ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
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第三十四話……怪宴!?

公開日時: 2020年12月1日(火) 15:55
文字数:2,894

天気は曇りだけど、こころは晴れ。

そんな日もあってもいいよね。





――

「今度、通商協定でも如何ですか?」

「よ! よろこんで!」


 アルサン侯爵に尋ねられたブタが答える前に、熱心に聞き耳を立てていた老騎士が思わず返事をしてしまった。


 赤くなる老騎士。

 居並ぶ列席者は大いに笑った。



 ちなみに、このアルサン侯爵が親しくブタに盃を勧める場面は、ンホール司教のお抱え絵師によって描かれ、現在も邪教の館に大きく展示されている。


 ちなみにこの絵は、老騎士に言わせると『やたら額がデカいだけ』とのことだが。



「ああ、そうそう……、つまらないものですが」

 アルサン侯爵は持ってきた祝いの品を紹介した。


「ぶひぃ?」

「わ~い」


 リーリヤは素直に喜んだが、ブタは凹んだ。お返しが大変だからだ。



 ……次々に読まれる祝いの品の目録。

 目の前に紹介される美しい生地や、珍しい香料。見たことも無い宝石やら珊瑚も並んだ。


 お祝いの宝剣やら名馬などは、屋外に置かれた。



「ほ……ほう、これは見事な」

 刀剣好きのザムエルは、ブタ達のことを放り出し、宝剣の刀身を眺め、感嘆のため息をつく。


「こ……、この馬は」

 精悍な名馬たちに、目をハートマークにしたヴェロヴェマは、次々に勝手に馬を試し乗りしはじめていた。


 老騎士も『通商協定』という祝いの品に目がくらみ、アルサン侯爵のお抱え文官たちとどこかへ消えていった。



 お祝いの品に老臣おとなたちの目が眩むと、他の者たちのボルテージは一気に上がる。



「うるさいのがいなくなったぞ~」

「「「いやっほ~♪」」」


 ガンガンと鈍い木製の盃がぶつかり合う音が響き、怪炎のごとく披露宴は盛り上げる。



「さあさ~皆様方~お替わりの葡萄酒もお料理もたくさんありましてよ!!」


――宴席の真ん中で、アルサン侯爵はもはや主人公だった。



 ちなみに、この披露宴は後世に『アルサン侯爵の晩さん』と語り継がれ、リーリヤが終生不満に思っていたという。



 またこの日、ブタとリーリヤはモイスチャー技師が試作設計した800mのレールの上を、4頭立ての青銅製軌道車輪式装甲馬車にて村内をパレードした。


 祝う領民から次々に花々が投げ込まれ、軌道設備の開設も併せて盛大に祝われた。



 こののち、軌道馬車はニャッポ村からンホール港まで延伸。魚介などの資源を大量に運ぶルートを確立していった。





――数日後。


「わんわん」


 アルサン侯爵がリーリヤ個人にくれたもの、それは可愛い子犬。


 この時代、訓練された犬は家畜を狼からまもり、農作物からの獣害も減らした。また、狩りや戦においても八面六臂の大活躍をする犬までいた。


 それゆえ犬は、騎士などの武家にはなくてはならない重要な資産でもあったのだ。



 ……が、


「犬さん、お~き~て~よ」

リーリヤが毎朝イラつく。


 この犬はブタ家に来てからというもの、早寝遅起きを毎日満喫し、飼い主のリーリヤに『ノンビーリ』と名付けられることとなる。





――つかの間の平和。

 そう……、いつの世も平和はつかの間である。


 再びブタ領へ、猛々しくも勇ましい兵馬の足音が近づいていた。





☆★☆★☆


今日の天気はくもり。

私の気分が晴れないだけかしら。




――

 ブタがちょこちょこと、茶色い髪のお姉さんの処へ行っている情報をキャッチしたリーリヤ……ではなくて、リーリヤの側仕えの者たちです。


「奥方様! 領主さまがお喜びになるので、是非お料理をなさいませ」


「おりょうりとは、しもじものものがするものではないの?」


「え……え~っと」

 側仕えの者たちは、お互いに顔を見合わせます。


 この側仕え達は、リーリヤの故郷である港湾自治都市アーベルムから送り込まれている女官たちで、何やらイロイロとありそうです……。



「お料理をすると、ブタさんたちが早く帰ってきますよ」

「やるーーー!!」


 まだ4歳のリーリヤは恋敵がどうのと言う発想はない様です。

 ですが、早く帰ってきて家で一緒に遊んでくれるのは楽しい様ですね。


 実はブタさん達は結婚を機に、きちんとしたキッチンもあるお屋敷を新築しました。


 なにしろ、奥方様のご実家からの金貨がモノを言ったようですね。



 高額貨幣を領内で使うことに良い顔をしないへ―デルホッヘ爺さんですが。


「アーベルムに受注させましょう」

 と、屋敷の受注業者をアーベルムの建築業者に限り、雇ってもらう大工さんはブタ領から雇ってもらうことに決めました。


 きっとこれでアーベルムの建築技術がニャッポ村の大工さんに伝わりそうですね。



「領主さまのために頑張っぺか!?」

「んだんだ!」


 新しい技術が学べるという触れ込みがあり、ブタ領辺境からも若者たちがドンドン参加していきました。

 もちろん人間だけではなく、いろいろなモンスター達もやってきます。



「え、え~っと」

 皆さんが張り切って造ってしまったので、アーベルム建築業者はお困りの様です。

 なにしろ、設計図には煙突が一つの処を三つにしていたりと、大工のみなさんは大サービスをしてしまいました。

 お陰で、木造やら何やらの混合三階建ての完成です。

 ……ちなみに、設計図を覗き込んだところ、総煉瓦造りの二階建てだったようです。



「すご~~い!!」

 とりあえず、若い奥方様は喜んでくれました。

 ……が、

「こ……これはいったい!? おぬしら! それでも一流の建築業者か!?」


 へーデルホッヘ爺さんは、その場から退散しようとする建築士さん達を、力づくで村役場まで連行していったようです。



 たしかに、専門家でない私たちが見ても、屋根が部分部分藁ぶきだったりとか、かなりユニークな出来栄えです。

 とても威厳のある領主さまのお屋敷にはみえませんね。



 なにはともあれ、領民の皆さんの愛情がこもったお家が完成して、ブタさん達は引っ越ししました。

 実はこのおうちは、ニャッポ村にはなく、ンホール港の河口沿いに建てられました。


 最近はニャッポ村の便利な土地が移民の皆さんの影響で人気が出て高値になっていたのです。

 ……まぁ、それだけではなく、大好きな潮干狩りやら釣りに都合が良いこともあったんじゃないかと私は思ってますけどね。



 ちなみにこのお屋敷は、ブタさんの趣味でどんどん要塞化されていきます。

 河口から水を引いた堀やら土塀、柵やら井戸櫓、溜め井や簡易の船着き場まで作っていたようですね。

 ブタさんとポコさんは旅人たちにもその防御システムを包み隠さず説明し、ヘーデルホッヘ爺さんは頭を抱えていたようです。


 ちなみにこの要塞造りは、若奥様も大いに参加します。みんなと一緒に土いじりです。楽しそうですね。でも、側仕えの女官たちは大慌てですね。


「奥方様! 伯父様から頂いた絹のドレスが……ああ」


「ぢゃま~~~♪」

 ついには、若奥様はスカートの裾を笑顔で破いて走り去っていきました。





 ちなみにこのユニークなお屋敷の住人は、ブタさん、リーリヤさん、タヌキさん、ウサギさん、そしてンホール教騎士団騎士団長アーデルハイトさんとその部下の騎士団内最年長のおじいちゃんたち5名。

 そのほか、アーベルムより来た若奥様の側仕え達。


 で、最後に……、この日記を書いているナシャータ・ヘーデルホッヘ。

 最近、リーリヤさまのお側をお暇になりまして超悔しいです。




 ……今は、ブタさんの秘書ですわ。今に見ていなさい!!


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