冒険者ギルドを出た俺達はさっそく武器屋を見てまわることにした。
「そういえば、近くに武器屋があったな。沢山あったけど、近いところから回っていくか?」
この町の商店は冒険者ギルドを中心に沢山点在している。
武器屋、防具屋、道具屋、小物屋、業種もたくさんだ。
「いいね!時間もまだあるし、ゆっくり見て回ろ!これってデートだね!」
「え?」
「だぁかぁらぁ!デートでしょってこと!まぁいいから行こ行こ!」
俺の手を握って引っ張るリーチュン。
こ、これが……。噂のデートって奴か!?
おのれリア充め!爆発しろ!
って俺だああああ!
俺爆発しちまう!!
「もう!なにぼーっとしてるのよ。早く見て回ろ!」
リーチュンは楽しそうに満面の笑みを浮かべる。
「あ、ああ。デートだっぺな!行くべ行くべ!」
俺はテンパリながらもリーチュンの手を握って進んだ。
リーチュンの手は武闘家とは思えないほど柔らかったといっておこう!
そして、俺達はさっそく一軒の武器屋を訪ねた。
「へいらっしゃい!お!にぃちゃん可愛い彼女連れてるねぇ。どこでそんなマブいのゲットしたんだい?」
「いやぁ、その……。」
「そんなマブいねぇちゃんじゃ随分金が掛かったろ?キャバクラの同伴な事ぐらいおじちゃんにもわかるさ。んで、どの店の娘だい?こっそり教えてくれよ、安くしとくからさ。」
キャバクラ……ってなんだ?
俺は田舎者すぎてよくわからなかった。
「キャバクラ?リーチュン知ってるか?」
すると、隣でリーチュンが顔を真っ赤にして怒っていた。
「サクセス!いこ!こんな失礼な人の店にいい物があるはずないわ。イーーダ!私はキャバ嬢じゃないから!次どこかで見かけたらぶっ飛ばしてやるわ!」
リーチュンはキャバクラについて知っているらしい。
今にも暴れだしそうだったので急いで店を後にする。
「さっき何言われたかよくわからなかったけど、リーチュンが怒るくらいだから悪い店だったんだな。」
「最低ね。ていうかサクセス馬鹿にされたのよ!許せない!今度店の看板ぶち壊してやるわ!」
リーチュンはまだ怒っている。
どうやら俺はバカにされていたらしい。
それでリーチュンが激オコというわけだ。
なんか嬉しい。
誰かにバカにされても、怒ってくれる仲間がいるなら全然気にならないわ。
それからも俺達は、いくつか武器屋を見て回るもいい装備が見つからない。
といっても俺が選ぶわけではないんだけどね。
「あったわ!!あれよ!あれあれ!でもちょっと高そうかも……。」
五軒目の店先に並んでいる武器を見てリーチュンが言った。
どうやらやっとリーチュンのお眼鏡に叶う装備が見つかったようだ。
「リーチュン、すまない。なんか俺とリーチュンが一緒に行くと酷い対応されるみたいだから、先に俺が見てくるよ。値段を確認してくるわ。」
そうなのだ。
どの店に行っても、男の醜い嫉妬のせいで店主がいいものを見せてくれないのである。
まぁ今回は外に並んでいるのだから、大丈夫だろう。
そして俺はその武器を手に取って確かめる。
【はがねのつめ】
攻撃力38 スキル 力+10 素早さ+5 レアリティ138
おお!確かに良さそうだ。
ついているスキルもいい感じだ。
リーチュン、遠目からでよくわかったなぁ。
「おっちゃん、これいくらですか?」
俺は寡黙そうな店主の親父に聞いた。
「おう、5000ゴールドだ。買うか?」
5000ゴールド!?
高すぎだろ!
ほぼ全財産だわ。
流石に買えねぇ……。
すまないリーチュン、不甲斐ない俺を許しておくれ……。
「すいません、出直してきます。」
俺はそういうとリーチュンのところに戻った。
「リ、リーチュン……ごめん、ちょっと無理だわ。あれ、5000ゴールドするらしい。」
「高!!ぼってるわね!よし!じゃあアタイに任せて!!」
俺がリーチュンにそう言うと、リーチュンは俺にウィンクして言った。
どうやら何か作戦があるらしい。
そしてリーチュンはゆっくりとその寡黙そうな店主に近づく。
「ねぇ、そこの素敵なおじ様。アタイね、ちょっとその爪が気になってるの。」
リーチュンはチャイナ服の裾をチラっとめくって、上目遣いで店主に言った。
「お、おおおおお、おう。好きなだけ見てくれ。」
リーチュンの美しさとエロスにテンパる親父。
「見るだけなんてイヤ……。これ……欲しいなぁ……。でもそんなにお金ないし……。どこかに買ってくれる素敵でダンディな人はいないかしらぁ?」
「お、お、俺でよければ……は!違った俺が店主だった!いいよいいよ!2500ゴールドだけど、今日は俺の記念日になりそうだから250ゴールドでいいよ!!なんだったらタダでもいい!!」
おい、この店主……。
さっき俺には5000ゴールドって……。
ぼりやがったな!
つうか記念日って何期待してんだよ!
このおっさん俺以上に女に免疫なさそうだわ。
まぁリーチュンのルックスであんな事言われたら俺でも全財産投げ出すわ。
「やったーーー!おじ様大好き!はい、じゃあこれ250ゴールド。タダは悪いからねぇ。ありがとねぇ!!」
リーチュンはそういうと、はがねの爪を手にとって戻ろうとする。
しかし、それを店主が腕を掴んで引き留めた。
「ちょ!ちょっと!名前は!ていうかこの後、ご飯でも……。」
店主は必死だった。
しかし、リーチュンは……。
「あ?誰に口きいてんのよ?ていうかこの汚い手を離さないとぶっ飛ばすわよ!」
親父はビビッて手を離す。
リーチュンの顔は般若のような恐ろしい顔だった。
しかも、多分威圧のスキルも使っている……。
ここから見ている俺も怖くなった。
あんな顔は見たことがない。
だがしかし!
ざまぁみろ、俺からぼったくろうとした罰があたったんだ!
俺は少し胸がスッとした。
そして、リーチュンはトドメとばかりに俺の腕に抱き着いて親父に見せつける。
「ダーリンお待たせ!ごめんねぇ、なんかきもい人に声かけられてさぁ。早く帰っていい事しよ!」
店主はそのまま五体投地のようにぶっ倒れた。
ショックが大きすぎたらしい。
どんまい、おっちゃん。
いい店見つけろよ。
ん?つかさっきいい事って……。
いい事ってなんだろ!!
ワクワクドキドキ!
「な、なぁ……あの、いい事って……。」
「ほんと!ざまぁみろって感じ!この町のお店やってる奴らは碌な奴がいないね!」
俺がいい事について詳しく聞こうとしたら、リーチュンは俺の声にかぶせるように文句を言った。
リーチュンも色々ムカついていたらしい。
「とりあえずもうすぐ昼だから宿屋に戻るか。後で他のみんなの装備も買わなきゃだし。」
「そういえばお腹ペコペコだわ!へっへーん、でも凄いでしょ。この爪250ゴールドなんてラッキー!!」
「いや、まじで凄いよ。これで他の装備に回せる金が増えたわ。」
「でしょでしょ!後でアタイに可愛いアクセサリー買ってくれてもいいんだからね!」
「わかったわかった。いいよ、買ってあげるよ。」
「やったーー!あ、サクセス見て見て!あの髪留め可愛い!!」
リーチュンは優しそうなおばさんが開いている小物屋の露店を指差す。
「おお、これは……?ニッカクウサギを象ったゴム紐か。リーチュンに似合いそうだな。」
「でしょでしょ!サクセスがあたいにプロポーズしてくれた時の魔物よ。」
ギクッ!
お、おぼえてらっしゃったか……。
俺は恥ずかしくなり黙り込んだ。
「あらあら、お熱いわねぇ。あたしにもそんな時があったかしらねぇ。ほら、お兄さん。黙ってちゃダメでしょ、安くしとくから買ってプレゼントしなさいな。男の甲斐性ってやつを見せないと、すぐに他の男に取られちまうよ。」
おばさんは俺にそう発破かける。
まぁ他のメンバーがいたら買いづらいしな。
「オッケー、いくらですか?」
「ほんとは3000ゴールドだけど、昔を思い出させてくれたお礼に300ゴールドでいいよ。」
はがねのつめより高い。
がしかし、その小物を手に取ると安い事がわかった。
【ニッカクウサギの髪留め】
防御力1 スキル 逃走確率アップ 素早さ+15 レアリティ68
思ったよりも破格の性能である。
レアリティが二桁だ!
初めて見たわ。
特に逃走確率アップは素晴らしい。
今後危険な魔物と出会った時間違いなく役に立つだろう。
俺はおばさんに300ゴールド渡して購入する。
「ほらあんた、買ったらおしまいかい?つけてあげるんだよ!さっさとしな!」
おばさんが怖い……。
「お、おう!」
俺はおばさんに言われてリーチュンの髪に装備させた。
「やったーーー!ありがとうサクセス!一生の宝物にするね!!ねぇねぇ似合う?似合う?」
リーチュンは満面の笑みで物凄い喜びながら俺に見せる。
か、かわいい……。
髪留めというか、その様子がだ。
「か……かわいすぎだっぺよ……。天使だべ……。」
俺は思わず口から洩れてしまった。
真顔で言った俺の顔見て、リーチュンは顔を真っ赤にさせて照れた。
「も、もう!!言い過ぎよ!からかわないでよ!!」
からかったつもりはないのだが……。
まぁリーチュンの照れ隠しだろう。
「じゃあそろそろ戻ろう。みんなお腹を空かせているはずだから。」
「そ、そうね。あの……さ。サクセス、アタイはいいんだからね?」
ん? 何がいいんだ?
この時俺は気づかなかった、それがあの時、俺が血迷ってしてしまったプロポーズの答えだとは。
故に……。
「ん?あれ?飯いらないのか?」
と言ってしまう。
「馬鹿!!サクセスのバカ!ご飯は食べるわよ!!」
なんか怒られた……。
きっと腹が空いて気が立っているのだろう……。
しかし、今日はリーチュンの意外な面が沢山見れたな。
すげぇ可愛いところも多かったが、やはりあの武器屋の時の事が忘れられない。
本当に女は怖いな。
元気で明るさが取り柄のリーチュンですら、あの演技力。
俺も騙されないようにしなくては……。
余談であるが、今回武器やアクセサリーが安く買えたのが、サクセスの幸運値が200オーバーが理由であることをまだ誰も知らない。
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