今日の天気は晴れ渡る青空。
気持ちイイね。
──ヨチヨチヨチ。
「ヨッコイショ」
ドス!!
ブタ領会議室に最も上座に10円ハゲが三つの貧相なブタが座る。
「ちょ、ちょっと待って、そこは君が座る席じゃないよ!」
港湾自治都市アーベルムの全権大使たるメンデム将軍はブタを制止する。
なにしろ、ヘンデム将軍の知っているアイスマン辺境蛮族子爵は豪華な木製ブタ人形の方だ。
「あ、将軍。実は……」
ゴニョゴニョと老騎士は将軍に耳打ちする。将軍は青ざめ……。
「この度は、ご婚約の儀、誠に──」
「婚約!? なんのことブヒ!?」
今度は老騎士が青ざめる。まだブタに話辛く、話していなかったのだ。
「いや、そ……それよりも喫水の話ではなかったですかな?」
「お!? そうだった、そうだった」
喫水とは、水面に浮かんでいる船の一番下から水面までの垂直の距離のことである。とうぜん荷物を積んでいる船や、重い軍船だと、喫水はかなりのものとなる。
そのような船を停泊させる港は、水深をより深く掘り下げねばならなかった。
ブタ領が新規に作ったンホール港は、あまり広い敷地面積ではないが、先を見越して大型船用に水深は深くとってあった。
当然アーベルム側からすれば、ンホール港の完成はハリコフ王国の海上兵力の有力な前線基地ができたとみるのが普通であり、この度のブタ領への侵攻を招く結果ともなった。
「で……、ですな、ンホール港の水深を測らせていただきたい」
若きブタを横目に、将軍は老騎士に打診した。
老騎士はコソコソとアガートラム軍務役とそれについて相談した。
自国の最新設備の秘密を相手に打ち明ける事は、戦略的もしくは外交的敗北と言える。それは現代とておなじだ。
が……、
「殿! 将軍に水深を測っていただいてもよろしゅうございますかな?」
「OKブヒ!」
ブタ領は事実上アーベルムに屈していた。膨大な国力をもつ相手に戦闘を継続することは不可能だったのだ。が、それに多くの交渉において一歩的な条件になることもまた珍しい。
「我々も今度、アーベルムの港にお邪魔しても良いですかな?」
「もちろんですとも!」
大人たちのやり取りは続く。
「あ……、あの、拙者は役に立たないから、もう釣りに行ってもいいブヒ?」
「「ダメです!」」
老騎士と将軍にブタは睨まれた。
しょぼ~ん (´・ω・`)
──翌日
一向はンホール港に出かけた。
「わらわが、この港の責任者ぞえ!」
猫にしか見えない虎族のコダイ・リューが、頼まれもしていないのにンホール港について説明をし始めた。
最新データに基づくアレやコレ。秘密事項案件までしゃべりだす始末。もはや測量なぞいらないとおもわれるくらいの暴露ぶりであった。
随行員だったクローディス商館関係者は頭を抱えている。
さすがはブタ領INT1の双璧の一人コダイ・リューなだけはあった。
「まぁ……、まぁ、一応私も仕事なので……」
──ポチャン。
将軍があちらこちらで水深を測るが。寸分たがわず説明の通りで驚かされた。
Σ( ̄□ ̄|||)
か……彼らに我々の秘密を話したら、このようによそ者にぺらぺらとしゃべられてしまうのか!?
ヘンデム将軍は若干の眩暈を起こした。
明日は婚約式。
いったいどちらが外交的優位に立つのか!?
ある意味、どんな賢者も見通せないほどの予断許さない状況だった。
☆★☆★☆
──タリル暦233年3月。
降りしきる吹雪の中。
──
Σ( ̄□ ̄|||) ぇ? 婚約!? なにそれ!?
聞いていない話に困惑するブタに……。
Σ( ̄皿 ̄|||) ンホ? 館を改装!?
聞いたこともない宗教の儀式のために、聞いていない邪教の館ニャッポ村別館の改修工事に驚くンホール司教。
アーベルム側の顔を立てるために、内密に行う婚約の式典はアーベルム方式となっていた。
アーベルム側の文官が次々に指示を出し、邪教の館ニャッポ村別館はどんどん姿を変えていった。
Σ( ̄□ ̄|||) う……うちの教会がンホ~。
アーベルム方式の婚約式は俗にいう人前式。施設を貸し出すンホール司教の出番はなく、一介の参加者となっていた……(´・ω・`)
──パンパカパーン!!
ンホール教騎士団のお爺ちゃん達が、にわかの特訓で身に着けたアーベルム管楽器を必死の形相で吹き鳴らす。
「「「ぶひぶひぶひ」」」
一般参加者は無く、秘密裏に行われた人前婚約式の参加者の多くがオーク族という、むしろ豚前式の様相を呈していた。
主賓の御登場──
「わぁ~ブタさん達がいっぱい~♪」
メンデム将軍に抱きかかえられた姫君は、上質な絹のドレスを纏い皆の前に現れ感嘆の声をあげた。
──パチパチパチ。
メンデム将軍は深紅の絨毯をゆっくりとゆっくりと進み、そして立ち止まる。
アイスマン辺境蛮族子爵の前に降ろされた姫君は恭しく一礼した後。
「アーベルム議会議長ネーメロの娘、リーリヤです。ブタさん、ブタさん、私のお婿さんはどこ?」
と、ブタに尋ねた。
「ブヒ!?」
Σ( ̄□ ̄|||) やべぇ! おうち帰りたい。
この時、少なくともこの場の半数はそう思ったに違いなかった。
(=ω=`) 半ば放心状態の将軍と老騎士。
笑いをかみ殺すのに精いっぱいのアガートラムとンホール司教。
……が、救いの手が差し伸べられる。
「野郎ども! 飲め! そして歌え! カッカッカ」
アガートラムの副長ザムエルと、ヴェロヴェマが大声で叫びながら大量の料理と酒を運んできた。
「「「ォォォオオオ!!!」」
皆の目の色が変わる。
所詮ブタ領は、オーク達と流れ者の人間たちで構成されていた。見識高い良家の者などいない。皆それぞれに熊のドリス夫妻が作った料理を競うように頬張り、そして大量の葡萄酒を胃に流し込んだ。
式典は趣旨を忘れられ、食欲の神が司る豚達の大宴会に変わっていった。
──その晩。
「姫様! なんてことをおっしゃったのです!」
メンデム将軍は自らの姪、リーリヤを厳しく問い詰めた。
「だって、わたくしは、あんなみすぼらしいブタと結婚するくらいなら死んだほうがマシですわ!」
リーリヤはそのあどけない瞳で必死に伯父をにらみ返す。
「姫様! アーベルムに帰ったら、いつまた毒を盛られるかわからないのですよ?」
メンデム将軍はため息混じりに幼い姪を諭す。
「だって、だって、わたくしのお婿さんは、白馬に乗った優しい王子様が良いの。ブタは嫌、人間の王子様がいい……、えっぐ、えっぐ、え~ん」
「ひっ、姫様!!誰が聴いておるやもわかりませんのに!」
メンデム将軍は天を仰ぎ狼狽する。
「お……、伯父様の意地悪。伯父様なんて大嫌い!!」
メンデム将軍は、正直な4歳の姪に泣き崩れられ、途方に暮れていた。彼らの頬をただ蝋燭の炎だけが薄明るく照らしていた。
まだ外は吹雪いており、3月といえどもブタ領の住人達にはまだまだつらい季節だった。
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