「旦那様ぁ~、どこでおサボリになっているのですかぁ~」
「さっき積荷を運んでいたから、倉庫じゃないのかしら?」
いつの間にか二人の言い争いも終わったのか、シズネさんとマリーが俺達二人を探している声が聞こえてきていた。
「あ、ふ、二人に見つかる前に外に出ないといけませんね!」
「そ、そうですね……この状況だと誤解というか、何というか……」
俺達はそそくさと変なところがないかと互いの衣服を触って確かめると、食材倉庫から出ることにした。
「あら、そんなところに居たの二人共?」
「おや、倉庫にいらしたのですか?」
「あ、ああ……実はちょっと扉がね」
「ええ、そうなんです。何か立て付けが悪かったのか、開閉が悪く直していたところなんです」
ちょうどシズネさん達が現われ、俺達がいた倉庫へと向かうところだったらしい。見つかる寸前のところで俺達が出て来たため、互いに驚いていた。
「そうだったのですか! ウチの扉を直していただき、ありがとうございますアヤメさん」
「いえいえ、そんな……」
「…………」
シズネさんは素直すぎるくらい、アヤメさんに感謝の言葉を述べていた。だがマリーは黙って俺とアヤメさんを観察するように交互に見てきた。
「さ、さぁ~って荷物がまだ残ってるから頑張ろうかなぁ~。あっははははっ」
「ふ~ん」
そんなマリーの視線から逃れるために俺はわざとらしく、荷物運びに話題を逸らした。だがマリーは疑いとも感心とも言えない、そんな何気ない相槌言葉を打っていた。
「……ま、いいわ。早く運ばないと食材も痛んでしまうでしょうからね。じゃあ、お願いするわね」
「あ、ああ……もちろんだ!!」
これで誤魔化せたか分からないが、とりあえずこの場を離れるのが一番っと俺は外にある荷馬車まで走って行った。
「(シズネさんは分からなかったようだけど、もしかしてマリーにはバレちまってたかな? 何だか俺達をじっくり観察するように見てきたし……)」
カランカラン♪ 俺が荷馬車まで戻ると、それと同時に再び二頭の馬さんがこちらを向いていた。
「「(じ~っ)」」
「……っ!?」
なんだか馬にまで心の内を見透かされている、そんな気分なってきた。だがアヤメさんとの先程のやり取りに関しては決して後ろめたさはないので、俺は目を逸らさずに見返した。
「(ええい! なんだってお前達まで俺を見つめていやがるんだよ!! べ、別に俺はやましいことはしていないぞ!)」
「(早く後ろの荷物運んでくれないかなぁ~。わりとここの地面レンガだから、太陽の熱反射して見た目よりも全然熱いんだよ)」
「(な。ホントだよな。ずっと路上で立たされる馬の気持ち理解しやがれってんだ)」
俺達はアイコンタクトでは互いの心の内を理解できないまま、ずっと互いに目を逸らさず見つめていた。
「あら、今度はウチの馬にまでちょっかいをかける気なの? 貴方には種族も関係ないのかしら?」
「ま、マリー……」
俺の背後にいつの間にかマリーが立っていた。その問いかけでどうやら俺と馬達との愛の語らい……いや、アイコンタクトは終わりを告げる。
「いや、別に……。なんかコイツ等が見つめてきたから、何かなぁ~って俺も見てただけだよ」
「ふ~ん。そっ。……ま、この子達は早く荷を降ろして欲しいから、貴方を見ていたのかもしれないわよ」
「「コクコク」」」
(ほんとマジ、それ)
(ってか、何見つめてやがんだよ。キモいってーのっ)
まるでマリーの言葉を理解するように、二頭の馬達は首を立てに振り頷いていた。
「そ、そっか。マリーが、飼い主が言うなら間違いねぇわな。お前等も悪かったな、ずっと待たせちまってさ。早く終わらせるからな!」
「ヒヒン♪」
(おうよ、さっさとしやがれよこのウスノロ野郎が!)
「ブルルル♪」
(まったくだぜ。モブの分際で俺達を待たせるなんて、モブの風上にもおけねぇヤツだ! ほんと、最近調子乗ってんじゃねぇかコイツ? もしも俺様の真後ろに来たら黄金の左足で後ろ蹴りして、玉潰してやりてえよ)
俺が声をかけ手前にいる一頭の首ら辺を宥めるように撫でると、それに応えるように二頭は鳴いていた。もしかすると本当にマリーの言葉を理解しているのかもしれない。
「よしよし♪」
「ヒヒン♪」
(おいおい、なに俺様の首に気安く触っていやがんだコイツ? てめえセクハラで訴えられてぇのかよ? 今の時代、男同士でも普通に訴えられんだかな。弁護馬立ててやるから覚悟しやがれよ!)
「おっなんだ? お前も撫でられたいのか? よし、よーし♪」
「ブルルル♪」
(食いつきてぇ。マジ、コイツのがら空きの喉笛に俺様の草食系のすり歯を立てて、噛み千切りてえよ~。やっちゃう? ね? やっちゃう? 首筋から噴水芸やってみる?)
一頭だけ撫でていると、もう一頭が俺の首筋を舐めるように鼻でスリスリしてきた。もしかすると寂しいのかと思って、俺はもう一頭も撫でてやる。
「ふふっ。どうやらこの子達も、貴方を気に入ったようね。ほんと……貴方は不思議な人なのね」
「そ、そうかな」
マリーに褒められて(?)俺はちょっと気恥ずかしくなり、少しだけ頬を指でかいてしまう。
「ヒヒン♪」
(マジ違ぇって。そんな気持ち微塵もねぇよ。何コイツもコイツで勘違いしてんだよ。ハッ、マジやってらんねー)
「ブルルル♪」
(しゃあねぇよ。コイツも一応主人公って話だろ? コイツとシズネ様の機嫌損ねると、俺達の出番なくされちまうんだぞ。ここは我慢だ。こんなの不快な思いだって一時のことだし、それまでは歯食いしばって我慢しようぜ、相棒!)
「おっ! ごめんごめん。早く済ませるからな!」
(なんかコイツ等から邪悪な気配というか、そんな感じのが滲み出てる気がするけれども、気のせいだよな?)
俺は話しに夢中となり、ずっと馬達を待たせてばかりだと気付き急ぎ荷を降ろす事にした。
「そういえば、さっきは二人っきりでアヤメとどんな話をしていたのかしら?」
どうやらマリーには、俺とアヤメさんが荷物運びをする前よりも仲良くなったと見抜かれてしまったらしい。俺はさっきの出来事をすべて打ち明けることはできないので、少しだけ言葉を濁すことにした。
「いや、その……アヤメさんが幼い頃、両親を亡くしたって話を聞いてたんだよ。それからマリーの所に引き取られて、姉妹のように育ったんだってな?」
「あら、あのアヤメがそんな話を貴方にしたっていうの? そう……なら、貴方は相当アヤメに気に入られたってことね。アヤメはね、私にだって普段自分のことを何一つ話さないのよ。私が知る限り、両親の話をしたのは私の家族くらいなものですもの。それも必要なことだから話した、ただそれだけね。それを自分からあの子が語るだなんて……ふふっ」
マリーは驚きながらも、何故か納得したように頷くと嬉しそうに笑みを浮かべていた。
まるでフレーメンのように笑顔を心がけつつ、お話は第61話へつづく
読み終わったら、ポイントを付けましょう!