「確かに『またいつでも呼んでくれよな』とは言ったけどよ……昨日の今日だぞ?」
ホムラちゃんはクラウスさんに対して腰に手を当てながらグチグチと文句を言っている。けど、内心は嬉しいに違いない。本当に嫌ならここに来るはずないから。
「ホムラちゃんこんにちはー! 今日もえっちなお……かっこいい装備ですね!」
いっけないいけない。危うくまた変なことを口走るところだった。むぅ、おっぱいの大きさ自体はそこまででもないと思うんだけど……ホムラちゃんがあんなにピッチピチなボディスーツ装備してるのがいけないんだからね!
「ん? あぁロリ巨乳か。お前からも言ってやってくれ。クラウスのやつがオレをこき使うつもりらしいからな」
「こき使われてあげてください。ホムラちゃんがいないとクエストは達成できないんです……」
「やなこった! しかもなんだよこのクエスト、明らかに胡散臭いじゃねぇか! なんだよ【望まぬ救済】って! 望んでないなら助けてやる義理はねぇな!」
ホムラちゃんは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
私はクラウスさんをチラッと伺い――彼が困り果てた表情をしているのを確認した。――はぁ、いつもお世話になっているクラウスさんと、素直になれないホムラちゃんのために、私が一肌脱いであげよっかなー。
私はユキノちゃんの腕を掴んで引っ張ると、ホムラちゃんの目の前に回り込んだ。
「ホムラちゃんお願いします! 魔導族に対する差別を解消するチャンスなんです!」
「……お、お願いしますっ!」
頭を下げざまに、ユキノちゃんの背中をぽんぽん叩くと、空気の読めるユキノちゃんは一緒に頭を下げてくれた。
「いらねぇよ別に……この街ならなんか普通に歩き回れるし……っ!?」
こちらを見下ろしたホムラちゃんと目が合った。――ということは、ホムラちゃんからしてみると、私が上目遣いで見上げてるように見えるわけで……決まったっ!! 堕ちろ堕ちろっ!! お兄ちゃんならこれでイチコロのはずなんだけどっ!!
「……まあ、そんなに言うなら手伝ってやらんこともない……」
――や
やったぁぁぁぁぁっ!! 大☆成☆功!! ホムラちゃんがお兄ちゃんと同じ思考回路の持ち主でよかったぁぁぁっ!!
「……それでもあと一人足りないんだよなぁ。……ホムラ、知り合いに誰か誘えそうな魔導族いないか?」
「はっ! いるわけねぇだろうが! オレはソロプレイヤーだぞ?」
クラウスさんに吐き捨てるように告げるホムラちゃん。まだ機嫌が悪いらしい。
「他に誰か誘えそうなやつに心当たりは……ないよな」
私たちの顔を見回しながら口にするクラウスさん。私たちはお互いに顔を見合せた。
「な……くはないですけど……ダメもとで声をかけてみますね?」
私はウィンドウを操作してメッセージを送信する。
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差出人︰ココア
タイトル︰お願いがあるんですけど
本文︰エクストラクエストがあって、あと一人メンバーが足りないんですけど手伝っていただけませんか?
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返事は直ぐに来た。
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差出人︰セレナ
タイトル︰嫌です
本文︰どうしてそんなことをしなければいけないのですか? 私のメリットはなんでしょう?
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うわぁ、辛辣! でも私は諦めないもん!
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差出人︰ココア
タイトル︰わかりました
本文︰セレナちゃんの秘密をギルドのみんなに話しちゃいますね!
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またしても数十秒ほどで返事が返ってきた。
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差出人︰セレナ
タイトル︰やめてください
本文︰それは卑怯です。わかりました。今回だけですよ?
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ちょろ! ちょろちょろのちょろじゃんセレナちゃん!
私はセレナちゃんに『ヴェンゲル』の時計広場で待っていますとメッセージを送って、クラウスさんに親指を立てて見せた。さて、セレナちゃんは何分で来るかな――
「お待たせしました」
――え
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! はやっ!! セレナちゃんはやっ!!
「何を驚いたような顔をしているのですか?」
セレナちゃんの声に全員がそちらを振り向いて固まる。美しい銀髪にオッドアイの美人さんのセレナちゃんは時計塔にもたれかかるようにして立っており、まるでずっと前からそこで待機していたような雰囲気を醸し出している。――まさか、ね?
「せ、セレナちゃんはやくないですか?」
「ちょうどエリアボスを倒して来たところなのです。――で、これはどういうことですか?」
「……はい?」
「これはどういうことですか?」
セレナちゃんは一点を凝視しながら繰り返す。その視線を辿ると……苦虫を噛み潰したような顔でセレナちゃんを睨み返すホムラちゃんがいた。
「なんでこんな所にセレナがいやがんだよ? あぁ?」
「私はココアさんに呼ばれただけですが? あなたこそ何故ここにいるんですか? 喧嘩売ってるんですか?」
「ロリ巨乳に呼ばれたぁ? ふざけたことぬかしてんじゃねぇよ! ぶちのめすぞコラァ!」
二人の美少女が今にも殴り合いそうな剣幕でディスりあっているのは新鮮で可愛くもあるけれど、なんでこうなったのか分からない。もしかして二人は犬猿の仲ってやつなのかな?
「あなたはクエストの足でまといですから来ないで結構。むしろ来ないで、視界に入らないでいただけますか?」
「んだとコラ! 上等だ! 泣かすぞてめぇ!」
「ま、まあまあ、このクエストにはどうしても2人の力が必要なんだよ。手伝ってくれないか?」
「「誰がこいつなんかと!!」」
クラウスさんが仲裁に入ると、セレナちゃんとホムラちゃんは同時に叫んで、ハモってしまったことに気づいて同時に顔を赤らめ、同時にそっぽを向いた。息ぴったりすぎ! もう結婚した方がいいんじゃないかな!
――その後二人を落ち着けるのにだいぶ時間がかかったのだった。
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