悪役侍女と殺人令嬢の天下平定 幼女になった転生モブ侍女↓廿.廿↓は前世で殺した転生女殺人鬼(現:幼女)に溺愛される!?

〜前世では殺し合ったけど未来が戦争確定なので協力して知識チートで戦争を阻止します〜
此岸さくら
此岸さくら

2 殺したあの子は一蓮托生ズッ友

公開日時: 2020年9月16日(水) 10:07
文字数:3,161

「……なんで分かったんだ、大日本帝国陸軍畿内方面軍司令官、黄島菫きじま すみれ中将?」

「気配……と言いたいところだけど、実は私は前世を思い出したのは昨夜だったのよ。広間でやったのはあくまで確認」

「は?」

「夜にこの屋敷に付いた途端思い出したの。タイミング上環境の変化によるものと推測できるから、屋敷内にきっかけとなる物がないか捜索してみたわ。すぐに心当たりは見つかったけどね。なんてったって……まだ鮮明に覚えている、私を殺したあの女の気配!」


 気不味い。ひじょーーに気不味い。

 殺した女から尋問されている。まさしく経験した事の無い気不味さだ。経験があってたまるか。


「私も思い出したのは今日の朝……実際には昨夜だったんだろうな。互いの気配に触れて記憶が刺激されたのか?」

「やっぱりそうよね。同い年って事は同時に死んだから同時に転生したのかしら?あなた誕生日は?」

「……5月5日……」

「わたしも☆」


 同時に同じ場所で死んだからって同じ世界の同じ時の同じ地方に転生させられたっぽいシステムを恨む。

 プログラマーはどこだ!擬似乱数が雑だ!

 ゲッソリしながら会話を続ける。


「で、それを確認してどうするんだ?貴様の立場なら私に気付かれる前に遠ざけるのも簡単だったはずだ。自身の正体をわざわざ教えるのは面倒事を増やすデメリットにしかならないはずだが?何か目的があるだろう」

「あらバレた?そうね……この地域の通称はバルク地方。そして私の名前はパンジー・エルムント。……これに聞き覚えはないかしら?」

「バルク地方……パンジー・エルムント……」


 嫌な予感がする。さっきから嫌な予感ばっかりしている気がする。


「……『灼熱のリザレクション』?」

「そう!異世界転生は異世界転生でも、悪役令嬢に転生するパターンだったみたいね☆」


 ウギャーーーーッッッッ最悪だ!!!!!

 殺した女の侍女というだけでも最悪なのに、乙女ゲームの悪役令嬢転生という転生モノの中でもあまり世界観の治安がよろしくない方のジャンルに転生してしまった。

 更に言えば『灼熱のリザレクション』は列強の政治抗争に巻き込まれる小地方エルムント伯爵領が舞台だ。

 領有が確定しておらず統治権を巡って諸列強が睨み合っており、ルート分岐によっていずれかの国家の属領または独立した同盟国となり

 。なんてこった。

 ちなみに悪役令嬢のパンジー・エルムントは野心的に成り上がろうとして死ぬか、自身の実力を過信して死ぬか、調子に乗って謀殺されるか、横暴を咎められて追放され野垂れ死ぬか、要は大体マヌケな感じで死ぬ。

 と、ここまで考えて……


「……待って!?なんでアンタが私がそのゲームを知ってるって分かったの!?」

「週刊文◯にオタク趣味がブッコ抜かれてたわよ?ご丁寧に推し作品のリスト付きで」


 おのれゴシップ誌!プライベートの概念が無いのか畜生!

 多少なりとも有名人だった私はパパラッチに追い回されることもあったが、いつの間にそこまで抜かれてたのか……


「はー……状況は理解したわよ。で、目的は何?情報共有が目的だとしたら失敗ね。私は敵に回る可能性の方がずっと高いわよ?どのルートでも追放か戦死か謀殺エンドの悪役令嬢様に味方する理由が私には無いわ」

「ビックリして口調が抜けてない?☆」

「うっさい」

「第一私は己の力を見誤るようなマヌケじゃないわ。……私の目的は戦争阻止よ。私達の生まれたこの国を守りたい」



 ★★★★★★★★★★★



 ……は?戦争阻止?

 あの戦闘狂が、戦争阻止?

 語尾に星マークが付いてて、死の淵まで哄笑を絶やさず、マナ製で自然消滅するから残留弾による被害を問われないと自作ボール爆弾*で殺戮の限りを尽くしていたあの殺人鬼が、戦争、阻止ですって?


「……何で鳩が豆ガトリングを喰らったような顔してるのよ」

「豆ガトリングは誰でも嫌でしょ……ってそうじゃなくて、なんでアンタみたいな殺人鬼が


 メコッ☆


 顔面にパンジー様の拳がメリ込んで前が見えねェ状態になった。幼女パンチの貧弱さに感謝だ。


「私は確かに殺人鬼よ。人殺しは楽しくて楽しくて仕方が無かったわ」

「びぶんべぶうぼ(自分で言うの)……?」

「でもね。私にも良心があるの。人殺しを喜ぶ感性と、人を傷付ける事に対する罪悪感は何ら矛盾しないわ。この反社会的欲求に仮初かりそめでも大義をつけるために、私は軍人になったのよ。それは転生しても変わらない」

「……」

「記憶を思い出していなければ私は大事な故郷の平和と繁栄、そして自分の利益の為に奔走して無様にシナリオ通りの死を迎えていたわ。私の心根は正しくあのマヌケで哀れな悪役令嬢パンジー・エルムントよ」

「……」


 拳が離されて前が見えるようになった。

 パンジー様の顔は、真剣そのものだった。

 平和を愛し、悲劇を憎み、善を擁護し、悪を糾弾する、人並みに欲深く人並みに自分勝手で、人並みに真摯な善人の目であった。


「……ごめん」


 ここは謝罪するべきだった。思い込みで他者の良心の存在を否定するなど、あってはならない事だった。


「分かればいいわ。私の目的は、原作知識と現代知識による政治的干渉と国力増強両面での戦争回避。並びに私達が生まれ落ちたこの国の平和と繁栄よ。今世の私は攻撃衝動がそこまで強くないから抑えられるわ」


 平和。戦いに明け暮れた前世では思いもよらない言葉だった。ついぞ戦争の先の平和を味わう事なく死んでしまった、私の心が反応する。


「あなたには私と同じく原作知識と現代知識があり平和を愛する同胞として、事情を共有出来る恐らくたった一人の仲間として、可能な限りの協力と援助をお願いしたい」


 疑問はある。懸念もある。

 転生そのものだってわけわかんないのに、殺しあった相手の正義を聞かされてもう頭がパンクしそうだ。

 でも、その言葉に嘘は無いと思ったから。


 高潔な意志に敬意を表し、ひざまづく。


「エルムント家侍女、ローズ・シルヴィ。パンジー・エルムントお嬢様の忠実な配下として、平和を愛する同胞として、その使命、謹んでお受けいたしましょう」

「……ありがとう……」

「……つきましては、この散らかった部屋をどうしましょうか?」

「えっ……あっ」


 パンジー様がカッコつけて積み上げた蔵書と風魔法で巻き上げられた紙束で書斎はグチャグチャになっていた。


「……侍女長に報告してきますね。お嬢様がふざけて散らかした本と後先考えない風魔法の行使で散らかった紙束で使ってなくて綺麗だった書斎がめちゃくちゃに荒らされました、と」

「あ〜ん待って〜!!!☆一言一句その通りだけど待って〜!!!☆あの人怒るとすっごく怖いの〜!!!☆」



 ★★★★★★★★★★★



 知らない場所に来たパンジー様はいつも楽しそうな顔をする。

 この屋敷に着いた夜も、家具が運び込まれるのも待たずに冒険と称して飛び出していった。

 普段は日中暴れた後気絶するように寝てしまうので珍しいと思ったが、馬車の中でグッスリ眠っていたので暴れ足りなかったのだろう。


 次の日の侍女達との顔合わせはビックリした。

 何せ今までで一番飛びっきりのを出されたものだから、一体何をしでかすのだろうかと気が気ではなかった。

 新入り侍女ローズが何かを渡されたらしく、心配でお嬢様をツケてみたが、いつも通り……いやいつも以上の技術で撒かれてしまった。


 なので、鼻頭を赤くしたローズがお嬢様のやらかしで書斎がグチャグチャになってしまった、と呆れた顔で報告してきた時は安堵と予想外さで吹き出しそうになってしまった。

 お嬢様も大人しく叱られたあたり、ローズと打ち解けられたのだろう。同年代の友達が早速出来て何よりだ。よかったよかった。


 ……パンジー嬢付き侍女の侍女長、グローリー・モーニングはかなり大らかな性格だった。

*ボール爆弾……親爆弾の爆発によって大量の内蔵された子爆弾を飛散させるクラスター爆弾の一種で、アメリカ軍が実際に開発運用したもの。

飛び散った数百個の子爆弾が、更に計十五万個前後の小鋼球を撒き散らすもので、非装甲標的への面制圧力が極めて高い。

クラスター爆弾共通の性質として子爆弾を撒き散らす性質上無差別的な爆破被害や不発弾の被害が大きく『クラスター弾に関する条約』の禁止条項に抵触するが、アメリカは署名していない。

作中に登場するものは小型だが風魔法を仕込み飛散距離を拡大している。

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