っているレストランくらいなものだろう。
またパンやコーンだって決して安くは無い。庶民は少量の小麦に大麦やライ麦、そしてふすまと呼ばれるものを混ぜ込んでパンを焼く。だが他材料を混ぜることによりグルテンが不足し、パン自体が硬くなるので食べづらい。だがその分、高級な小麦を使わず保存性に優れ、焼いてから数日経っても食すことができるのだ。パンは日常的な食べ物であると同時に、ダンジョンなどに持ち込む保存食でもある。
またいくら街にダンジョンを誘致し、そこに集まる冒険者が街へとお金を落とすとはいえ、みながみな暮らし豊かになるわけではないのだ。ギルドのようにその大元で利権を握り、街に入る収益を管理する立場がいる限りは農家などはその恩恵を受けれないだろう。
まぁ尤も、マリーもアマネさんもその考えと構造には否定的のようだが……。
「ぼ~~っ」
「旦那様? ふふっ。旦那様は甘えん坊さんなのですね。ワタシに食べさせて欲しいからお口を開かれているのですね? いいでしょう! その挑戦、このシズネが受けて立ちますよ!」
どうやらシズネさんの認識によると俺は甘えん坊さんのようだ。別にそういうつもりではなかったのだったが、ウチの妻は何故か殺る気になっていた。
「ふむっ。それならば勇者であるこの私も参加するぞ!」
「もきゅ!」
シズネさんの言葉に対し呼応するように、アマネももきゅ子までも俺に食べさせてくれるみたい。……すっげぇ不安しか感じないのは、俺だけかい?
「……あ、あれ? ここはどこだ? って、お前ら何でフォークに白身のコゲた部分だけ乗っけて、俺の方に近寄って来やがるんだよ!?」
身の危険を察知してようやくそこで意識が覚醒した。だがしかし、既に時遅しである。
「くくくっ」
「ふふふっ」
「もきゅっ」
悪役貴族に賄賂を包む込み、これまた悪役商人のような悪い笑みを浮かべた連中が、俺の目の前にいて近づいて来ている。
「おいおい、勘弁してくれよ。またこのパターンなのかよ……」
(どうせ山賊達みたく、口に突っ込まれた瞬間『うまーっ!』とか叫ばさられちまうんだろ? で、この後もどうせ設問選択肢が出てきても、俺には選べないんだろ? もうワンパターン化しまくってやがるぜ!)
『豚のようにブヒブヒ言いながら、地面を這い蹲りながら舐めるよう食す!』
「(……いやいや、今回の設問超雑っ!? 一体どうしたんだよ? もはや設問すら表示されずに、結果論というか行動論というか選択行動だけを提示しやがるなよっ!! 手抜きにも程があんだろ!?)
『……ちっ。誰のを食べますか? 以下より、お選びください』
『シズネさんのを』フォークで喉の奥までサクっと貫きます♪
『アマネのを』あいや、その選択待たれいっ!!
『もきゅ子のを』手が短いのでフォークで鼻を刺されます!
「……ごめん、俺が悪かった。全員同時でいいかな?」
結局どれを選んでもロクな選択肢でないと俺は悟ると誰も選ばず、全員同時にお口へと突っ込むようお願いすることにした。
「おらっ!!」
「チェストっ!!」
「もきゅっ!」
「もがーっ、からの~……コゲ~っ、ココココッ!!」
やはり白身のコゲコゲの部分のみを強制的に口に入れられ、いつもの「うまーっ」とはならないようだ。そしてコゲ具合を強調するかのような鶏さんの鳴き真似をしながら、最後まで豪勢な朝食を楽しむのだった……。
サニーサイドアップしながら、お話は第42話へつづく
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