「えっ? えっ? この声ってどこから聞こえて……まさか……」
「ああ、妾である。先程から言っておるであろうがっ!」
その声はやはり目の前のテーブルから聞こえてきたようだ。俺はその声がする方へと近づき、そしてこんなセリフを口にした。
「て、テーブルが……喋ったのか!?」
「ほ、本当だ……喋るテーブルなんて、勇者であるこの私も初めて見たぞ!」
「もきゅ~っ!」
「ふむ……ついにテーブルも擬人化する時代になりましたか!」
「(ずこーっ)何故にそうなったのじゃ!? 貴様らみんな揃うてアホぅなのかぇ!?」
俺達は一様にテーブルin theボイスだと思い込み、震える手で「うわぁ~、珍しいなぁ~」などとテーブルをペタペタと触り指紋を付けていた。まぁいつもツッコミ役ばかりなので、たまにはボケてやろうかと思ってやってみたら、案外みんな合わせてくれたのでちょっと嬉しい。
そしてそんなテーブルin聖剣は小学校の必需授業である図工ーっとコケる効果音を口にしながら、総ツッコミをしている。どうやら52話目にして自分以外にもツッコミ役が登場したのかもしれないと喜ぶ、俺がいる。
「ふふふっ。どうやら貴様らはこの魔神サタナキアであるこの妾の力を軽んじ、馬鹿にしているようだな! いいだろう……妾の本当の力を見せつけ貴様ら全員、恐怖のドン底へと案内してしんぜようぞ!!」
「ま、マジかよ!? 俺達が全員ボケていたせいで世界が……世界の危機になっちまったのか!?」
見ればテーブル上に乗せられた聖剣フラガラッハから、夥しいほど黒い霧状のモノが溢れ出している。それは目に見えて悪。どこをどう見ても、悪い雰囲気を醸し出していた。
「なん……だとっ!? 旅行に案内してくれるのか!? 久しぶりだなぁ~。一体どんな所なのだろう~♪ オヤツは3シルバーまでだよな♪」
「もきゅ~♪」
「旅行ですか……料金が無料だといいのですがねぇ~。くくくっ」
シズネさん達も恐怖で震え上がっているようだ。……っと思い込みたいのだが、どうやら無理のようだ。もう完全に旅行気分でルンルン♪ になっている。
「さぁ、いよいよ気が満ちたぞ……妾が世界を滅ぼしてみせようぞ! 覚悟するがよいわっ!!」
「っ!? し、シズネさぁーんっ!!」
魔神サタナキアがついに本気を出し世界を滅ぼそうとした瞬間、俺は恐怖心に駆られ思わず我妻であるあの人の名前を叫んでしまう。
「これから七日間で世界を地獄の業火で焼き尽くして……」
「あ、はーい♪ よいしょっと」
カチャリッ。魔神サタナキアが世界を滅ぼす際のお決まりのセリフを口にしている途中、軽い返事と共にシズネさんはアマネが左腰に携えていた鞘を手にし、聖剣フラガラッハをその鞘へと収めてしまった。
「…………」
「…………へっ?」
「ふぅ~っ。これで静かになりましたね」
そして平和が訪れてしまった。そう訪れてしまった、なのだ。というか、数秒前まで世界滅亡の危機だったというのにあまりにも呆気ない幕切れに、思わず何度も瞬きしてしまう。
「シズネさん……。あの……ま、魔神サタナキアさんはいずこに?」
「あっ、サナですか? あの子、ちょっと中二病を拗らせてましてね、たまに変なことを口走ったりするのですよ。ですが封印されている本体である剣身を鞘へと収めれば、封印され身動き一つとれなくなってしまうのです。ちなみに世界を滅ぼすほどの力は本当にありますので……」
「ふむ。魔神も苦労しているのだなぁ~」
「もきゅ~」
「(というか、中二病拗らせてたのかよ……まぁ登場初っ端からそれっぽかったけどね)」
どうやら本当に危機を脱した模様。またシズネさんは顔見知り(?)なのか、魔神サタナキアをサナと親しそうに呼んでいた。
「さてっと、もう夜も遅いですし人手不足については追々考えましょうかね。ふぁあ~っ、お休みなさ~い」
「ふむ、私もそろそろ休もうかな。おやすみ~♪」
「もきゅきゅ~っ♪」
「えっ!? あ、ああ……おやすみ」
シズネさん達はもうお眠さんなのか、欠伸をしながらとっとに二階にある自分の部屋へと戻って行ってしまった。あとに残されたのは俺と……テーブル上に乗せられた聖剣フラガラッハだけだった。
「……どうすりゃいいんだよ、これ?」
「…………」
本当に魔神サタナキアは封印されているのか、何も言葉を発しなくなっていた。そして改めて確認するため、俺は剣へと手を伸ばした。カチャ……スーッ。そして鞘から剣身を引き抜いてみる。
「世界を妾のもの……」
「…………」
カチャリッ。そして続きのセリフが聞こえると同時に俺は無言のまま、再び鞘へと戻してしまう。
「…………」
すると声もピタリっと止んだ。カチャ……スーッ。
「にして……」
カチャリッ。また引き抜き、鞘へと戻す。
「くれよう……」
カチャ、カチャリッ。今度は素早く引き抜き、また元に戻す。
「ぞ、っと。……マジ、鞘って最強伝説じゃねぇ?」
世界を滅ぼす力があろうとも、鞘に収めてしまえばオールOK。もはや設定が適当すぎて言葉を失う……いや、ちゃんとセリフあったわ。
そうして俺達は世界を滅ぼす危機を脱することに成功した。色々なことがあり、疲れ果ててしまった俺も休むため自分の部屋へと戻ることにした。またこの場に置いて盗まれては困るからと聖剣を持ったまま自分の部屋へと戻ると、今日も我が物顔でベットを占領するもきゅ子がいた。
「も~っ、きゅ~っ。も~っ、きゅ~っ」
ポッコリお腹を規則正しく上下へと動かし、幸せそうに眠っている。そんなもきゅ子の隣に剣を置くと毛布をかけてやる。
今日の俺の寝る場所は真ん中にもきゅ子が陣取り、その右隣に聖剣フラガラッハというか、魔神サタナキアさん。で、もきゅ子の左隣……つまりベットの端っこの端っこが俺の寝床路。今日も今日とて壁際族に成り果てながら、一日の疲れを癒すため横になることにした。
「どんどん俺のベットが俺以外のヤツらに占領されちまってるんだけど……。ここって本当に俺の部屋なんだよな?」
そんな苦言を誰に聞かせるでもなく口にすると目を瞑り、ようやく眠りにつくこう……でろでろでろででーん♪ 生憎と今日も眠りにはつけないようだ。どうやら今夜も寝かせないぞ♪ ということらしい。
「もきゅぅ~っ。もきゅもきゅ♪」
「ほれ、小僧っ! 朝だぞ、早く起きぬか!!」
「(旦那様ぁ~、朝ですよ~。朝食の準備ができましたよ~、早く起きてくださーい♪)」
「…………マジでこの部屋のそこらかしこから聞こえてくる呪いのBGMが、本物の呪いに思えてきたわ」
今日も今日とて俺は不眠症になりながらも元気一杯のもきゅ子と新たな仲間である魔神サタナキアに叩き起こされ、シズネさんの朝の挨拶と共に朝食へと呼ばれてしまった。
というかいつの間にか、サタナキアからの呼び名が『小童』から『小僧』へと、まるで寿司屋のチェーンのように変化しているのは何故なんだろう? などと考えながら今日も不眠のまま労働することになったのだった……。
そろそろ人手不足のアイディアを考える時間稼ぎにも飽きつつ、でも未だ何ら方法すらも思い浮かばないことを読者さんに悟られぬよう次話までに考えつつ、お話は第53話へつづく
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