ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
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第三十五話……西方の能臣

公開日時: 2020年12月1日(火) 16:00
文字数:2,765

今日の天気は冷雨。

しとしと降って若干さむい。





――ブタ領がつかの間の平和を享受していたその頃。



「ボルドー伯爵よ……」


 静かな低い声で、ハリコフ王国の相国たるドローは、銀髪の若者にゆっくりと世間話を語りはじめた。

 机の上の高級なお茶に波紋が広がる。



 王都で最も闇深いと言われる宰相府。

 王都の高級住宅地域にある森の中にそびえ立つ。

 荘厳で厳めしい建物で、市井の人はまず立ち寄らない。


 その闇多き奥座で、奥座の主にたじろぐこともなく、銀髪蒼眼細身の伯爵は優雅に足を組みながらお茶を愉しんでいた。



「……で、宰相閣下。ご用件のほどは?」


 このボルドー伯爵と言う男は、美しい銀色の鎧がトレードマークではあるが、おおよそ戦争の人ではない。

 治世に優れた王都西方の地方領主として名を馳せていた。


 そのために、対帝国戦においてはるか後方に布陣。

 手柄を立てはしなかったが、敗戦にもかかわらず特段の失策も無く、相対的に宮殿での発言力はあがり、このたび王の親衛隊長まで上り詰めた。

 ……ちなみに、前任の親衛隊長は敗戦の責にて閑職へ左遷。


 若いこともあり、人気の役職を勝ち得たボルドー伯爵は王都のうら若き女性のあこがれの的となった。

 当然のように、ドロー公爵はこの新しい人気者をすかさず幕下に引き入れた。



「……で、この案をどう思う? 伯爵殿?」


「仰せのままに……」


 銀髪の人気者は、言葉だけは丁寧にまとめた。


「言うてみよ。余も民衆達の父とも母とも呼ばれる能臣の意見を聞いてみたいのじゃ」


 老骨の宰相は目を見開き、体を乗り出した。

 まるで若き伯爵の生気を飲み込まんが勢いで。


「地政学上、最上の手かと」


 老宰相の威圧感に身動ぎせず、丁寧にそして冷徹な眼差しで答えた。



「そうか、そうか、期待しておるぞ。……そうじゃの、うまくいった暁には、……そうそう、末の王女様が未婚であらされての、まぁ、臣下がとやかく言うことではないがの」


 若き伯爵は、ジロリと老宰相を睨みつける。


「おお、怖い怖い、冗談じゃ」

 老宰相はおどけて見せたが、


「その言葉二言はありませぬな!?」


「……無い!」


 二人の能臣による取引が成立した瞬間だったのかもしれない。


「任せたぞ」


 ドロ-侯爵は若い伯爵の肩を優しく叩くと、色とりどりの妾達が待つ別室へ消えていった。




 若い伯爵は深いため息をつきながら、机の上に置かれている羊皮紙を指でなぞった。


『辺境蛮族子爵ブルー・アイスマンをけん制つつ、港湾自治都市アーベルム領侵攻への橋頭保を築け……』か、


 しかし、王女様と俺がか?

 田舎領地で燻ってる場合じゃないのかもしれんな?


「この俺が王族の末席にか!? あははは!」


 若い伯爵はひとしきり一人で笑うと、老宰相が向かった扉とは反対方向へ踵を返し、勇壮に軍靴を響かせ闇深き屋敷を後にしていった。





――

「奥方様! あぶのうございます!!」


 リーリヤはウサと共にアーベルムより伝わりし高級料理、【エビフライ】なるものを製造中。

 貴重な卵やら特級小麦の粉も器をこぼれて大散乱。



 なにやら油鍋はゴポゴポいっており、女官たちのみならずブタもポコもハラハラし通しだった。





☆★☆★☆


今日の天気は晴れ。

最近は天気が良くてエビ漁もはかどる。





――

 白銀の騎士ことボルドー伯爵は、宰相ドロー公爵の方針に基づき領内で兵を動員。他にも負役を担う者たちも広く募った。


 彼は治世の人と呼ばれ、領民の支持率は10割に近いという傑物であった。

 彼にの麾下の部将は、見目麗しい五人の女性騎士から成っていた。

 彼女らの下につく兵たちはそれぞれ5色に色分けされており、五色備えと称していた。


 ボルドー伯爵は武芸も好み、また馬も大変に可愛がった。名馬には特に金に糸目を付けずに取り寄せた。それによってか、彼の麾下の部隊は騎兵率が高い。ハリコフ王国標準軍制の二倍の騎兵率だった。


 さらには、領内から上がる豊富な税収を頼みに、兵士たちにも十二分の装備を分け与えた。

 しかも、先のトリグラフ帝国戦役で無傷で帰還。

 装備だけを見れば、現在の王国最精鋭であり、ドロ-公爵が彼とその部下に目を付けないわけがなかった。



「ご領主様がんばって~」

「御屋形様、ご武運を~」


 ボルドー伯爵は沿道の領民の歓声に笑顔で答えつつ進発。

 途中一旦王都ルドミラへ寄り、ドロー公爵と打ち合わせを行い、さらには糧秣の補充後に南進した。




――それから6日後。



「は? かの地は当方の家臣シュコー家の支配地ですが?」


 老騎士はニャッポ村役場の執務室にて、ボルドー伯爵の部下を名乗る者に応対していた。



「領地をよこせとは申しておらぬ。暫し逗留する故、御許可頂こう。これは王命である!!」


「は……、はぁ……」


 老騎士は気のない返事をしたものの、王命と言われるとどうしようもなく、王都よりの命令書を確認すると、ブタ領での通行証とシュコー家へ王軍の便宜を図るよう旨を手紙にしたためた。




 翌日にはボルドー伯爵の五色の部隊がニャッポ村へ到着。


「わぁ~奇麗な人たちがたくさん」


 丁度ニャッポ村まで女官を連れてお散歩しに来ていたリーリヤは、五色の兵団の噂を聞きつけ近くまで見物に来ていた。



「いかに衣服が奇麗であろうとも、下級兵士などの心根は所詮野獣でございます! だまされてはいけませぬ!!」


「え~」

「え~じゃありません。奥方様、早く帰って今日こそエビフライとやらを成功させねば」


「うん!」

 名残惜しそうではあったが、みんなが待つンホール港の屋敷に帰るリーリヤだった。





――

「奥方さまぁぁあああああ!?」


 女官が悲鳴を上がる。


「熱いウサ!!」


 跳ねる油鍋に熱がるウサと、全く動じないリーリヤ。



「ウサちゃんは、リーリヤより弱虫ちゃんね。うふふ~♪」


 ウサを笑うリーリヤ。


 実は、リーリヤはンホール司教に魔法を少し習っており、火炎魔法の反射を感覚で変異させて、少しの時間なら熱い炎や跳ねる油鍋に対しての魔法防壁を無意識で作っていた。



「な……なんかズルいウサ!」

 いじけるウサを他所に、エビフライがこんがりときつね色に揚がっていた。



 数々の高級食材の犠牲はあったが、なんとブタ領史上初めての【エビフライ】の誕生である。

(もちろん職業コックのドリス夫妻のお手伝いはあったが……。)



「おいしいブヒィィィ!!」

「美味しいポコォォォ!!」

「某もこんなにおいしいものははじめてですぞぉぉぉ!!」


 試食会には老騎士たちも招かれて、盛大に盛り上がった。

 普段は粗末なモノしか食べないのに、――油物である。当然に皆の評価は割れんばかりに高かった。



 <(`^´)>

 大いにウサは威張りましたとさ……。





 ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆彡


「痛いブヒィィイイ!」


 当然ながらに、誰かがウサに酒を飲ませ、ブタ屋敷は新築初の修羅場となる!!



 Σ( ̄□ ̄|||)


「え~ん、ウサちゃんが怖いぃぃぃ」


 リーリヤはお酒の入ったウサの姿にビックリして、粗相をしてしまいましたとさ……。

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