「なら、マリーは俺達と共闘しようってのか?」
「ふふっ共闘とは少し違うわね。ただ目的が似ているだけだわ」
「目的?」
一体何が違うんだ? っと疑問を浮かべる俺に対しマリーは余裕の笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「どうせそこの女の目的なんて、ウチのギルドをすべて乗っ取って自分がその頂点に立ちたいだけなのでしょ? 私の場合は今よりも庶民に対して、権利や自由を選択させるべきだと考えているのよ。また庶民だけでなく貴族や国自体をを束ねる存在として、ギルドは今のまま在り続けるわ。もちろん今より権力を殺いでね」
マリーは既にシズネさんの心の内を見透かしているような口ぶりで、そう語った。
「それってギルド……いや、マリーには何か得というか利益があるのか? 権力を手放すってことは、今得られている利益を無くすことになるんだろ?」
俺はマリーの話を聞いて疑問が浮かび、聞いてみる事にした。
「そう、ね。短絡的に見れば利益が減るわ。でもね、さっきも言ったけれど今のようにギルドへの不満が高まり、庶民達に暴動でも起こされた方が損をするのよ。いくらギルドに権力があるからと言って、所詮数の暴力には勝てないわ。ならば少々損をしてでも利益の一部を庶民へと還元し、長期的安定・安全とその利益を得る。そっちの方がお得でしょ?」
つまりマリーは不満が高まり、いずれ庶民が革命を起こす危険性を危惧しているわけなのか……。でも果たしてそんなことが可能なのか?
「ふふっ。まさにお子様が考える絵空事ですね」
「なんですって!?」
「むっ!」
突然シズネさんが口を挟むと、マリーの考えを否定してしまった。これはにはマリーも、また隣にいるアヤメさんまでも顔色を変えてしまう。
「おいおい、二人共喧嘩すんなよな……」
俺は宥めるために間に入るのだが、当然この二人が止まるはずがない。
「だってそうではありませんか? 今更ギルドが良い子ちゃんぶったとしても、庶民がそれを本当に信じると本気でお思いで? また貴女達二人だけで本当にそれが可能だと言うのですか? それに先程の口ぶりでは「思ってはいる、考えてはいる……」などと語っていましたが、つまり頭の中の空想ではありませんか。実際ワタシのようには、何も行動に移してはいらっしゃらないのですよね? 違いますか?」
「「…………」」
先程マリーが言った事に腹を立てているのか、シズネさんはそう捲くし立てマリーとアヤメさんを黙らせてしまう。互いに睨み合い、一触即発の事態。俺はどうすることもできず、オロオロとどちらの味方に付けば良いのか迷ってしまう。
「もきゅもきゅ!」
「えっ? なんですか、もきゅ子? 手……ですか?」
突然もきゅ子がシズネさんに近づき、スカートを引っ張った。そして「うーん、うーん」っと少し背伸びをしながら、「右手を出して!」っと手招きをしていた。
「もきゅ!」
「あ、はい……って、もきゅ子危ないですよ。っとと。危ないですってば、もきゅ子!」
訳も分からずシズネさんが右手を差し出すとそのまま引っ張り、身長さのため危うく転びそうになる。
「もきゅもきゅ」
だがそんなことはお構いなしのように、もきゅ子はマリーの方へ歩いて行く。もちろんシズネさんも右手を握られているので、それに付いて行くしかない。
「もきゅもきゅ!」
「えっ? えっ? わ、私も?」
もきゅ子はシズネさんのように再びマリーのスカートを引っ張ると、「右手を出して!」っと空いている左手で手招きをした。
「もきゅもきゅ♪」
「ううっ」
「ぐぬぬぬっ」
そしてもきゅ子は互いの右手と右手を合わせてしまう。シズネさんもまたマリーも言い争ったためか、バツが悪そうな顔になっていた。
「ふふっ。これではお二人とも、仲直りしないわけにはいきませんよね? ふふふふっ」
「そっか……そういうことか」
アヤメさんはそう言いながらも、そんな光景が可笑しいのかちょっと笑っている。どうやらもきゅ子は互いの手を取り合い、「喧嘩しないで仲良くしてね♪」っと言いたいのかもしれない。
「もーきゅ、もーきゅ。もきゅもきゅ♪」
もきゅ子はシズネさんとマリーの顔を見上げると嬉しそうに頷いていた。これでは喧嘩するわけにはいかないだろう。
「はぁーっ。これでは仲直りしないわけにはいきませんよね?」
「そうね。別に私だって貴女と敵対したいわけではないもの」
シズネさんもマリーももきゅ子に諭されてしまいすっかり毒気が抜けたのか、互いに握っている右手を改めて握手し直している。
「もきゅもきゅ!」
「えっ? お、俺も?」
そして最後に俺の元に来て同じくズボンの裾を引っ張ると、右手を取りながらアヤメさんの方へ向かって行く。
「えっ? わ、私達もなのですか?」
「もきゅ!」
もきゅ子はアヤメさんの問いかけに「当然もきゅ!」っと頷くと歩いて行った。俺もアヤメさんも互いの顔を見合わせて、「仕方ないよね」「仕方ないですね」っと頷き、もきゅ子がしたいとおりにすることに。
「もきゅ……も、もきゅきゅっ!?」
トテトテトテ……ドテ。だがまたしても足の爪が床板隙間へと引っ掛かり、もきゅ子はコケてしまう。
「うわぁっ!? も、もきゅ子……くっ!? どうにか……って、アヤメさんっっ!?」
「きゃっ!?」
右手を引かれていた俺はこのままでは自分の体でもきゅ子を押しつぶしてしまうと、咄嗟の判断をして左側へと避けることにした。だがしかし、運が悪いことにその先にはアヤメさんが立っていたのだ。そして俺はそれ以上避けられないまま……彼女に覆いかぶさるように一緒に倒れこんでしまう。
「「んっ」」
これは不慮の事故とも言うべきなのか、それとも幸運だったのか……俺達は一切怪我をしなかった。だが代わりに倒れた衝撃で互いの唇が重なり合い、アヤメさんとキスをしてしまっている。
うんうん、現在進行形の最終形態と言ってもいいだろう。まさにアヤメさんと唇とくっ付けて文字通り一つになった感じ? 俺はアヤメさんとキスをしていますからねっ!! ……ま、そんな読者羨ましい状態のこの俺は残念ながら、いきなりの展開で何も考えられなかった。
「んっ……ぁっ……あのアヤメさん……俺……」
「ふぁっ……っ……いえ、私は大丈夫……ですから……」
少し間を置き状況を確認すると、俺はアヤメさんと触れ合ってる唇を離した。そして互いの目を見つめながら、空虚にも似た感情の入らない言葉を口にしてしまう。
「…………」
「…………」
アヤメさんの潤んだ紫色が綺麗な瞳に見つめられ、一瞬たりとも逸らすことができない。互いに忙しなく瞳が揺れ動き、そのあとを追ってしまう。
「ゴクリッ」
(アヤメさんってほんと美人なお姉さんだよなぁ。顔も整ってるし、肌も綺麗だし、髪も俺好みの長い……)
「「ごほんっごほんっ!!」」
そのとき、真上の方から咳が二つほど聞こえてくる。それはまるでシズネさんとマリーであった。
「あっ……」
「にゃにゃっ!?」
俺もアヤメさんも今置かれている状況に気付くと、まるで磁石が反発するかのようにパッっと離れてしまう。何気にアヤメさんの驚いたときの声が、にゃんこになっているのは気にしないでおこう。
「もきゅ~っ」
「大丈夫か、もきゅ子?」
転んだもきゅ子は近くにいたアマネに助けられ、頭を撫でて慰められていた。
「あ~っ、いやね。あっはははははっ。ま、まいったね、アヤメさん?」
「そ、そうですね……参りましたね! いざ、参らん!! な~んて、ね?」
俺達は互いに笑ったり意味不明なことを口にすると、どうにかこうにかシズネさん達を誤魔化そうと画策する。
「それは良かったですね~、旦那様。アヤメさんとキスまでされて……」
「そうね。私とだけではなく、アヤメとまでキスしてしまうなんて……」
シズネさんもマリーも『キス』の部分をとても強調しながら、嫌味を言っている。
「接吻……キス……それも……はじめての……私、しちゃったんだ……えへへっ(照)」
アヤメさんもアヤメさんで、口元に右手の指を当て顔を赤くしている。そんな姿もちょっと可愛らしい。
「あ、あの! アヤメさん、これは事故だからさ……その……ね!」
俺は勢いに任せて適当な言葉を紡いで誤魔化そうとする。
「いえ……確かに事故とはいえ、唇を奪われてしまったのは事実です。私は……私は今から貴方の伴侶となります!」
「……えっ!?」
一瞬アヤメさんが何を言っているのか理解できなかった。
「(そもそも伴侶ってなんだよ? ワイフ? 妻? いわゆる……嫁か? ……っ!? それって……)」
俺は息を飲み込むと同時に、ようやくその言葉の意味を理解した。
「は、伴侶ってアヤメさん!? それはいくらなんでも急すぎるというか……」
「いえ、私の国許では接吻をした男女は必ず夫婦にならなればいけないのです。そういう仕来たりがありまして、私と……夫婦になっていただけないのですか?」
アヤメさんは俺の様子を窺うように伏し目がちになりながら、お恐お恐っと言った感じでそんなことを聞いていた。
「(どうするよ……)」
『はぁ~、最近選択肢のお仕事ないのよねー。このままじゃ、また別のバイトしに行かないと……っ!? こほんっ。アヤメと夫婦になりますか?』
『結婚を前提に夫婦になる』はっ? 矛盾じゃねぇ?
『逆にアヤメさんのお嫁さんになる』いや、今からTSは無理だから
『……今は答えを出さない』ハーレムルートへの可能性大!!
「…………」
(久々に選択肢の姿見たわ。ってか、設問よりも中の人が他のバイトしてるのが一番気になっちまうよ。ま、ここは無難なのを一つ……)
キィィィィッ。っとそのとき、玄関のドアが開かれ忘れかけていた存在の山賊のリーダーが顔を覗かせた。
「あの、姉御お忙しいところ恐縮なのですが、玄関ドアの修理終わりやしたぜ!」
「あら、終わったのですか? それはそれはご苦労さまです」
空気を読んだのか、それともご都合主義の極みなのか……というよりも、さすがに物語進まなさすぎて作者の野郎が次の展開をブチ込んできたのかもしれない。
そろそろさすがに本編を進めないとマズイよね? っと思いつつ、第37話へつづく
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