6月下旬、道玄坂の地下にて行われたライブイベントは怪気炎の盛況ぶりを見せていた。
赤、青、桃色に輝くサイリウムの群れが舞台上に歓声を送る。
煌びやかな衣装に身を包む3人の、否3体のアイドル達はその真っ只中で一糸乱れぬ歌と踊りを披露していた。
ーー “私立日向畑学園“
通称"ヒナガク"とファンから呼ばれる彼女達のグループ名である。
株式会社日向畑人形店(以下、「日向畑人形店」と呼称する。)によって製造されたガイノイド達で構成されたアイドルグループが、企業宣伝を兼ねて定期ライブを行っている。
本日の一曲目が終わり、中央の赤い衣装を纏っている個体が一歩前へ出て口を開いた。
「皆さんこんばんは!私立日向畑学園リーダーのハスミです!今夜も盛り上がっていきましょう!」
観客席から野太い声援が上がる。
彼女はファンの反応に満足気に茶髪のボブヘアーを揺らし、活発そうな笑顔を振りまきつつ元の位置に下がった。
グループ内のリーダーを務め、ライブ中のMCも主に彼女が喋っている。
次に右側の青い衣装の娘が前に踏み出す。
「初めましての方は初めまして、そうでない方はこんばんは。同学園サブリーダーのチトセです。是非楽しんでいってください。」
観客から贈られる拍手に一礼して応え、一歩下がる。
烏の濡れ羽色とも形容できる腰まで伸びた黒髪のロングヘアーが似合う落ち着いた雰囲気の個体で、ヒナガクが発表する楽曲の作詞と作曲は彼女に内蔵された人工知能が担っている。
最後に左の銀髪をツインテールに結わえ、ピンク色の衣装を着た小柄な少女がちょこんと前に出てきた。
「……ユイコです。……応援よろしくお願いします。」
およそガイノイドらしからぬ人見知り振りとアイドルらしからぬテンションの低さではあるが、グループ内ではマスコット的なポジションでヒナガクの中で最も人気の高い個体である。
「今日も可愛いよ!」「結婚してくれ!」
歓声や指笛に混ざり、熱狂的なファンの絶叫が響く。
割れんばかりの声援を前にたじろぐユイコをフォローするかの様に、ハスミはライブの進行を試みる。
「じゃあ、盛り上がってきたところで2曲目いってみましょう!次の曲は『半熟スナイパー』!」
『半熟スナイパー』は、アップテンポな曲調に合わせたアクロバティックな振り付けが特徴的な楽曲となっており、最新の技術を駆使したバク転やバク宙は観客から驚嘆の叫びを呼ぶ。
あっという間の5分間の演奏後に、会場に本日一番の歓声が上がる。
会心の出来に喜ぶ各メンバーはハイタッチを交わすと、拍手が鳴り止んだ頃合いを見計らいハスミがMCを始めた。
「私達ヒナガクが結成してからもうすぐ1年が経ちます!皆様の応援のおかげでここまで成長することができました!本当にありがとうございます!」
「1周年おめでとう!」「記念ライブ絶対行くよ!」
会場の熱気が冷めやらぬ中で、ライブハウスの夜は斯くして更けてゆくのだった。
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