放火犯は捕えられ、“私がしっかり拷問して”黒幕を吐かせた。襲撃事件で追放された元近隣領主の逆恨みだったらしい。
療養が明けて、パンジー様もすっかり元気になった。
元気になりすぎた。
「そ〜れそれそれ☆爆ぜろ爆ぜろ〜☆」
ドカーン!ドッカーン!ドガッシャーン!
お嬢様お手製の黒い球状の爆弾で岩が吹き飛んでいく。ちょうど死ぬ前に見た光景にそっくりで大分胃が痛い。
「お嬢様、もう少し大人しく……作業員達もいます。それにその格好……」
「あら、顔面大火傷以上の疵物があって?☆お転婆を気にするような小物が顔面丸焼けをスルーできるなんて思えないわ☆」
「それもそうですね……」
左額から右頬まで、ちょうど逆ブラッ◯ジャックのように火傷痕が残ってしまったパンジー様は、これ以上不評を買う事がないからとドレスをやめてエポレット(肩に付けるモップみたいなアレ!)付きの軍服を着るようになった。
まあ悪評を流したい連中は服装よりも顔に言及するだろうし、むしろスカーフェイス軍人というテーマコーデになって纏まりが良くなったが。
問題は前世の大日本帝国軍服にそっくりな事だ。火傷を除けばもう完全に帝国のラスボス(小)である。
「やっぱりこっちの方が動きやすいわ☆」
「帝国を思い出して嫌なんですけど……」
パンジー様は襲撃事件への対応に加えて山火事からの身を挺した救出劇により領民からの支持が一気に急増し、まだ幼い立場でありながらある程度の人員を動かせるようになった。
鋼鉄製の重量有輪犂*普及の為の魔術による金型作成、水源の探索など個人で可能な事は進めていたが、これで水道や街道の整備、輪栽式農業**普及の為の販路整備、実際の工業生産など人手を必要とする事業に進む事が出来る。
今日は街道整備である。作業を手伝いながらパンジー様が演説する。
「この国はムンヘンとプラバ、グルンベルクとまともな道の開通していない都市同士の間にありますから、全てに繋げば主要街道になれます。すぐに利益が出るように見えなくても、商人や旅人の交通拠点になればそれはいずれ莫大な利益をもたらします。もちろん、この国自体の流通網も強固にできることでしょう」
実績を伴った発言には説得力が生まれる。先の二つの事件への対応で利発な令嬢として知れ渡ったパンジー様の演説に作業員達も意欲的に働いてくれる。
「道が太く、広く、大きくなれば人通りが多くなります。人通りが多くなれば、治安が良くなります。そして更に人通りが多くなり、この国にますます益をもたらすのです」
土地が余っているこの時代において、雇用の創出でもある公共事業というのは基本的にやり得なのである。
演説を終えたパンジー様はドヤ顔で戻ってきた。
「おなかへったわ〜」
お嬢様はそう言ってふと歩き出すと、自分で投げた爆弾の不発弾をひょいと拾い上げ、そのまま……パクリ。
「……は?」
「なに?☆」
「……それって食べられるんですか!?」
「そうよ☆だってコレ、タピオカだもの☆」
「……はあーーー!?!?!?!?!?」
なんてこった。幕府軍を苦しめたボール爆弾はタピオカ爆弾だった。
いやタピオカ爆弾ってなんやねん。
「そんなの聞いてないです!」
「……言ってないもん」
「?」
「タピオカ好きってばれるの恥ずかしいし……誰にも言ってなかったもん!言ったのはこれが最初だもん!」
そう顔を赤らめられてはこっちも追及出来ない。恥じらいポイントが謎だ。
「?……じゃあ言わなきゃ良いじゃないですか。なんで私にわざわざ……」
「おバカ!!!鈍感!!!馬に蹴られろ!!!」
顔面を巨大タピオカで塞がれて窒息しそうになった。何故……
★★★★★★★★★★★
今日は鍛冶屋の視察だ。
鋼鉄製重量有輪犂の生産や水道用パイプの製造の為、半国営化した上で資本を投入し大規模化させている。
パンジー様は今日は新しい鋳型を持ってきたらしい。
なんでも、子供達に大ウケする事間違いなしの画期的な玩具だとか。
「この国や周りの国ではちょうど独楽が流行っています。私はそこに目を付けました……」
突飛だが優れた発想の製品を提案すると評判が付いてきたパンジー様の演説に皆が注目する。
知識チートしてるだけなのに……
「円形でない複雑な構造で衝突時の反動を派手にし、専用の器具で高速回転し、地を駆けぶつかり合って火花を散らす鋼鉄の独楽。どれだけ長く回るかだけでなく、その回転の勢いで競い合う相手を弾き飛ばすこともできる、騎士の剣戟のように華麗に激しく戦う独楽」
回って倒れるだけの地味な独楽しか知らない皆が注目する。
「複数の部品に分割し、多種の部品を販売する事で、独楽同士の複雑な相性勝負やより勝ち抜ける独楽を目指した改良をも楽しめる奥深き独楽」
コレクション要素は娯楽において重要だ。
「そして何より……美しき形状を備えた、カッコいい独楽!!!その名も、戦独楽でございます!!!」
パンジー様はブツを覆っていた布を取り払う。
そこには、どう見てもメタルファ◯トベイブ◯ードとしか思えない独楽が鎮座していた。
*重量有輪棃……農地の土をひっくり返して耕す為の、複数の斜めの板と車輪などで構成された大きく重い農具。曳くのが家畜かトラクターかという違いはあるが、現代農業でも使われるものである。
**輪栽式農業……穀物、飼料、中耕作物のローテーションで地力を保ちながら生産量を増大させる耕作方式。
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