地底に住む古龍と仲良くなったので、一緒に世界を旅することにした。

見目麗しい女性たちと旅するたってそいつらが狂ってたら地獄なんだよ!
22世紀の精神異常者
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第20話 ニアにプレゼントするアクセサリーを買おう

公開日時: 2021年11月9日(火) 22:03
文字数:2,635

 青く澄んだ空の下、たくさんの人でにぎわう街の大通り。ほんの少し浮足立っているような町の住人達に紛れて、俺たちは観光を満喫していた。


 結構長い日数滞在しているが、やっぱりこの町の赤みがかった木造の建物はまだ新鮮だった。黒い焼き物を敷き詰めた屋根、玄関に垂らされた布など、俺の故郷にはない。

 今日はアクセサリーを買おうと決めていた。ニアと再会したらプレゼントする、とびっきりかわいいやつ。前々から目をつけていた、少し大きめの店に入ると、たくさんのショーケースやディスプレイに出迎えられた。


「おお、すごい」

『これは見ごたえがありそうじゃの』


 ニアが好きそうなのもたくさんありそうだ。俺は手前のショーケースからじっくり確認する。入口のすぐ横はブレスレットのコーナーで、豪奢な照明を反射してキラキラと輝いていた。


 それを一通り見て、今度はネックレス。その後もいろいろ見て回った。ここの店のアクセサリーは宝石とレースを組み合わせたものがほとんどで、独特な模様は宝石の美しさを際立てつつも落ち着いた雰囲気を生み出している。


 しばらくウキウキで見て回っていたのだが……八割がた見終わったところで、唯一にして最大の問題が発生した。


「……ニアはどういうのが好きなんだ…………」


 そう、選べないのである。


 なんてったってニアは世界一可愛い。それはもう美の女神だって言われても信じてしまうぐらいだ。彼女だから贔屓しているのかもしれないがそれを抜きにしてもめっちゃ可愛い。そんなニアはどんな服も似合うしどんなアクセも似合うんである。


 で、最終的な決定打は彼女の趣味なわけだが、残念ながらそこはまだリサーチ不足。これまでニアがデートで着てきた服やアクセを全部思い出して、彼女の趣向をトレースするというインポッシブルなミッションを課されることとなった。


 で、俺がそんなことできるかって? そんなの無理だよ俺バカだもん。


「わからん……」


 結局、俺は延々と店の中を歩き回り腕を組んで悩み続けることとなる。あれもいいなあ、これもいいなあ。いや、こっちのほうがいいか……と各アクセサリーごとに悩むものだから、余計に時間がかかるのだ。


 レジーナはいつの間にかアンクレットを一つ買っていた。青紫を基調としたすっきり目の奴だ。レジーナが『外で待っておるぞ』と出ていくと、会計をしていた店員さんが隣に来た。小柄な狸獣人の女性だ。


「お客様、お困りでしたら相談に乗りますよ?」


 上目遣いで話しかけてくる。俺は一瞬「自分が決めなきゃ意味ないんだ」と意地を張りそうになったが……アクセサリーの専門であるこの人に相談した方が何倍もいい。


「実は、彼女にプレゼントするのを選んでいるんですけど、全然決まらなくて」

「あら! 素敵ですね、さっき出ていかれたお客様ですか?」

「ああいや、違います。今はいないんですけど」

「そうでしたか、失礼しました、彼女さんはどんな方なんですか?」


 言われるがまま、ニアのことを教える。容姿だったり、性格だったり、俺が知っているニアを思い出しながら、順々に。


 艶やかな黒い長髪をなびかせ、堂々とした立ち振る舞いでみんなを魅了する。優し気な蒼の瞳と、ぷっくりとした唇。鼻は高く、童女のような可愛らしさと大人の女性の凛々しさを併せ持った顔だ。


 スタイルは抜群で、服の上からでもその恵まれた肢体が容易に想像できる。デートの時はそれを強調するような服も着ていて、俺の方がちょっと恥ずかしかった。それ以上に嬉しかったけど。


 肌は白魚のように滑らかで、美しい。そして柔らかくて暖かいのだ。


 付き合い始めてからのニアは、すごくあざとくて可愛かった。人目をはばからず甘えてくるし、密着してくるし、たまに理性が飛びそうになったっけ。でも、俺が疲れてるのを我慢している時とかは、膝枕してくれたりしてた。


 ……我ながら、どうしてこんな完璧な彼女ができたんだろうと不思議になる。


「なるほど……じゃあ、これとかどうですか?」


 自分はニアに見合っているのか、とか考え始めたが、店員さんの声で我に返る。彼女が手に持っていたのは、淡いピンクを主としたブレスレットだ。


 全体として王冠のような形をしており、よく見ると細かい花の模様がある。三か所に取り付けてある楕円形の宝石は、桃色と赤紫の間のような色で輝いていた。


「こちらはスタールビーという宝石です。色が濃くて濁りもないので、Aランクですね。値段は張りますが、彼女さんにぴったりだと思いますよ。宝石言葉は『情熱』や『希望』です。お二人のこれからをサポートしてくれますよ」


 店員さんの話は続く。


「ブレスレットに施された花の模様は、ガーベラという花を模しています。特にピンク色のガーベラの花言葉は『熱愛』や『崇高な愛』という意味があります。両想いで深く結ばれているお二人にぴったりですね」


 店員さんの説明を聞いて、俺はちょっとだけ悩むそぶりを見せたが……内心ではこれを買うと決まっていた。


 ニアとデートに行く時を想像する。待ち合わせ場所に行って、先についていた彼女が笑顔で俺に手を振る。その手首にはこのブレスレットが付いていて……。


 可愛い。可愛いに決まっている。ちょっとだけ妖しげな雰囲気のある宝石も、綺麗なニアの肌になじみそうなブレスレットの色も、全て完璧だ。


 とどめには宝石言葉と花言葉。もう俺たちの、いやニアのためにあるようなアクセサリーだった。


「これでお願いします」

「他は見なくて大丈夫ですか?」

「はい」


 即答だ。もうこれしかない。……それに、多分ほかの奴も話を聞いたら「これだ!」ってなるんだろうけど、そしたらまた迷いまくって時間がなくなる。


 レジに移動して、お金を支払う。結構高かったけど、買えないほどではなかった。


「お買い上げありがとうございました。彼女さんと幸せになってくださいね」

「はい、こちらこそありがとうございました!」


 店員に礼を言って店を出る。俺の右手には、さらさらした布で包まれたブレスレット。万が一がないよう厳重に保護してバッグの中に入れた。


 外で待っていたレジーナは、すでにアンクレットをつけていた。俺に気が付くと楽しそうに微笑んで、左足を上げて見せてくる。


『どうじゃ? 似合っとるじゃろ』

「すごくいいね、模様は花と月かな? すごくかわいい」

『良い買い物をしたの』


 俺もレジーナも、なんだかすでに満足感があった。でも、見ていない店はたくさんある。


 店の前で深呼吸をして、人の流れに飛び込む。そして、次の店にむかって歩き出した。

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