オレがアイドルをプロデュースしたらこうなる

JUN
JUN

第二章 アイドルたちとの対面 3

公開日時: 2020年10月3日(土) 23:02
文字数:2,623

 綿中さんや鉄也さんと相談した結果、紫苑をメインボーカルとして、結衣と鈴はコーラスとダンスを担当してもらうことにした。ただしこれは一曲目をそうすると決めただけで、二曲目は一曲目の反応を見て流動的にする予定だ。

 曲が決まると、それに合わせて歌とダンスのレッスンが本格化する。そのレッスンを時々チェックしながら、PVをどうするか、衣装はどうするのかと、オレも慌ただしくなってきた。

 カップリング曲を作り、ジャケットイメージを考える。しかしこの段になっても、まだグループ名が決まっていなかった。

時は、刺さるほど激しい日差しが降り注ぐ八月になっていた。

「綿中さん、グループ名を公募するのはどうですか?」

 予算があまりないので、街の広告やテレビCMで大々的に宣伝するのは無理だと聞いていた。公募をすれば、話題作りになるだろうと思ったのだ。

「そうだね、そろそろ彼女たちのデビューを発表してもいい頃だ」

 音楽雑誌や少年・青年向け雑誌に広告を打つ。それと同時に、あまりにシンプルだったワタナカ音楽事務所のホームページをリニューアルした。

 

“実力派アイドルユニット、始動”

 

 そんな謳い文句と、三人のシルエット。まだ顔は見せない。その方が興味を引くと思ったからだ。三人の名前だけ公開して、一ヵ月限定でグループ名を募集した。親しまれやすいように、苗字は外して紫苑、結衣、鈴でデビューする予定だ。

ホームページの一角では、鋭意作成中として、サビの一部が視聴できるようになっている。

締切後、応募総数は一万通にやや届かなかった。これはオレの期待値よりも低かった。熱心な人が数十通送っていたりして、一万人が応募してるわけではない。CDの売り上げはこの数よりもずっと少ないはずだ。ホームページのアクセス数も芳しくない。ため息が出そうになるのを堪えて首を振る。

「いやいや、まだ始まったばかりだ」

 事務所のスタッフにも手伝ってもらって集まった案を集計、多かった上位十個と、オレのセンスで十個選び、二十個セレクトして表を作った。

 それから数日後、綿中さんとメンバーを集め、グループ名命名会議を開いた。これから彼女たちの看板となる、大切な名前だ。

「どれがいいかな?」

 メンバーはじっくりと表に目を落としている。三人はダンスレッスンの合間で、全員ジャージを着ていた。

「はい! 鈴はこの『スリーパーズ(threepers)』がカッコイイと思うよ! 三人って意味でしょ?」

「これは造語のようだね。スリーパーソンズより言いやすし、面白いかもしれないな」

 という感想は綿中さん。

「結衣は?」

 オレはあまり好きじゃない名前だったので、ノーコメントで結衣に振る。スペル違いの有名映画のタイトルと同じだからだ。映画の内容は、まあ、アイドルからはほど遠い。

「私は『シグナル』が、捻っていて面白いと思います。私たちの頭文字だそうですし」

 鈴の頭文字はR、結衣はY、紫苑はS。レッド・イエロー・スカイブルーで信号機って発想だ。ちょっと青が強引だけど、この応募は結構あった。

「あたしは『JAM×3(トリプルジャム)』。スイートなイメージで、あたしたちの詰め合わせみたいな意味でしょ」

 そう言ったのは紫苑で、オレは内心「おっ」と思った。実は全く同じ理由で、オレもその名前が一押しだった。

「オレも同じなんだけど、表記は『3JAM』でスリージャムって読んだ方がいいかなって思ってたんだ。こっちの方がスマートだし」

「なるほどね。じゃあ、今あがった三つから選ぶとしようか」

「綿中さんは、どれがいいですか?」

「私かね……」

 オレが尋ねると、綿中さんはしょんぼりとして眉を下げた。

「『三人小町』と応募したのに、予選漏れしていたんだよ……」

 応募していたのか!

「あら、それもいいですね、社長」

だから結衣、それは選考外なんだってば。

 そんな五人の会議は地味に盛り上がり、最終的にユニット名は、

 

『3JAM(スリージャム)』

 

 に決まったのだった。

パチパチパチパチ!

「よし、グループ名が決まったところで、レコーディングは四日後でしたよね?」

「ああ、スタジオを一日押さえたよ」

「四日後?」

 結衣が表情を暗くした。

「どうした?」

 オレが声をかけると、結衣は頭を振った。

「いえ、なんでもありません」

「よし、初めてのレコーディングだな! ずっとシングルの二曲ばっかり練習して、飽きてたんじゃないか? レコーディングが終わったら、次の曲にいけるから」

 まだぎこちない三人の雰囲気を盛り上げようと、オレは明るい声を出した。

「諸君のデビュー曲だ、頑張ってくれよ」

 綿中さんがにっこりとメンバーに笑顔を向けた。

「はい!」

 紫苑は思いつめたように、結衣は不安そうに、鈴は明るく返事をした。

 初顔合わせから四カ月が経っているのに、いまひとつ和気藹々というか、仲の良さが見えてこない。オレも、溶け込めも慕われもしていないままだ。

「ちょっと聞くけど、レッスンが終わった後とか、三人一緒に食事に行ったりしてないの?」

 三人は顔を見合す。

「行ってないよ」

 答えたのは鈴だ。

「メールしたりは?」

「あまり……」

 と結衣。

「別に、仲良くなる必要ないでしょ?」

 綺麗なカラーの入った爪の先を見ながら、興味なさそうに紫苑が言う。

 綿中さんを見ると、大いに眉を下げていた。

 メンバー内の雰囲気を良くするのも、プロデューサーの仕事なのかもしれない。

「良かったらこれから、みんなでお茶でもしない?」

「この後は、またダンスに戻るんだよ。祐司ニイも知ってるでしょ」

 スケジュール管理はオレがしてるから、知ってはいるのだけど。

「ちょっとならいいかなと思って。腹減ってない?」

「ダイエット中」

「中途半端な時間なので……」

「食べてから動いたら、気持ち悪くなっちゃうよ~」

 総スカンだった。

困った。女の子たちの考えている事なんて、オレにはさっぱり分からない。彼女ができたこともないし、大学に入るまで男子校だったから、クラスに異性がいることもなかった。

 プロデュースするのが男性アイドルだったら、年も近いし友達のようにやれたかもしれないのに。

 ため息が出そうになるのを必死で堪える。

ため息はダメ! “たら・れば”もダメだ! オレがプロデュースしているのは、彼女たち『3JAM』なんだから。

 いい曲を書いて、彼女たちを磨いて、トップアイドルにするのが、オレの役目だ。

 今の雰囲気をどうにかしないとと焦燥感に駆られつつも、オレはメンバーと別れ、レコーディングの打ち合わせに向かった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート