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hachu
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†參† 色目人

公開日時: 2020年9月13日(日) 19:00
更新日時: 2020年10月14日(水) 21:54
文字数:2,164






『いや……あそこに元気な奴もいる』


 指し示された左翼。

 五人一班が原則の中、唯一の六人編成『ローマ帝国親善大使チーム』が戦っている。

 おそらく、南東唯一の健在班———騎士特有のスカした剣技と風変わりな気功を振るい、化物を薙ぎ倒している。そのせいか彼等の周りには生きている子供が少ない。


「例の、胡人こじんか……」


 味方だと言うのにウェイは警戒した表情を作る。

 遥か西方から訪れた彼等には胡人、異邦人、差別的な意味で色目人いろめびとなど様々な呼び名があるが、中華では『大秦人たいしんじん』と呼ぶのが正しい。

 この墓地に眠る秦の始皇帝・嬴政えいせいは、中華の西都ここ長安に『咸陽かんよう』という国都を定めた。

 一方、ローマ帝国は世界の西都のため『大秦』と呼ぶ。


『上の階で、馬鹿みたいにデカイ子供がいたが……アイツら、あっさりっちまったよ』


「奴等は、どうして傷も負っていない……俺達と何の差があると言うのだ!」


 納得いかないイエンに、ユエは『軍隊でも無ければ使うことは無いだろう』と、頭の片隅に置いていた知識を掘り返す。


隊列フォーメーション、だと思う……軍師が使う戦術を小規模で実現してる。かなり訓練されたもの」


「訓練だと? そんなの俺だって、皆やっている!」


狼狽うろたえるな、庶平民———」


「しょっ……?」


 優雅に髪を払い『楊貴妃の生まれ変わり』と名高い花雪が歩み出る。

 貴族らしい佇まいで見下し、上品なハスキーボイスを賜る。


わらわ象棋じょうぎを学んでおる。下流のお前達と一緒にするでない」


 今度はイエンが反論する。


「あれはボードゲームあそびだ! 俺だってやった事はあるッ!」


「妾のは象牙職人が彫刻したやつじゃ。お前達のは板とかに墨で書くタイプじゃろう」


「そーだ、よッ!!!!」


「私達は寄り集まっても足し算。彼らは掛け算。戦術って、そーゆーもの———」


 ユエが補足すると同時、前線から逼迫した声が上がる。


アレ・・だーーーッ!』


『アレが来るぞォーーーッ!』


「「 ———!? 」」


 ウェイ隊も声の方へ向く。


『お前ら、戻れ! すぐに戻れェエエエェ!』


『何故だ! うずくまってる、今が好機だ!』


 喧騒する戦場———前傾姿勢の白霊が、巨体を抱え込むように『何か』を押し潰す構えを取っている。

 あの大きさが人間的な動きすると、それだけで大自然への恐怖が湧き上がる。


「なんだ……奴は、何をしている……?」


 その構えは蛇でも人間でも無く、脳波を自然現象へ変換する人でなし『気功家』の構えによく似ている。

 黒く輝く歪み———それを押し潰していった瞬間。

 地面から天に向い、真っ白な閃光がほとばしる。


「ぐああぁっ! なんの光だ!?」


 太陽にするようにかざした手、その隙間から垣間見た異形の景色。

 最前線の隊が、みるみる『堅い物』で覆われ———いや、真っ白な光と融合するように『堅い物質』へ変異していった。


『クソ……まただ、またあの光だ……』


 閃光が収まるにつれ、負傷の男は震え出す。それがもたらす『結果』に恐怖するように。


「固まっちまった……もしかして、アレ・・は全部人間なのか!」


 イエンの言う『アレ』とは、まばらに配置された石像を指すのだろう。

 ユエが眼鏡の位置を調節しながら確認する。


「石……に、なったのね……?」


「人間を石に変えるだと……だが、白霊の子供だって———」


 白霊から円周状、数十メートル———全ての生き物は石に変わり、静寂の世界が広がる。


「いいえ、あれを見て———」


 ユエが指し示した光景に、イエンが憎しみの表情を作る。


「なんて事だ……!」


 化物達が次々と、脱皮でもするように石を破り出た。全個体ダメージも見られない。

 対して気功家は、残り少ない戦力を更に十数名失った。


『仲間がアレにやられた……あの光をモロに受けて……!』


 男の腹部から肩には凄惨な傷が刻まれ、震えに合わせて血の雫が滴る。


『まだ……前の方で石になってんだ……誰でも良い、早くあの化物を殺してくれ……!』


 動くと命に関わる。それでも助けたい仲間がいる為、願っているのだ。


「加勢する———ッ!」


 義に熱い男は当然、チームに指示を下す。


「ファーとユエは負傷者の救助、イエンは俺と来い! 全員、今の光には注意しろ———……あの馬鹿は何処だ!?」


「注意って……一体、どうしろと言うのだ!」


 イエンが当然の質問を行う。


「知らん! 光ったら後ろにでも飛び退け!」


「飛び退け、と言われても……」


「行くぞ———ッ!」


 不安を抱えたまま、交戦中の隊へ助太刀に向かう。

 いざ前線に立つと子供達に手一杯で、本命を見ている余裕が無い。『光ったらマズイ』と判っていても急に避けられるだろうか———あれこれ気にしていると目の前の相手にも集中できない。



呂晶ルージン小賢しいマネしやがって……」



 戦場を背の高い岩から俯瞰していた、背が低めで目付きの悪い女———

 あの閃光と同じく白黒の髪をお団子で結び、長物の一種である『矛』を携えている。

 その切っ先の重量感は、女が扱うにしてはあまりに巨大で凶暴メンヘラだ。


「気んねー……」


 その女が病的なメンチを切る先。



Valkyrieヴァリキエ「収まったか……前進、Ⅰ隊列分スコイニオン進む———」



 その心根を現すように真っ直ぐな金髪。晴れ渡る空のように蒼い色目。

 中性的で役者のように美しい容姿だが、近寄り難い冷徹さを纏う女性騎士、ヴァリキエ。

 彼女もウェイと同様、隊に指示を下している。


「ヘレン、どうだ?」


 ヴァリキエが問い掛けると、同じ金髪碧眼でも愛らしいツインテールが答える。

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