「へぇ~、中はちゃんとしたレストランなのね~。あら、でも玄関は改装している最中なのね……」
「……そのようですね。お嬢様お昼もまだですし、ここで済ませていきませんか?」
どうやら本当に何の店か分からずに、その子達はウチに来店してしまったようだ。これももきゅ子の宣伝のおかげなのかもしれない。
「えぇ♪ さぁどうぞお客様。こちらへおかけになってくださいませ♪」
「あら、ありがとう♪」
シズネさんは店の真ん中にある一番良い席へと二人を案内し、一つ椅子を引いて金髪ツインテールのツンデレ娘をエスコートしていた。
「あっすみません」
「いえ……」
俺も見よう見真似で反対側にある椅子を引き、もう一人の美人さん剣士を席へと案内する。あまり接待を受けないのか、美人さん剣士は傲慢なツンデレ娘とは違い、少し頭を下げ済まなそうにして席へと着いた。
「こちらがメニューになりますので」
「ありがと♪」
シズネさんはさっそく先程制作した、お手製のメニュー表をツンデレ娘へと丁寧に手渡した。
また生憎と、開店の準備が不十分なためにお手製のメニュー表は一枚しか作っておらず、武士の娘にはメニュー表を渡すことができなかった。だがそんなことに慣れているのか、いやそもそも最初から主人が注文するものすべてを決めるのか、目を瞑ったまま背筋を伸ばし椅子に座っているだけだった。
もしかして瞑想でもしているのだろうか? ま、ウチの店自体迷走レストランみたいなものなのは、この際脇に置いておく事にしよう。
「えぇっ!? このメニューって一体……」
ツンデレ娘は立て持ったメニュー表を見て、とても目を白黒させながら驚くとバッっと振り返り、隣にいるシズネさんの顔を見ていた。
「(ま、普通驚くよなぁ~。レストランなのにナポリタン一品しか料理がねぇんだもん。そりゃ戸惑うわな……)」
俺は当然と言った感じに賛同するため、少しだけ頷いた。
「こ、これって本当なの?」
「あっはい♪ そちらが当店のオススメでございます♪ このナポリタンに使われているスパゲッティはすべてデュラムセモリナ粉100%の乾麺を用いまして……」
ツンデレ娘は手をわなわなっと震わせながら、シズネさんの懇切丁寧な説明を受けていた。……ってか、乾麺なのかよ。
「じゃあ、このナポリタン二つと……あとこのオプションをお願いね♪」
ツンデレ娘は何食わぬ顔でナポリタン二つとオプションを頼むと、「もうメニュー表は不要よ……」っとシズネさんに突き返したのだ。
「えっ? あ、あのお客様……」
強引に突き返されたメニュー表を胸元で受け取るシズネさんだったが、動揺からか上手くそれを受け止めきれず床へと落ちてしまう。そして息を飲み込むと、そのまま言葉を詰まらせてしまうのだった。
正直、こんなに動揺するシズネさんを見るのは初めてである。
それもそのはず……何故ならあくまで冗談として書いていた例のオプションメニューが、実際に注文されてしまったのだ。俺だって動揺していた。
「あ、あの!! これって10万シルバーもするんですよ、そもそもそんなカネ持ってるわけ……」
「ええ、それくらい知ってるわよ。私だって書かれている字くらい読めるのよ。それにカネなら……アヤメ!」
「……はい、お嬢様」
ドン! アヤメと呼ばれた武士の娘は主人が指示するのを待っていたかのように、テーブルの上へと重々しい音と共に麻袋を置いた。
チャリンチャリン。口が緩んでいたのか、置いたその衝撃で中から光るコイン状のモノが何枚も床へと散らばり落ちてしまう。
それは金貨だった。それも数え切れないほどの。
「この店を更地にするのに10万シルバー必要なんでしょ? なら、ちょうどここに100枚の金貨があるわよ。ああ、そういえばナポリタン二つも注文したのだから、4シルバー足りなかったわね……ほら、これで十分でしょ? それとその分のお釣りはいらないわよ、チップとして受け取りなさいな!!」
パチリッ。ツンデレ娘はナポリタン二つの代金4シルバーとして、テーブルの上に金貨を一枚だけ乗せ「釣りはいらない」っとシズネさんに言い放った。
ちなみにこの金貨は、この世界で貴重金属の一つである純度100%のモノが使われており、純金ならばシルバー通貨の1000倍の価値があり、100枚でちょうど10万シルバーとなるのだ。
「あ、あの何でこんな大金を……いや、そもそも何でそんな『オプション』なんかを注文したり……」
「あら? メニューに値段まで書かれているのに客がそれを注文してはいけないの?」
「ぐっ!?」
俺が「これって冗談だよな?」っとツンデレの娘に質問しようとしたのだが、その娘は真剣な面持ちで冷徹にそう言い返してきた。要するにこの子は是が非でもこの店を更地にしたいようだ。
何故? どうして一体そんなことを? そんな思いが俺の中を激しく駆け巡ってしまうのだった。そんな俺の心情が顔に出ていたのか、シズネさんが口を開いた。
「旦那様……この子の正体がようやく分かりましたよ!」
「えっ? しょ、正体???」
(何だよ正体って? ツンデレは……見たままだよな? なら正体って……ま、まさか!?)
俺はようやくその子が何者であるかを悟った。この金髪ツインテールのツンデレ娘の正体は……
「ふふふふふっ。ようやく気が付いたの? あーおっかしーい♪ ふふっそうよ、私はアナタ達の敵の『ギルド』よ」
「…………えっ? あっ、や、やはりそうでしたか……。実はワタシもそうなんじゃないかなぁ~っなどと、薄々思っていたところでした?」
シズネさんは自らの考えに確信を得たように深く頷いた。いや、途中自分で言ってて疑問があったのか、首を少し傾げ「あれーっ? おっかしいなぁ~。ま、別に便乗しときゃどうせ読者にゃバレないだろう♪」っと不思議そうな顔を見せていた。
「(……いや、シズネさん。本当はその子の正体、解って無かったんじゃねぇのか? 何でこんな肝心な場面でそんな天然ボケをするんだよ……)」
最後の疑問符がその不安をより助長しているのは、もはやデフォなのかもしれない。
「……で、アナタ達の本当の目的は何なのですか! 意地悪せずにそろそろ教えてくれもいいのではありませんか!!」
シズネさんは開き直りとも取れる逆ギレ口調で、ツンデレ娘にオプション注文の意図を再度確認していた。やはり彼女達の目的をあまり理解していないのかもしれない。
「いや、シズネさん。聞けばこの子達、ギルドの者って話じゃねぇか。目的なんてそんなの……俺達を、この店自体を潰しに来やがったに決まってるだろ?」
きっとジズさんに店を破壊された報復も兼ねているのかもしれない。俺は呆れながらにシズネさんにその事実を告げてみることに。
「あら、そのような目的でウチにいらしたのですか?」
「えっ? 私達ってそんな目的だったのアヤメ?」
「さぁ?」
シズネさんもツンデレ娘も、またアヤメと呼ばれた美人さんも皆一様に首を傾げ、「えっ? 何コイツ言っちゃってるの? 頭大丈夫かよ?」と不思議そうな顔で俺を見ている。
「あっれーっ? ち、違うって言うのかよ!? お、おっかしいなぁ……」
(マジかよ。連中ギルドの者だって言うし、この店を更地にするのが目的だと思ったんだけど……)」
俺まで首を横に傾げてしまい、話の収拾がまったくつかなかった。
「もきゅー! もきゅーっもきゅ!!」
っとそんなとき、店の外で宣伝をしていたもきゅ子が店内の騒ぎを聞きつけ、急ぎ足で駆けつけてくれようとしていた。
「もきゅもきゅ! も、もっきゅっ!? きゅ、きゅーきゅーっ」
トテトテトテ……ドテッ。だがその途中でもきゅ子は床板の隙間に足の爪を引っ掛けてしまい、転んでしまった。そして顔から床へと打ちつけとても痛いのか、悲しそうな鳴き声で泣いている。
「も、もきゅ子っ!? 大丈夫かよ!?」
「もきゅ~もきゅ~っ」
俺は急ぎもきゅ子の元まで駆け寄ると、すぐさま抱き起こしてやることに。
もきゅ子の手足はとても短く自分の顔にさえちゃんと届かないため、自分では擦れず「すごく痛かったよーっ」っと痛さを紛らわすために俺の胸に顔を埋め泣いている。
「きゃーかわーーいいい! 泣いてる姿もすっごく可愛いわね!! そうよ、私の目的はこんな店じゃなくて、その子自身なのよ!!」
ツンデレ娘は俺が抱いているもきゅ子を指差し、そう声高らかに宣言したのだった。どうやらオプションにある店の更地よりも、初回特典のもきゅ子がお目当てのようだ。
「(なんかよく大きなお友達の方々がお菓子じゃなくて、そのオマケ目当てで買ってるのに似てるよなぁ~)」
もきゅ子はこのまま売られてしまうのか!? きっとシズネさんならこの危機的状況を無事解決……いや、守銭奴民族の代表格シズネさんならば、率先してもきゅ子を売り飛ばすやも……などと読者の不安を煽りに煽りつつ、第28話へつづく
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