『いや……あそこに元気な奴もいる』
指し示された左翼。
五人一班が原則の中、唯一の六人編成『ローマ帝国親善大使チーム』が戦っている。
おそらく、南東唯一の健在班———騎士特有のスカした剣技と風変わりな気功を振るい、化物を薙ぎ倒している。そのせいか彼等の周りには生きている子供が少ない。
「例の、胡人か……」
味方だと言うのにウェイは警戒した表情を作る。
遥か西方から訪れた彼等には胡人、異邦人、差別的な意味で色目人など様々な呼び名があるが、中華では『大秦人』と呼ぶのが正しい。
この墓地に眠る秦の始皇帝・嬴政は、中華の西都ここ長安に『咸陽』という国都を定めた。
一方、ローマ帝国は世界の西都のため『大秦』と呼ぶ。
『上の階で、馬鹿みたいにデカイ子供がいたが……アイツら、あっさり殺っちまったよ』
「奴等は、どうして傷も負っていない……俺達と何の差があると言うのだ!」
納得いかないイエンに、ユエは『軍隊でも無ければ使うことは無いだろう』と、頭の片隅に置いていた知識を掘り返す。
「隊列、だと思う……軍師が使う戦術を小規模で実現してる。かなり訓練されたもの」
「訓練だと? そんなの俺だって、皆やっている!」
「狼狽えるな、庶平民———」
「しょっ……?」
優雅に髪を払い『楊貴妃の生まれ変わり』と名高い花雪が歩み出る。
貴族らしい佇まいで見下し、上品なハスキーボイスを賜る。
「妾は象棋を学んでおる。下流のお前達と一緒にするでない」
今度はイエンが反論する。
「あれはボードゲームだ! 俺だってやった事はあるッ!」
「妾のは象牙職人が彫刻したやつじゃ。お前達のは板とかに墨で書くタイプじゃろう」
「そーだ、よッ!!!!」
「私達は寄り集まっても足し算。彼らは掛け算。戦術って、そーゆーもの———」
ユエが補足すると同時、前線から逼迫した声が上がる。
『アレだーーーッ!』
『アレが来るぞォーーーッ!』
「「 ———!? 」」
ウェイ隊も声の方へ向く。
『お前ら、戻れ! すぐに戻れェエエエェ!』
『何故だ! うずくまってる、今が好機だ!』
喧騒する戦場———前傾姿勢の白霊が、巨体を抱え込むように『何か』を押し潰す構えを取っている。
あの大きさが人間的な動きすると、それだけで大自然への恐怖が湧き上がる。
「なんだ……奴は、何をしている……?」
その構えは蛇でも人間でも無く、脳波を自然現象へ変換する人でなし『気功家』の構えによく似ている。
黒く輝く歪み———それを押し潰していった瞬間。
地面から天に向い、真っ白な閃光が迸る。
「ぐああぁっ! なんの光だ!?」
太陽にするようにかざした手、その隙間から垣間見た異形の景色。
最前線の隊が、みるみる『堅い物』で覆われ———いや、真っ白な光と融合するように『堅い物質』へ変異していった。
『クソ……まただ、またあの光だ……』
閃光が収まるにつれ、負傷の男は震え出す。それがもたらす『結果』に恐怖するように。
「固まっちまった……もしかして、アレは全部人間なのか!」
イエンの言う『アレ』とは、疎らに配置された石像を指すのだろう。
ユエが眼鏡の位置を調節しながら確認する。
「石……に、なったのね……?」
「人間を石に変えるだと……だが、白霊の子供だって———」
白霊から円周状、数十メートル———全ての生き物は石に変わり、静寂の世界が広がる。
「いいえ、あれを見て———」
ユエが指し示した光景に、イエンが憎しみの表情を作る。
「なんて事だ……!」
化物達が次々と、脱皮でもするように石を破り出た。全個体ダメージも見られない。
対して気功家は、残り少ない戦力を更に十数名失った。
『仲間がアレにやられた……あの光をモロに受けて……!』
男の腹部から肩には凄惨な傷が刻まれ、震えに合わせて血の雫が滴る。
『まだ……前の方で石になってんだ……誰でも良い、早くあの化物を殺してくれ……!』
動くと命に関わる。それでも助けたい仲間がいる為、願っているのだ。
「加勢する———ッ!」
義に熱い男は当然、チームに指示を下す。
「ファーとユエは負傷者の救助、イエンは俺と来い! 全員、今の光には注意しろ———……あの馬鹿は何処だ!?」
「注意って……一体、どうしろと言うのだ!」
イエンが当然の質問を行う。
「知らん! 光ったら後ろにでも飛び退け!」
「飛び退け、と言われても……」
「行くぞ———ッ!」
不安を抱えたまま、交戦中の隊へ助太刀に向かう。
いざ前線に立つと子供達に手一杯で、本命を見ている余裕が無い。『光ったらマズイ』と判っていても急に避けられるだろうか———あれこれ気にしていると目の前の相手にも集中できない。
呂晶「小賢しいマネしやがって……」
戦場を背の高い岩から俯瞰していた、背が低めで目付きの悪い女———
あの閃光と同じく白黒の髪をお団子で結び、長物の一種である『矛』を携えている。
その切っ先の重量感は、女が扱うにしてはあまりに巨大で凶暴だ。
「気入んねー……」
その女が病的なメンチを切る先。
Valkyrie「収まったか……前進、Ⅰ隊列分進む———」
その心根を現すように真っ直ぐな金髪。晴れ渡る空のように蒼い色目。
中性的で役者のように美しい容姿だが、近寄り難い冷徹さを纏う女性騎士、ヴァリキエ。
彼女もウェイと同様、隊に指示を下している。
「ヘレン、どうだ?」
ヴァリキエが問い掛けると、同じ金髪碧眼でも愛らしいツインテールが答える。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!