ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
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第四十九話……激突! ハンスロルの大野戦!!

公開日時: 2020年12月9日(水) 16:00
文字数:6,004

今日の天気は曇り。

トンボが飛ぶ。木漏れ日が暑い。





「との! 家宰どのがお呼びですぞ」


「今行くブヒ」


 アーデルハイトに言われ、釣り竿を片付けたブタはニャッポ村の会議室へ出向くことになった。



 ブタはニャッポ村までの道を、牛の【月影】のひく荷台に揺られのんびりと進む。荷台から見る景色には蒼く光る稲が奇麗に風に揺れていた。




――ニャッポ村の会議室。


 ガヤガヤとうるさく、中には葡萄酒をあおる者までいる始末。



「静かにせんか!!」


 議長である老騎士が度々キレる。そもそもブタ領の幹部たちは、だいたいがモンスターかならず者たちである。会議場は何時も賑やかだった。



「――では、王国領ハンスロルへの援軍を賛成多数により可決致します」


 特に反対がないので、いつも次々と案件が通る。皆は議題よりも賭け事に夢中だ。

 ボルドーにより援軍を要請された王都は、とりあえずハンスロルに近いブタ達に先に援軍に行ってくれとのことだった。

 断れる案件でもなく、派兵が決まり、部隊案が揃う。



【第一陣】指揮官 アイスマン・ブルー


 第一部隊・ウサ 300名・混成種族の低級魔法使い。

 第二部隊・ポコ 25名・サイクロプス……3~4m級。

 第三部隊・アーデルハイト 15名・ブタの警護……ここにグスタフも含まれる。


【第二陣】指揮官 ザムエル


 第一部隊・ザムエル直卒 1000名・オーク族。

 第二部隊・ヴェロヴェマ 1000名・スケルトン族。


【第三陣】指揮官 モロゾフ


 第一部隊・モロゾフ直卒 1000名・トリグラフ帝国からの移民……普段は農民など。

 第二部隊・ダース    1000名・トリグラフ帝国からの移民……普段は農民など。



「で……、今回の総大将はリーリヤ殿です」


Σ( ̄□ ̄|||) ぇ?


「では、今回拙者はリーリヤの部下ブヒ?」


 心配そうに老騎士に聞くブタだったが、


「そうです!!」


(´・ω・`) ち~ん。



 アガートラムが既に北へ出陣しており、老騎士とンホール司教が留守番と考えると妥当な編成だった。

 しかし幼児であるリーリヤが総大将という点だけは、やはり皆が騒々しくなったのだが、


「まっ、いっか」


 とブタが了承してしまったので不問になった。



 ブタはンホール港の自宅に帰り、飼い犬である【ノンビーリ】をご近所さんへ預けるなど、あわただしく準備をした。




「しんぱ~ちゅ!」


 それから二日後、総大将リーリヤの元気な掛け声の下、ブタ達は南進していった。




――王国領ハンスロル。

 アーベルムの中央政府より議長代理のヘンシェル伯爵という者が、ボルドー討伐の為に兵士一万名を率いて北上してきた。よってローレンスたちアーベルム北部諸侯はそれに合流し指揮下にはいる。その後、ボルドーが立て籠るハンスロルの城を包囲することになった。



「はやく攻めたてんか!!」


 栄華を極める商業都市の伯爵にふさわしく豪華な宝石をちりばめた服を纏うヘンシェルが、ローレンスたちを叱責していた。


「しかし、相手は堀も深くしておりますので……」



 現場指揮官の欠員が多いボルドーは、野戦を諦め全力で城を強化していた。素人が一見しても夥しい数の柵が並び、無理に攻めるのは大変そうだった。



「かまわん!! どうせ先頭に立つのはみすぼらしい農兵だろう? 早く兵を進めぬか!!」


 ヘンシェル伯爵はアーベルムの国家元首たる最高議長リエンツォの代理であった。ローレンスたちが逆らえる相手ではないのだが、ヘンシェルの部隊はローレンスたちの部隊の遥か後ろの安全な位置に布陣しており戦闘に参加する気配はなかった。



「せめて、ヘンシェル殿の部隊も一緒に城攻めしては頂けまいか?」


 ローレンスはそう言い、食い下がったのだが、


「下らぬことを申すな。ここはお前たちの地元だろう? 早く持ち場へ帰って攻撃せよ!! ひょっとして逆らうのか?」


「い……いえ、そういう訳では」


 きつそうな性格のヘンシェル伯爵にすごまれたローレンスたちは、トボトボと自陣に帰っていった。



「無理攻めはお味方にも被害がでませぬか?」


 ローレンスが帰った後、ヘンシェルの家臣がそう尋ねると、


「ふん、やつらにも摩耗してもらわねばの。あやつ等は状況次第でまた裏切るであろうしの」


 ヘンシェルは苦虫を噛み潰したようにそうつぶやいた。



 しかしその後、兵を失いたくないローレンス達のやる気のない城攻めが続く。さりとてヘンシェルも堅城の様相を見せる城へ近づきたくもなく、全く進展がないまま10日が過ぎた。




「敵の援軍が参りました! 兵数およそ4500」


 駆けこんできた伝令が、幕舎の中で寛ぐヘンシェルに告げた。敵の援軍とはブタ達のことであった。


「ふふふ、小賢しい。そのような寡兵で何ができようものか!?」




……この時点で。


【ハリコフ王国側】


ボルドー上級伯爵    ……約3000名(城に籠城中)

アイスマン辺境蛮族子爵 ……約4500名


【アーベルム辺境自治都市政府側】


ヘンシェル伯爵     ……約一万名

ローレンス辺境伯爵   ……約8000名 (城を包囲中)



 ヘンシェルは難しい城攻めをローレンス達に任せ、自分たちは半数以下のブタ達を野戦で撃退することにした。


 その後、ブタとヘンシェルは近くを流れる川を挟んで対陣した。

 どちらも川を渡るほうが不利を悟っており、睨みあいになった。



 しばらくして、ブタ側から小部隊が川の手間まで前進してきた。

 そこから口に大きな漏斗を手にして騒ぐ男がいた。モロゾフである。


「我々は、正統なアーベルム国家元首リーリヤ様を擁する軍である。リーリヤ様の後ろ立てはトリグラフ帝国の先代皇帝トリグラフ2世である。その証拠にトリグラフ帝国の子爵であるブルー・アイスマン殿もご臨席である!!」


「は……はじめまして」


 ブタがゆっくり歩み出て、手を振り挨拶をする。

 彼にとっては学校の学級会以来の恥ずかしさだったが、


「あの小賢しいブタを撃て!」


「ブヒ~!?」


 対岸から矢が飛んできて、ブタは逃げることになったが、リーリヤがアーベルムの前国家主席であるメーメロ議長の娘だということはアーベルムの貴族なら誰でも知っていた。

 現国家主席のリエンツォは、クーデターによる首班就任のため正統性が弱かった。意外な場面でそれを突かれた形となったヘンシェル伯爵は対応を迫られる形となったのである。





☆★☆★☆


小雨が落ちる。

その日のことは忘れない。





「進め!!」


 モロゾフの口上に腹を立てたヘンシェル伯爵は、本隊に左右両翼部隊を一直線に配した横陣を編成し、数を頼みにした力攻めにて渡河を敢行した。



 それを迎え撃つブタ勢も川の上流側である左翼にザムエル、モロゾフが指揮する本隊、ヴェロヴェマが備える右翼と並ぶ横陣で迎えうった。



【11:30頃】


 アーベルム港湾自治都市にその人ありと謳われる勇者、オーキンレック男爵が率いるアーベルム右翼が渡河を試みるところから開戦の口火を切られた。



「貴様ら進まんか!!」


 金箔を施したフルプレートアーマーに身を包んだオーキンレックはイラついていた。昨日までの雨により川が思ったよりも深く、兵士たちの膝までが水に浸かり進撃を妨げていた。



「カッカッカ。元気な奴らよの!」


 ブタ勢最強と目される獣人指揮官ザムエルが率いる屈強なオーク達が、その強靭な腕を活かした弓による射撃を行う。

 川の水に足を取られているアーベルムの兵士たちに、鈍い音を響かせる矢が次々に襲ってくる。

 大きな盾を持つ重騎士たちが足を射抜かれ次々に倒れた。いわんや軽装備の一般兵士たちの惨状は悲惨の極みだった。


 今の我々の世界は銃が一般的で、あまり語られない武器である弓だが、実際はその貫徹力は剣や槍をはるかに凌ぐ。有名な中世イングランドのロングボウ部隊の有効殺傷距離は100mを優に超え、現代のフライパンを簡単に射貫くと言われる。当時の低い精錬技術で作られたプレートメイルで防げるかについては説明する必要はないであろう。



【11:45頃】


 アーベルム側総大将ヘンシェル伯爵の指示に基づき、アーベルム左翼も渡河を開始。しかし下流に位置することもあってか水深は深く、兵士の腰まで水に浸かった。

 これを迎え撃つのは骸骨部隊を指揮するヴェロヴェマ。彼も戦上手で通っていたが、アンデッドモンスターである骸骨兵たちは夜戦が得意で、昼間はむしろ動きが鈍かった。

 昼間の骸骨兵は人間に力は劣るのだが、とにかく抗堪性が高かった。また腹が減るわけでもなく、咽喉が渇くこともない。

 ヴェロヴェマは彼らの特性を活かし、水際での死守に拘ることなく、時には退き、好機には前へ出た。

アーベルム側からすれば、兵力を投入しても崩せそうで崩せない、もどかしいタフな戦いを要求された。



【12:15頃】


「両翼は何をしておる!?」


 ヘンシェルは当初、腕自慢の下級貴族や騎士たちを両翼に配置し、あわよくば半包囲を目論んでいた。

しかし両翼による攻勢だけでは進展がないと悟ったヘンシェル伯爵は、中央部前衛にも攻勢を命じた。


 ブタ側は今回すべての弓兵に対し、コダイ・リューたちが捕獲する貴重な海獣を材料とする高性能の弓を支給していた。

 大盾持ちの後ろから、ブタ勢の射手たちは遠距離から次々と敵を射すくめた。


 ……が、数の力は強く、ダースが指揮するブタ勢中央部は段々と劣勢になっていった。



【12:30頃】


 開戦より一時間がたったころ。アーベルム右翼を指揮するオーキンレック男爵は部下の制止を聞かず、最前線に身を投じていた。



「くっ!?」


 突然、鋭い痛みがオーキンレックの右膝を襲う。気が付けば一本の矢がオーキンレックの右膝を撃ち抜いていた。

 駆けよる部下がオーキンレックの足から矢を引き抜こうとするが、鋭い返しが邪魔をして抜けない。



「カッカッカ! 腰抜けどもが逃げるぞ。追え!!」


 部下の肩を借りて後ろに下がるオーキンレックの姿を捉えた獣人ザムエルは、射撃を主軸とする防戦から、白兵戦主軸の攻勢へと転じていった。



【13:30頃】


――ドドーン。

 ブタ勢の本営から退き太鼓が戦場全体に轟く。



「む? 退き太鼓か!? 残念だが退くぞ!」


 戦いを優勢に進めるザムエルであったが、麾下の部隊にすぐさま後退を指示する。



 ザムエルの率いる部隊と違い、ブタ勢の中央部隊はトリグラフ帝国からの移民で構成されていた。

 彼らは日ごろ農村で働く開拓民である。そのような人たちに、大軍を相手に長い間戦線を維持させるのは不可能だった。


 ザムエルと同じく戦いを優勢に展開していたヴェロヴェマ部隊の援護の下、ダースが指揮するブタ勢中央部隊は後退に成功した。



【14:30頃】


 ブタ勢は川より少し離れた台地に布陣しなおした。無事に川を渡ったアーベルムの諸侯は総大将であるヘンシェル伯爵の指示を待たず次々に攻勢にでた。

 なにしろ台地に布陣するブタ勢前面にリーリヤらしき姿が見えたのだ。リエンツォ政権を支持する貴族たちからすれば、危険な火種になりえるリーリヤを討ち取る好機だった。



「畜生である蛮族どもを、文明が栄えるアーベルムの地より叩き出せ!!」


「「「おう!!」」」


 右膝に包帯を巻いたオーキンレックは、麾下の下級貴族たちを鼓舞し、愛馬を躍らせて騎乗する配下の騎士たちとともにリーリヤらしき姿めがけて突撃した。

 しかし、騎兵に続くはずの槍兵たちの動きは鈍い。2時間以上も川の中で戦ったため、疲れ以外にも気化熱が体力をそぎ取っていた。



【15:30頃】


「オーキンレック殿に、敵を迂回し回り込むよう伝えよ!」


 リーリヤの姿がなまじ見えるため、アーベルムの攻撃はブタ勢中央部に集中。ブタ勢は優れた射手を集中配置することで効率の良い対応が出来ていた。



「他の者にも戦線を拡げ、敵を包囲するように伝えよ!!」


 ヘンシェル伯爵は全軍の両翼を拡げ、ブタ勢を半包囲するべく再攻勢を開始。それに応じてブタ勢の両翼であるヴェロヴェマとザムエルの部隊も、中央からだんだんと離れる形で包囲を妨げるよう動いた。



「不味いな……」


「ブヒ?」


 ブタ勢の本営で全体を俯瞰し、今回のブタ勢全軍を指揮するモロゾフは珍しく不安を口にした。


 大軍を擁するアーベルムに合わせて少数のブタ勢が両翼を拡げた結果、ブタ勢の戦線は薄い絹のような布陣になっていった。



 それを眺めていたヘンシェル伯爵は剣を抜き、天に突き上げた。


「勝ったぞ!! 我に続け!」


 ヘンシェル伯爵は自ら2000名のアーベルムが誇る親衛隊を引き連れ、ブタ勢のど真ん中に突っ込んできた。



「下がるな! 押し返せ!!」


 ブタ勢中央部の前衛部隊を統括するダースは必死に防戦を指揮。ダースが指揮する農民兵に、アーベルムが誇る煌びやかな精鋭騎士たちが馬に跨り何度も踊り込む。


 しかし農民兵たちは逃げたい気持ちを必死に抑えて踏みとどまった。彼らはトリグラフ帝国では自らが耕す農地を持たない次男以下の者たちだった。

 彼らはモロゾフに従いブタ領に移り住んだが、当初は不安な気持ちで一杯だった。そこに現れた領主であるブタは、威厳があるわけでも聡明であるわけでもなかった。しかしよそ者である彼らにも、とても優しい施策を行う領主だった。

 もしここでブタが殺されてしまえば、彼らが耕した土地は奪われ、再び根無し草になる恐れがあった。

 よって彼らは恐怖に良く耐え、ここにおいて予想外の強靭な防戦を展開していた。




「あの川がうっすら見える部分がわかりますかな?」


 モロゾフがブタにアーベルムの布陣の一角を指さした。そこはアーベルムの左翼部隊と中央部隊との連携がうまくいかず、ぜい弱になっていた部分であった。


「わかるブヒ!」


 布陣が薄い部分と言われてもブタは分からなかったであろうが、人数がすくなく『うっすらと背景が見える部分』というモロゾフの指示は的確だった。



「あそこを突破し、敵の左後ろへ回り込んでくだされ」


「わかったブヒ」


 ブタが乗る村一番の俊足牛【月影】が牽く荷車に、モロゾフはリーリヤを抱きかかえ乗せた。


「頼みましたぞ!」


「!?」


 それだけ言うと、モロゾフは愛用の鞭で【月影】の尻を思いっきり引っぱたいた。ブタ達が乗る車が突然敵陣に乗り出したので、アーデルハイトを含む警護兵やポコやウサも敵陣に踊り込んでいった。



 それと前後して、ダースが支える中央部前衛がついに突破された。


 ブタ勢に残された数少ない戦略予備を使い果たしたモロゾフ。彼がどっしりと構えるブタ勢の本営には、彼を守備する兵士は一人も残っていなかった。



「……!?」


 モロゾフが気付くと彼の胸当てには矢が二本刺さっていた。



「名のある将と見た!!」


 床几にどっかりと座る老将モロゾフを目指してアーベルムの騎士が馬に乗ったまま突っ込んでくるが、老将は足元に隠しておいた手槍で座ったまま騎士の胴を貫いた。



「次は誰だ!?」


 低い威厳のある声があたりに響く。



 それを見ていたヘンシェルは周囲に命令する。


「誰か、あやつを討ち取り功とせよ!」


 それを聞いた兵卒が進み出ようとするが、



「我こそは、トリグラフ帝国大将軍モロゾフ。一騎打ちを所望いたす!!」


 大音声で言い放ち、剣を向け指名した相手はヘンシェルその人であった。


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