渡り鳥はいずこかへ消え、陽はしずみ、夜の空には月が煌々と人々の営みを照らしていた。
「チィ……」
ボロンフ辺境伯領領主の館、謁見の間にて、主の白髪の老人はいらいらと舌打ちを繰り返していた。
『……間者の知らせからして、汚らわしいブタの奴の裏切りは確実よの。ドロー宰相閣下にはいかに言い訳をしたらいいものか。ブタはともかく、王国の騎士が裏切ったのはどうしたことじゃ』
ボロンフ辺境伯は苦悩していた。
『ま、まてよ、辺境を預かる身でありながら安易に反乱を許したのじゃ……一時とはいえ放置すればドロー宰相閣下のお気持ちやいかになる?』
……まるで白髪の老貴族は、宰相に恋でもしているのであろうか?
「忌々しい無能で汚らわしいブタめ、わしの侯爵へ陞爵の夢やいかになるのだ!」
誰にというわけでなく叫びたて、ボロンフ辺境伯爵は葡萄酒の入った杯を床にたたきつけた。
――ゴッ。
木の器であったので、緋色のじゅうたんとの間に鈍い音が響く。慌てた給仕のものが主の足元をぬぐう。
「義父上、是非わたくしにおまかせを!」
すすみでて、そう辺境伯爵にかしずいたのはスメルズ男爵。
ボロンフの娘婿にして伯の麾下の勇将だった。鮮やかな碧髪の下に美しい象牙細工のような顔をのぞかせる。
「反乱に対して、我らが得るものは何一つないのだぞ!」
初老にさしかかるも、神に与えられた煌びやかな白髪をかきむしり、ボロンフ辺境伯は娘婿にもその恨みがましい蛇蝎を見るようなまなざしを向けた。
そう、たとえ首尾よくブタの反乱を自軍で鎮圧しても、ボロンフ辺境伯の影響範囲が広がるわけでは決してない。
そもそも、安易に反乱を許したことが王都からの侮蔑のまなざしを意味し、田舎者で無能な烙印を捺されるのだ。
王都の発した外征でもないので、中央からの軍資金支給などの援助はみこめない。むしろ金などを受け取れば無間地獄のような利息を毟りとられ、利息払いの遅滞でもすれば首が回らなくなり、最後には王都に辺境伯爵領は返上せねばならない憂き目にあう。
王都は地方貴族の失態を常に狙っており、味方に対しても領土野心のまなざしをむけていたのは、すでに全てのハリコフ貴族の知るところであった。
白髪の老貴族は天井を見上げ、呟くように告げた。
「……、失敗は許されぬし、人的被害も抑えねばならぬ。いかにするのじゃ?」
領内の人口減少につながれば、地方貴族にとって死活問題だった。良くも悪くも人は地方領主にとってもっとも大事な資産のひとつだった。
美しい碧髪の若者はたち上がり、青い血が流れる細い華奢な腕でみずからの胸を叩いた。
「我らの勇壮を見れば、所詮はブタの群。たちどころに四散するに違いありませぬ。」
「おお……さすがはわが主。」
スメルズ男爵の側近やお抱えの老臣たちは声を上げた。
しかし、ボロンフ辺境伯爵麾下の貴族たちは、いろいろな思惑のもと、一様に好奇心を添えた如何にも貴族らしく生暖かい、そしていやらしいなまなざしを碧髪の美男子に向けた。
「さすがはスメルズ殿!」
などと持ち上げ、貶した笑みをみせるものも現れた。
が、碧髪のあるじは少し口もとに笑みを浮かべ。
「……それに」
ボロンフ辺境伯は不安なまなざしを向け、問うた。
「それに……、それになんじゃ? 婿殿」
「義父上、我らには【アレ】があるではありまえぬか?」
それを聞き、白髪の老人の目は生気を取り戻す。
「おう、【アレ】の実験にブタどもを使うのか?」
「御意」
「あはははは……そうかそうか、それは良い」
辺境伯爵は高笑いをし、とりもどした満面の笑みで告げた。
「よかろう、男爵。ぬしの才覚をもってして、けがらわしいブタめの領地を切り取り自由とする!」
この世界では、寄子がいくら戦場で手柄を立てても、戦後には寄り親に取り分を支払わねばならなかった。
が、今回は切り従えた分は全て、この美しい容姿の持ち主である男爵のものとなるという意味だった。
「!?」
「な、今なんと!?」
今度はボロンフ辺境伯麾下の寄子の貴族たちが正真正銘の驚きの声を上げ始めた。
嘲笑っていたはずの碧髪の若造に、美味しいところを全部持っていかれるかもしれないのだ。
日頃から、自らこそ真の知将であると豪語するものなどは、目を白黒させ激しく憤った。
「では義父上様、収穫の祝日にはブタめの首級を必ずや届けて差し上げます。」
そう告げ、碧髪の美男子は踵を返し、謁見の間から堂々と立ち去って行った。
「ふふふふ……」
白髪の老貴族は薄ら笑みをうかべ、実に満足そうに笑った。
『形のうえでは寄子とは言え、婿殿の勢力が広がればワシの王都へ影響力は明らかに増す。そうだ侯爵の道は消えたのではなく、むしろ確実に近づいたのだ。わしとしたことが、失念失念……、歳はとりたくないものじゃのう……』
そのような考えに落ち着き、老辺境伯爵は野心の高ぶりを再び目に備え、久々に若い寵姫たちを閨で可愛がったのだった。
……収穫前の秋の夜空には、月に風にながされた雲が薄くたなびきかかっていた。
「ぽこ~☆彡」
「うさ~☆彡」
「ぶひぃ~☆彡」
三匹なかよく夜釣りを始める。
で……久々の夜釣りだからかバンバン魚が釣れる。 ひゃっほぃ (∩´∀`)∩~♪
……しばしお魚さんと格闘~♪~♪~♪
【システム通知】 … サーバー内における単位時間当たりのプレーヤー夜間釣果 【No1】
【システム通知】 … サーバー内における単位時間当たりのパーティー夜間釣果 【No1】
……釣りは楽しかった (゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ぽこぶひうさ~♪
……ブタたちの領地は風雲急を告げ、……るわけでは多分なさそうだった。
【システム通知】 … サーバーが切断されました。
Σ( ̄□ ̄|||) ぇ? 今日は母上たちは温泉旅行のはず!!
……暫しの暗転ののち、
「ありゃまぁ、ブルーごめんねぇ~」
「おばあちゃん、夜のトイレの時はコードに気を付けてっていつも言ってるじゃん」
☆★☆★☆
……拙者の名はブルー・アイスマン。
この世界ではただの二足歩行のブタでござる。今日は馬を買いに町まで、野を超え山を越えひたすら歩くのでござった。
町まで馬を買いに行くブタ一行のメンバーの内訳は、リーダーのブタとたぬきのポコとうさぎのウサ、そして唯一の人間でエリートな騎士である老人の4人(?)PTだった。
途中、山賊に襲われるたびに彼らはお金やお弁当を巻き上げ、焼け太りをしながら町へ向かっていた(……ひどい話だ)
通称ブタ子爵家の家宰にして執事、また王国公認騎士でナンデモ係な呼称は「じいや」な老人と、お供のブタ、タヌキ、ウサギの設定で町へ来た。何も知らない人間への対策だった。
町の門をくぐると、途端にジロジロと、村人が好奇なまなざしで一行を迎えた。
「やあねブタよ、ブタ」
「いやよね、臭いわ。近寄りたくないわ!」
とりあえず、拙者は年頃の村娘たちにボロクソ言われた。
……が、
「きゃあ かわいい ウサギよ♡」
「きゃっきゃ❤」
(´・ω・`) 見た目は可愛いけど、そのうさちゃんSTR(攻撃力)が255(カンスト)で酒癖めっちゃわるいでござるよ。
ヒソヒソ (´・ω・)(・ω・`) やっぱり外見大切だね……タヌキとブタは拗ねていた。そう、同じ動物なのに……。世の中は極めて残酷だ。
「いくぞ、ブタ共!」
老騎士はブタ達に言い放つ。
(´・ω・`) ……想定通りの演技だけど、なんかヒドイ感じに聞こえるでござる。
一行は町の中ほどに来た。
老騎士たちは一軒の宿の門をくぐる。
「いらっしゃいませ!」
カウンター越しに、白髪の老騎士にニコニコ顔な宿屋の主人。
「ゴホン。個室一つに馬小屋を3匹分、餌ありで!」
「まいどあり!」
宿屋の親父は揉み手をしながら微笑む、金をだせということだった。
「お代だ!」
老騎士は数えた銅貨をカウンターにばらまき、荒っぽい勇者を演じる。
(´・ω・`) ……テレビ番組と違って、宿屋も飯屋も風呂屋もみんな前金。大変風情がないでござる。
宿屋の親父が支払われた銅貨を明りにかざし、その真贋を見極める。
……拙者たちは背筋が凍った。
『やばいぶひぃ……』
『疑われているポコ?』
『銅は本物ウサ!』
『それがし、は、わからないが……』
……そう、この銅貨はブタ領製の真っ赤な偽物。ウサが掘り出し、ポコが類まれなるDEX(器用さ)で創った鋳型に流し込み、冷やしたものを拙者が土埃で汚したものだったでござる。
宿屋の親父は目を細めて言った。
「これはハリコフ王国宮廷造幣局のタリル歴194年の良質なものですな」
Σ( ̄□ ̄|||) ……やべぇ! なんだかいろいろ全然やばぃ!
「わかるかね?」
白髪の老騎士はそううそぶく。
「わかりますとも。長い間商売をしておりますと、このなんていうか銅貨から古の造幣の息吹が感じられます。」
Σ( ̄□ ̄|||) だめぽ~それは昨日インチキ鋳型でつくった最も新しい偽物でござるよ。
むふ~ <(`^´)> タヌキが鼻息を荒げご満悦。
主人はニコニコ顔で銅貨をカウンターの下にしまう。
「ぢいやよ、なんだか悪い気がするでござる……。」
「殿! 今の我々の手持ちは、ほとんどが偽銅貨ですぞ、辛抱なされ!」
……拙者たちはモゴモゴ言いながら、馬小屋に行くふりをして老騎士の個室に入った。
「ぽこー」
「うさー」
「ぶひー」
「皆様方、お疲れ様です」
実はこの一行、もちろん人間様が一番偉くないパーディーである。
が、人間社会においては社会的な信用のある騎士がいなければうまく事は運ばない。
……そう、悔しかったら狸もブタも兎も王国が定期的に開催する共通一次筆記騎士試験をうければいいのだ。
もちろん将校養成学校なので信じられないほどの難関である。まず受からない……という作者のとっさの思い付きの設定だ(大盛り)
……まぁ、そんなことはどうでもよかった。
そう問題は、この個室に唯一無二、この一個だけの【簡易ベット】だ。
できればこれを優雅に独り占めしたいのが人情だろう。
……激しい戦いののち。
「ウサー!」
STRカンストのちっちゃいウサギの大勝利だった。
いつも殴り合えば結果は決まっている。
が、人生の真の戦場において罵り合いをすることはまずありえない。
……老若男女を問わず、結局人類はコブシでしか語り合えあえないのだ(てきとう)
うさぎ(STR255)は2匹と一人ををボコボコにして、真っ白なシーツと枕を独占しその栄華を満喫していた。友情とは?(哲学)
負け組である一人と二匹は、とりあえず町へ来た目的を遂行することにした。
途中ポコは偽造技術向上のためにスラム街へ音もなく消える。
拙者と老騎士は騎兵部隊設立のための軍馬を購入することになっていたでござる。
「もし!」
「ブヒ!」
馬屋の主人は身を乗り出して挨拶をした。
「これはこれは騎士様!」
……(´・ω・`) またもや拙者は無視されるでござる(嫉妬)
じいやが馬屋の主人の注意を引き付けているすきに。
【システム通知】……【スキル】獣言葉を発動!
「ブヒブヒブヒ(誰が一番足速いの?教えて~♪)」
そう、馬に直接聞く作戦、コストパフォーマンスの術!!
「ひひひーん!」
「ブヒ?……Σ( ̄□ ̄|||)まぢ? 」
「ブヒブヒブーブー? (誰が一番力持ち? 教えて~♪)」
「っひひっひーんひひ!」
「ブヒヒ? ……Σ(´・皿・`) マヂっすか? 」
拙者は老騎士にことの成り行きを告げた。
「…… Σ( ̄□ ̄|||) 殿! まことですか?」
実はこの馬屋の最高速を誇るスプリンターは、ここで寝ているでっぷりとした茶色い大きな牛。
続いて、もっとも力がつよいのは、神経質そうに老騎士の足元でプルプル震えているガリガリに痩せた灰色のロバだった。
……かなり見た目によらない。ちなみにどちらも馬ではない。
拙者は老騎士と相談して、牛とロバと馬10頭を購入したでござる。
以下内訳……
【でっぷりとした茶色い牛】……銅貨5枚(約500円)
【やせっぽっちのロバ】……銅貨3枚(約300円)
【馬】10頭……銅貨3万5000枚(約350万円)
馬屋の主人は、すべての支払いが銅貨という条件に顔をひきつらせたが、いつも寝てばかりの怠けものの牛と、いつも滅茶滅茶に食べるだけでその存在がよくわからない灰色のロバを引き取るという条件に狂喜したのだった。
……とりあえず、前金は銅貨500枚で残りは通称ブタ領にて引き渡しとする約定を結んだでござる。
……こいつらどんだけなんだ? (;’∀’)
そのあとすぐに、半端なく昼寝する茶色いデブ牛と、爆食しまくる灰色のガチクソ痩せな
ロバに辟易することになったでござった。
「うさ~!(おかえり!)」
「ブヒブヒ」
「某も帰参!」
拙者たちは宿に帰りのんびりしていたところ……。ポコが帰ってきた。
「ぽこぽぽこぽこ~♪」
Σ( ̄□ ̄|||) ……ぇ?
掘り出し物を手にいれたと、大変喜んでいるポコ。
【ミカンの汁で炙ると古の最強古代ドラゴンが出てくる羊皮紙】を手に入れたらしい。
またか……(´・ω・)(・ω・`)(・ω・`)
(‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆
……タヌキはウサにシバかれて気絶した。
一見弱点がなさそうなポコだが、最近はタヌキが良すぎて人間に騙されることが多いことが判明したのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!