今日の天気は晴れ……。
VRゲームがしたいが明日は中間テストの試験日で、母上が怖くてゲームはできません。
──ブタ達の丸太小屋のある領都ニャッポ村から南東に徒歩二時間のところにある海岸に、比較的大きな港が作られつつあった。
港の周りには活気あふれるお魚売り場、工事関係者目当ての屋台が活況を呈していた。
現在、クローディス商館の指示のもと、大幅な海底浚渫が行われており、完成の暁には【ンホール港】という名前になる予定であった。
大きな帆船の戦艦も泊地として利用できる様相は、王都からすればトンデモ物件だったわけだが、当のブタはなにも知らない。バレれば呼び出されて焼き豚案件だったのだが。
……港の設営について、【三頭政治】家たちやクローディス商館商館長がなにを意図しているかは不明だが、商人たちは細かいことが分からなくとも、お金のにおいがするところに自然と集まるのだった。
ブタ領境には関所もあり、通行税も取っていたのだが、折からの不作によりブタ領へ移住希望者は後を絶たなかった。
──現在ハリコフ王国は飢饉にも関わらず、北方への征服戦争の真っただ中だった。
少なくとも、重税を課したり課されたりする貴族たちの求める方針は、いつ成果が出るかわからない【灌漑】工事などではなく、手っ取り早く甘い蜜が手にはいる戦争だったのだ。
荒れた畑に見切りをつけたものは、兵士として夢を見る時代でもあったのだ。
……そんな事情により、ブタ領はハリコフ王国宰相ドロー公爵により兵站を支えるべく食料増産の期待がかかった。
ブタ領は平野の多くが川の流れる湿地帯であり、コメ栽培に適していた。が、その湿気具合に人間たちは難儀していた。
そこで最も湿気に強い部族であるキノコ族が動員された。
アガートラムの森を出た彼らキノコ族はブタ領各地で自生し、ガンガン農業に励んでいった。
──ブタ領産の生鮮野菜は、少々カビ臭かったが貴重なビタミン源として重宝された。
一獲千金を夢見る商人たちもまた、それを大金で買い漁り、次々に王都へ運んでいった。
ドロー公爵の目論見は一部においては成功していたのだ。
ちなみにキノコ族は実は野菜嫌いでありあまり自分たちでは食べなかったことも大きかった。
──ブタ領の交通の要所に設定された関所は、管理を【三頭政治】家たちによって負担運営され、治められる税の3割をブタ領主金庫に収めることになっていた。
つまり経費はかかるが、残りの七割は彼らの取り分なのだ。
当然のように、生鮮野菜にはかなり高い通行税が設定され、【三頭政治】家たちは非常に潤った。
もはや彼らは潤いすぎて『ンホォォォ~♪』状態だったのである。
☆★☆★☆
今日の空は青いけど、試験中で全然つまんない。
ゲームの中は今日はどんな天気でござろうか。
──木の葉舞い散る、風が強い曇天日和だった。
「槍隊前へ!」
勇壮なる声が響き、勇士たちが槍を構える。
「突撃!」
喊声を上げて槍襖が前進する。
──ガラガラガラ
突進する勇士たちに、落石やら瓦礫が雨あられ (´・ω・`)
峻渓なる岩山の上に陣取る敵に対して、弓による援護も期待できず、ブタ領アガートラム勢は相手の倍以上の100名をもってしても苦戦していた。
「ワシは力攻めではなく包囲したほうが……」
珍しくアガートラムが弱音を吐くと、
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
アガートラムはウサに、右頬をぐーでビンタされた。
STR255のグービンタである。流石のハイオーク族族長も立ち眩みを起こす。
一応ウサはブタの兄妹分なのだ、ブタを主と仰ぐアガートラムは何も言えない。
さらには容姿は可愛い小さなウサちゃんだ! 本気で大型モンスターが怒るのも癪である。
誰も逆らいようがないウサの作戦案が今回の方針である以上、従っているアガートラムとその部下たちは可愛そうでもあった。
しかしなぜウサがこの崖の上の敵にに固執するかというと、まずはここの交通の便の良さだった。
更にはこの近くの南北に走るブタ領横断道路予定地の南端の領地境において、夜間労働者のスケルトンたちが盗賊団に襲われたのだ。
──賊の一味はすぐに追い払われたが、捕らえた盗賊たちの道具袋には石炭と鉄鉱石がはいっており、捕らえたものを尋問したところ。この幹線道路予定地の近くに秘密の鉱山があるというのだ。
ただでさえ、採鉱が趣味なウサでもあり、且つ交通の便がいい鉱山なのだ。
どうあっても欲しい気持ちはだれにも分かった。
しかし、なぜウサはこうもあせるのだろうか?
その答えは、ブルー・アイスマン君がテスト期間の間に、鉱山を手に入れ、その成果をウサがテスト明けの彼に自慢したかったのだ。
……(´・ω・`)
昼間はオーク勢50名、夜はスケルトン勢50名が、間断なく銅鑼や太鼓を叩き鳴らし攻める……ふりをした。
……(´・ω・`)だってだれも無理攻めで死にたくないじゃん。
そのうちに敵は疲れてきて、反撃をしなくなっていった。
──残るは盗賊団の団長だけになった。
盗賊団の団長の容姿はうら若い女性のそれであり、赤い髪を振り乱し、目には手作りのゴーグル、口には手作りのガスマスクのようなものを身に着けていた。
盗賊団の団長は恐ろしく俊敏で、両手のジャマハダルで、崖を登ってきたオーク族の戦士たちに次々と白刃を浴びせた。
「ぅ……ぐ……」
しびれを感じるオークたち。
傷は浅いが、またしても毒である。
「くぅ……さてはおぬし暗殺者か!?」
さらには女盗賊の団長は、陶器の壺をオークたちの足元へと投げつける。
蝶の鱗粉のような紫色の霧が顕現した。
──呼吸毒。
呼吸をするたびに、めまいがし、ふらつくオーク族の勇者たち。
「ぶひぃぶひぃ……」
ぶひぶひと喚くオークたちの後ろに、今回のいろいろな元凶ウサの登場だった。
女盗賊団長はウサへの距離をその持ち前の俊敏さで一気に詰め、双刀のジャマハダルで切り刻む。
深紅の血しぶきがほとばしった、一瞬でウサは六回も切りつけられたのである。アサシンの面目躍如である。
が、その間にウサはお腹に一発。
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
ウサは避けようのない距離で女アサシンのお腹に、ぐ~でビンタした。
──
「ぐふ……。おぇぇぇ……」
ウサの一発で女アサシンは膝を大地につけ、勢いよくその腸の内臓物を吐いた。
【システム通知】……KO! ウサ WON!
小動物と侮った、ウサの本当の姿を知らない女アサシンの敗北だった。
やはり当たれば、スキル【気絶】付のSTR255のぐ~ビンタは痛かったのだ。
「い……やっぱり痛いよね?」
女アサシンは心配そうに近寄ってきた、同じく右頬を真っ赤に腫らせたアガートラムに同情された。
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