ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
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第二十四話……ブタ子爵討ち死に!?

公開日時: 2020年11月28日(土) 16:55
文字数:2,160

今日の空は晴れ。

久々の晴れだけど、もう……おうち帰りたい。




──ライン・シュコー騎士爵領土【シュコー領】


 今回のアーベルム港湾都市との戦いの最前線である。

 ブタ領南西端に位置し、今年の初めに開かれた新しい騎士爵領である。

 騎士爵とはいえハリコフ王国の直臣ではなく、アイスマン蛮族辺境子爵家の騎士爵であり、王国から見たそれは陪臣である。


 寄り親のブタより『南部の敵地切り取り自由』とされて恵まれているようであるが、その実、領地持ちになったことで俸給返納。よって、無資本からの旅立ちである。


 シュコー家の者はモンスター達を剣で追い払い、荒れ地を切り開き、伐採した木材で掘っ立て小屋を建てた。

 寄り親のブタからの要請があれば、いつでも兵を連れ馳せ参じなくてはいけない。よってシュコー家は商人からお金を借りて色々とそろえることとなった。

 が、実績のない田舎者に、王都の商人はどのような条件ならお金を貸すのだろうか。

 確かに商人からすれば新興貴族が興れば、その利益と権益の成長性は絶大である。が、今は夜盗に毛の生えた様な存在であり、リスクを考えた貸出利息は天文学的なものだったかもしれない。


 きっと、家を興すとはそういうことだった。




──【港湾都市アーベルム】


 ハリコフ王国南東部に位置するとみられる実質上の独立国家。


 陸路にて辿りついたものは少なく、ブタ領南部のモンスターの楽園であるアガートラムの森を含めた大森林地帯の遥か南方とみられる。

 昔より、大型船での交易は盛んで港は栄えていた。


 ハリコフ王国はその交易圏を手中に収めようと、近年に二度も海路より征伐軍を送るが生還率1割を割り込む前代未聞の敗北を喫している。




──


「ブルー君元気出してポコ!」

「きっとおうち帰れるポコよ!」


 よしよしヾ(・ω・`)


 アーベルムを迎え撃つべく南方戦線へ向かうブタ勢9000。

 牛の【月影】が曳く荷台にて、ブタはちっちゃいタヌキに慰められていた。



「ビービー泣くなウサ!」


 ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆彡


「痛いぶひぃ~」


 イラついたウサにブタは怒られていた。





「ご注進!ご注進!」

 大声をあげる伝令兵が、馬より転げ落ちる。


「なんだ!?」

 老騎士が馬上より尋ねる。


「我が方の最前線、【隠し砦バートルム】陥落!!」


「ご苦労、休め!」


 老騎士は、行軍中には貴重な水をすぐにも伝令兵に分けるよう言い、更にはハリコフ銀貨の入った袋を伝令兵に投げ渡した。


 老騎士は馬上より、上半身だけブタに振り返り。


「殿、これは些かおかしいですな。隠し砦の位置がこうも早く露呈するとは……、やはりこれは我が方に内通者がおりますぞ!!」


「ブヒ!?」


 正直ブタにはそのようなことなどどうでもよかった。

 早くおうちに帰りたい一心だった。



 ……その場から離れない伝令兵に老騎士はイラつく。



「なんだ? まだ何かあるのか!?」


「そ、それが……」

「早くいわんか! 時間がもったいないのだぞ!!」


「バ……バートルム砦お目付役、シュリッツ・ヘーデルホッヘ様、壮絶なるご最後……」



 老騎士の目元より、一条の光が静かに流れ落ちる。


──シュリッツは年の離れた老騎士の妹婿だった。享年39。




──ブタは悟る。


 今までのぼらなくてもいい階段を、わざわざのぼり続けていたことを──





☆★☆★☆


──『のぼれ!』『後悔が無いように……』


 その日の夕日はとても奇麗だった。



「殿! 陣頭はおやめくだされ!」

「殿! おさがりを!」

「殿! お願いします!」


 ブタは峻険な地に建つバートルム砦の麓の断崖を、先頭を切って登っていた。


 すでに彼の装備する落武者の鎧は、敵方の矢でハリネズミのようになり、ブタ自身の体に到達した矢も3本を数えていた。


 既に、ウサはブタを守ろうとして、砦側の矢と魔法を受け滑落し、重傷。後送されていた。


 ブタを止めようと、ブタ領首脳部は突出。



──ブタは愚かか?

 中身は中学生である。


 当然に怒りに燃え、赤き血は煮えたぎり沸騰した。




──

「急げぽこぉぉぉ!」


 バートルム砦のブタが存在する正面と反対方向の搦手には、ポコとビットマン、そしてヴェロヴェマ率いる骸骨赤備え3000名が配備を急いでいた。


 何としても、敵の本体の後詰が来る前に落とす必要があった。敵の方が強大な戦力を持つために、少なくとも地の利を得たかった。

 今ならバートルム砦の構造なわばりや通路、廓の配置は同じであり、ブタ側の方が砦の構造に詳しかった。

 よって、奇襲や強襲が紙のうえでは成立した。




──

「ブタ討ち取ったりぃぃぃ!!」


 敵方の歓声が響き渡る。



「ガァァァ……」

 タヌキの目は血走り、小さな悲鳴をあげる。


 それに続き。


 ゴオォォォォォ! と地鳴りが砦周辺に響き渡る。


 夕暮れの逆光の中から、とんでもない巨躯を誇るサイクロプスのビットマンが砦の中を覗き込んでいた。


 その怒り狂った巨人は城壁を貪り食った。巨人の口からは血しぶきがほとばしり、その血しぶきの中から、深紅に染まった骸骨兵がなだれ込んできた。



「動くもの全てを殺せ!」


 咽喉から震えた声を絞り出すヴェロヴェマ。地獄絵のような風景に城兵は怯んだ。


 狂気じみた殺戮がバートルム砦を襲う。

 堅固な正門も打ち破られ、ハイオーク達が怒号を上げながらなだれ込んでくる。


 日が沈む前に、砦の最も高い塔に白旗が上がり、その塔から城将の首が投げ捨てられた。



 それを見て、我に返った両軍は潮が引いたように矛を収めた。


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