ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
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第四十五話……ハリコフ王崩御

公開日時: 2020年12月5日(土) 16:00
文字数:4,422

今日の空は澄み渡る碧。

晴天です。





 ブタはアルサン侯爵と再会を約し笑顔で別れ、ジャムシードの港を後にした。帰路の船上でみな笑顔であるが、今回の戦いは特に厳しかった。皆一様に日焼けし、無精ひげも伸びた。




――しばしの船旅の後。


 ンホール港でブタ達を出迎えた家宰ヘーデルホッヘと軍務役アガートラムは驚いた。なにしろトリグラフ帝国の先の皇帝が、お忍びでエウロパ号に乗っていたのだ。


 当然のように、上帝は領主であるブタより先に堂々と上陸し、出迎えのものたちへ手を振り応える。

 さらに上帝は唖然とするアガートラムの肩をポンと叩く。


「おぬし、ガタイが良いのぉ、励めよ」


「は、はい……」

 蒼き巨躯で鳴らすハイオーク族族長アガートラムは声が上ずる。


「おぬしは、ひげの形が良くない。励め」

 老騎士は慌ててひげを触り確かめる。


 上帝は意気揚々に、出迎えたもの全てにねぎらいの言葉をかけていき、それと同じ数だけの困惑が産まれた。



 その晩にはブタ達の帰還祝いと上帝陛下の歓迎式典を兼ねた。


 ちなみに、この度のアルサン候領での戦いの勲功第一はアーデルハイトであった。

 彼女は前線に出たい気持ちを常に抑え、アルサン侯爵やリーリヤたち非戦闘員の警護に終始務め、そして無事に守り抜いたことが評価された。

 晩餐を前に、ア―デルハイトは上帝より賛辞を贈られ、直筆の感状も頂く。ブタが形式上、上帝の家臣に列されたので、ブタの家臣であるアーデルハイトも一応は上帝陛下の陪臣ということらしい。


 勲功第二位は、モロゾフ。上帝という巨大な救援軍を呼び込みこの戦いを制したのだ。本来なら間違いなく勲功第一であるが、新入りということで周りの嫉妬に配慮し、辞退したと思われた。




――その後、沢山のお酒と豪華な食事が運ばれる。


「これは、これは旨いぞ!!」

 上帝陛下が感嘆の声を上げる。もはやブタ領名物のエビフライである。



「もう一個たべて」


「うむ」


 いつのまにか上帝陛下の膝の上にご機嫌でリーリヤがのっている。



「先生! どうぞ!!」


「え?」


 モロゾフのことを毛嫌いしていたアガートラムが一転、モロゾフのことを先生と呼び恭しくお酌をしている。実はオーク族は誇り高い反面、権威にめっぽう弱かった。

 上帝陛下の昔の股肱の臣であったモロゾフは、むさ苦しいハイオークの群れに次々にお酌をされていく。



「俺の酒が飲めねぇってのか?」

 ……(メ´・ω・) ぁん?  (’∀’;) ぃぇぃぇ……。。。

 体が復活して、お酒が美味しくなったザムエルの今後の課題は、宴席での部下へのパワハラの様だ。



ヾ(゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ぽこうさぶひぃ~♪


 久しぶりに楽しく皆とはしゃぐブタ達。



 ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆彡


 残念ながら、誰かがウサにお酒を飲ませたようだった。



 とにもかくにも偉い人が来たので、田舎者であるブタ領の面々ははしゃいだ。

 この日のことをンホール司教は好きな絵にして残している。


 題名は『偉大なる司教とそのしもべたち』であった。




 翌朝、老騎士は上帝のことを内緒にしたかったが、ニャッポ村は田舎ですぐに噂は広まってしまった。



「朕は嬉しいぞ!」


 沿道の村人から親切にされた時の上帝の態度が、いちいち空気が読めていなかったのも原因で耳目を集める。

 やんごとない衣をまとい、自称『朕』である。誰だって道化師かその他の可能性がわかるというものだ。


 ちなみにニャッポ村に伝わる伝奇で、王と記載された人が出てきたら、それはハリコフ王でもなければブタでもなく、異国の上帝であるこの人である。



「ほぉ、ぬしら下種どもはかようなものを食べるのか?」

 市場で不思議そうに野菜を眺める上帝陛下。親しみがある尊大な態度で村民に接する。


「お偉い方、これもいけますぜ!!」


「下種が食べるものは、やはり生臭いのぉ」


 魚屋に心で笑われながら、魚を触る上帝陛下。

 きっと彼は長い人生において食べてきた魚の全体像を、人生の後半である今学んでいるのだ。



 彼のような人が市井を眺める場合、やはり馬上であることが常だ。

 しかし時には、


「何をしておるのだ、ブタ殿」


 ブタは貴重なお小遣いである銀貨を落としてしまい、ポコと一緒に荷車の下に入った銀貨の救出活動の最中だった。


「えと……」


 木の枝を片手にもじもじと動揺するブタとタヌキ。

 実はこの後、木の枝を片手に這いつくばり、3人で銀貨救出活動をやってしまうことになった。


 もちろん後日、このことは『庶民より目線が低かった稀有な王』とおもしろおかしく描かれた。

 これを見ていて止めなかったのは、ンホール司教であり、一部始終を書き留めたのも彼である。



 その三日後、異国の上帝である彼は、ブタ領領民に絶大な人気のまま北国へ船路についた。




 それから一か月後。ブタ領は小麦の刈り入れが終わり、米の直播行っていたころ。



「ご注進! ご注進!」

 ブタ領北端に詰める関所から伝令が駆けこむ。





――ハリコフ王死す。



 ブタ領のみならず、ハリコフ全土に激震が走った。





☆★☆★☆


今日の天気は豪雨。

お空は真っ暗で、ときたま稲光が叫んだ。




――英雄王レーデニウス3世崩御。


 それは外部の周辺各国よりも、よりハリコフ王国内部に激震が走った。


 ブタ達が住まう南部はそれほどではなかったが、王国北西部の冬小麦の不作は凄まじく大飢饉となっていたのだ。

 王国直轄地のアーバン穀倉地帯もここ3年不作が続き、王国の穀物価格は高止まりしており、民衆からは怨嗟の声が聞こえていた。



 民衆を直接支配する地方領主たちも王都の政府に対し、近年は酒席で陰口を言っていたものである。

 しかしながら、昨年のトリグラフ帝国との戦役以外ではレーデニウス3世の主導する陸上での侵略戦争は連戦連勝だった。

 それは貴族たちの次男や三男などから絶大な支持を得ることとなった。侵略戦争に勝てば手柄次第で領地を得て家を興すことができるのだ。それは普段は畑を耕す末端の出稼ぎ兵士も同じであった。


 ちなみに防衛戦争をいくら勝っても領土は広がらない。よって、なかなか支配者の支持には結びつかない。などの当時の侵略戦争には当時なりの理由があったのである。


 しかし、侵略戦争に勝ち続けたレーデニウス3世がいなくなった。こういうとき、人間は目線や思考が変わる転機となる。

 目の前には食料が不足しており、飢餓に飢える人々が映る。明日のわが身は目の前の彼らなのだ。偉大な指導者はもういない、と……。



 歴史上、本当に庶民だけで成功した反乱はない(もしあればプロパガンダかも?)。裏を返せば分母となる被支配層だけで起きる反乱も少ないということだ。

 搾取する側と言え、在地領主の収入は彼らの支配下の庶民の生産力による。つまりは農業収入だ。

 ちなみに、これが下がると中央政府への不満がたまる。

 後世の客観的視点で考えるとほぼ因果関係はないだが、我々に良くないこと出来事が起こると政府のせいにしたくなるのと似ているのかもしれない。




――よって、ハリコフ王国各地で地方領主による反乱が起きることになった。




「くそがぁぁぁ!!」


 窓の外には豪雨、雷鳴がとどろく。

 属州ハンスロル都督府城塞の中。夜中の寝室にて浴びるように酒をあおる男がいた。


 寝具より半身を起こしただけで、目の前の杯を傾ける男と、それに後ろからかぶさる様に甘える女。


「くそう。どいつもこいつも頼りにならぬ」


「お気をお沈めくださいボルドー様」


 酒をあおり続けるこの男は、この地ハンスロルを港湾自治都市アーベルムより切り取り、才をもって治めていた。

 しかし彼の直卒戦力は少なく、多くはアイザック城に居を構えるローレンス辺境伯爵をはじめとした在地領主に頼っていた。



「ローレンス様は貴方様の才能をとても高く買っておりますわ」


「そうかも知れぬ……」


 そう、ローレンス辺境伯爵たちは彼の才能を信じてアーベルム港湾自治都市の中央政府を裏切り、彼の麾下についた。



「そうなら、なぜ奴らは王が死んだら俺に従わなくなるのだ!!」


「そ……それは」


 女はその男がとても好きだった。が、男の気持ちを楽にする言葉は持ち合わせていない。

 実は男も薄々に感じ取っていた。

 彼の背後に強大な王の影があってこそ、彼は輝けていたことを。



「上級伯爵さま、そんなことより……」


 女は、男から酒の入った器をやさしく取り上げた。

 そして、誘われるがまま、男は獣に成った。


 彼自身が輝ける存在になるには、今しばらくの時間が必要だった。





――ニャッポ村に王の崩御が知らされる二日前の朝。


 珍しく朝早くブタが出仕。ポコとともに老騎士の執務室を訪ねた。


「おはようブヒ~♪」

「おはようポコ~♪」


 その日の老騎士は、朝からうら若き愛妻と喧嘩しており、とても機嫌が悪かった。ちなみに彼の愛妻はオークである。


「今日は特に用事がありません」


 老騎士は書類から目を離さず、冷たい声で対応した。


「遊びに行ってきていいブヒ?」


「いいですとも、なんなら一週間くらい旅に出てみては?」


 ブタが上帝を連れてきたのも大きく、ブタが不在中のブタ領南部領域の不穏な空気は一掃されていた。


「じゃあ遊びに行ってくるブヒ」


 老騎士は不敬にも、彼の主に対して左手で追い払うそぶりまでした。

 しかし、それはブタにとって気兼ねなく遊びに行くのに、背中を押した格好にもなったのである。



 最近ブタはリーリヤとの兼ね合いから、危険なところへ釣りに行けなかった。が、ここにリーリヤがおらず、盟友のポコしかいない。


(´・ω・)(・ω・`)ヒソヒソ


 彼らは密談を行い、新しい穴場を求めこっそり二人で釣りに行くことにした。


 ニャッポ村の丸太小屋で、以前使っていた古い釣り道具を揃え、クローディス商館が経営する駅馬車を待つ。ンホール港の自宅まで戻ってはリーリヤが付いて行くと言うに決まっていたからだった。



 クローディス商会はモイスチャー博士の設計をもとに、金属製軌道の上に駅馬車を定期的に走らせ、ブタ領の交通を担っていた。

 この時期、商館の駅馬車は大賑わいだった。ブタ領はモロゾフの献策により、極寒不毛の地であるトリグラフ帝国から移民を募っていた。

 この移民たちはンホール港に上陸したあと、ブタ領内務役であるンホール司教が区画割を行った荒れ地をめざし、この駅馬車に群がった。


 雑踏とした駅馬車乗り場で、こともあろうに乗るはずの馬車を間違え、ブタとポコはブタ領奥深くの未開地行きの馬車に乗ってしまった。


 駅馬車は沢山の開発移民とブタをのせたまま走る。途中で金属製軌道が途切れるため、普通の馬車に乗り換え更に奥地へ奥地へと走っていった。



「おら! 早く出ろ! このブタが!!」


 馬車で寝ていたブタを揺り起こす男は、叩かれると痛そうなムチを片手にして荒々しく叫ぶ。


 Σ( ̄皿 ̄|||) ここはどこブヒ!?



 うっそうとした雑木林の中、木の間から見えるのは美しい山々の姿。

 連れてこられたのは、丸太で作られた質素な小屋だった。

 扉を開け小屋の中に入ると、生活に困窮した労働者の顔が並んでいた。



 ブタとポコはどうやら悪徳業者が担当する開発地域に来てしまったようだった。


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