ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
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第二十二話……王都ルドミラ

公開日時: 2020年11月28日(土) 16:15
文字数:3,321

今日の天気は霙。凍えるほどに寒い。


現実世界の空はきれいな航宙船雲。みんなこの惑星ちきゅうが嫌なんだって。




──

「銅が入荷いたしました!」

威勢のいい声が響く。

入札の整理券に群がる資本豊かな商館長たち。

ハリコフ王国の王都ルドミラでは銅や鉄などが不足中だった。



──

「ウサはお団子二本もずるいぶひぃ!」

「しみったれな領主は嫌われるウサ!」

「美味しいポコ~♪」


 いつもの3匹は王都ルドミラにある、トリスタン帝国風の喫茶店である【茶屋】で名物【お団子】を獲り合っていた。


 3匹のお目付け役である老騎士は、クローディス商館を通じて大量の銅を売りさばき、代わりにハリコフ王国の定める公銀貨を堆く手にした。


 物価高が続く王都で人々に見放されつつあった公銀貨。

平時ならここまで露骨に手にするとお咎めがあるかもしれなかった。が、銀は溶かしても柔らかく農具には適さず、またこの時代は写真の印画紙の需要などもあるわけがなかった。


 家宰ヘーデルホッヘは、まず銅の売価の3割を現物の銀貨とし、ブタ領へ運ぶよう手筈した。次にもう7割の代金を手形で受け取った。



 今回のブタ領決議の方針は人材育成ならぬ、人財購入である。


 そもそもブタ領は、最近になって漁業と野菜栽培が軌道に乗り始めているが、まだまだ未開の地であり、人間も大変少ない。

 古の騎馬軍団は大量の民衆を戦地で獲得し躍進していったが、ブタ達はこの大市場【スマートラ】で少しでも人材難を抑制したかったのだ。


 目の前には戦争により大量の捕虜たちが安価に売り買いされていた。


 が、大量の手形を手にした家宰のヘーデルホッヘは悩む。



「意外と元気な人たちが少ない……」


 栄養不良で衛生水準も低下し、捕虜たちはやせ細っていた。



──

「毎度あり」


 Σ( ̄□ ̄|||)

 大市場の管理人に差し出された請求書に、ブタ領家宰である老騎士は狼狽した。彼の手にする大量の手形は、この請求書の支払いに充てなければならなかったからだ。


 <(`^´)> むふぅ~♪


「おじいちゃんが悩んでたから、ウサが代わりに買っといてあげたウサ!」


 威張るウサギに、震えるタヌキとブタ。


「帰りのお団子は無しですぞ!」


 Σ( ̄□ ̄|||)


 愕然とするウサギに、ホレ見たかとタヌキとブタ。



 請求書の項目は大事件だった。

 ……書かれていた項目とは、


 トリグラフ帝国の甲冑。トリグラフ帝国の軍旗。トリグラフ帝国の紋章入り毛布や毛皮類。

 あたかも敵国トリグラフ帝国の品物を買い支える様にも見える明細書の束は、周りの商人たちの失笑を浴びるに十分だった。

 他にも、やせ細った農耕馬や、帝国に買いなさられた見たこともないモンスターたち。労働市場では二束三文ともいえる老人たち。そして信じられないくらいの大量の乳飲み子達も凄まじい数いた。


 雄弁な慈善家たちが脱走するほどの素晴らしい散財ぶりに、周りの大商人たちは大爆笑。流石の歴戦の勇士ヘーデルホッヘも顔を真っ赤にさせていた。



「ンホール司教にどう説明すればいいんじゃ!?」


 頭を抱える歴戦の戦士の受難は更にも続く。



 Σ( ̄□ ̄|||) なんじゃこりゃ?


 <(`^´)> 名誉返上汚名挽回張りのウサのお買い物は続く。



「毎度あり!流石は御兄さんかっこいいわ❤」


 美人の若い女性取引差配人に、両頬にキスをされた老騎士(既婚・年頃の娘あり)。

 新妻のハイオークにシバかれた方がましなほど、ウサの買い物は酷い。



「安い食料を買ったウサ!」


 威張るウサが指さす先にあるのは、北方の痩せた大地のトリグラフ帝国産名物である【ニンジン】の山。しかもただの人参じゃない、軍馬用。



 ……(´・ω・`) もうどうでもよくなった老騎士。


 彼は気づくべきだったかもしれない。帯にくくりつけた虎の子のブタ領高級品である【魚の干物】の代金である手形、それらは根こそぎウサに引き抜かれた。



──


「毎度あり❤」


 二人の若い女性に熱い抱擁をされる老騎士……。


「あの爺さんカモだなぁ!」


 次回の商いのために、もっと若い女性をつけろと差配する豪商たち。

 ……ハニートラップにでもかかったのであろうか?


 <(`^´)> うさ~!!


 今度の買い物は若き人材だった。


 人材とは帝国の若き書生たちだった。どこから見ても貧弱そうな彼ら。どこからどうみてもブタ領で漁業や土木工事に従事できそうにない。


 変な爺が道楽商売を始めたと聞きつけたやじ馬たちも駆けつける。



「おじいちゃ~ん、今晩の宿はウチでね~❤」


 見たことも聞いたこともない数の女性たちが老騎士に嬌声を上げる。



──

(モテ気到来!?)


 灰になりそうな老騎士。

 嘲笑の大合唱に包まれる【スマートラ大市場】。





──

 老騎士は何を間違ったのか?

 所詮人身売買は悪だったのか?


 わずか一握りの麦で一家離散を余儀なくされる村々。

 親は涙を殺し子も娘も売り。

 年老いた親が山に消える時も子等は寝たふりもした。


 今日も王に異を唱えるはずの勇敢な知者はいない。

 皆と違う方向に歩こうとする英雄や賢者もいない、そんな日常世界。





☆★☆★☆


今日の天気は吹雪。朝から晩まで荒れ狂う自然の猛威。


リアルの世界は晴天。大きな雨雲は市街地の外で概ね処理される。




──

「家宰様、こちらの書類もご確認願います」


 大量の書類に埋もれる家宰へ―デルホッヘ。

 現在、ブタ領の事務処理能力は改善、……どころか飛躍的に向上し、人口当たりの処理能力はハリコフ王国最強と言っても過言ではない。


 ウサが買い入れてきた痩せっぽちの書生たちは、トリグラフ帝国語だけでなくハリコフ王国の言葉も読み書きでき、各地の少数民族の習俗やモンスター達の生態にまで精通していた。

 極め付きは、ンホール司教の邪教の教えまで先日暗唱してしまい、毎回講話にカンペを使う司教は立場がなくなったのであった。


 彼らはどこの人だったのだろうか?

 どうやら、北方へ攻め込んだハリコフ王国軍は、トリグラフ帝国の下級官吏養成学校を急襲し大量の捕虜を得た。それが彼ら書生のようだった。


 下級官吏と言えば、ハリコフ王国内での評価は芳しくない。賄賂に弱かったりだとか、独創性に乏しいとかいろいろ言われていた。

 が、下級官吏である彼ら無しで成立する社会も珍しい。古の騎馬帝国であれども大きくなれば下級官吏を必要とした。


 使える人材なら、捕虜になった時点でなぜ身代金を払われなかったか?……ということだが、そもそも身代金を払えるような家庭に生まれていれば、トリグラフ帝国帝都【ヴァルモア】の大学へ通えるとのことだった。


 ニャッポ村で事務処理係として働き始めた彼らは、ハリコフ王国の学生と異なり、貧しく荒れた大地に育まれた者として生きているようだった。

家宰である老騎士は、彼らに日当で給金を支払った。お金がないだろうと考えたからだ。が、……。


 Σ( ̄□ ̄|||) ウ……ウサ?


 仲良く3匹でサボって釣りをしているウサのところに、ニャッポ村の若き官僚たちは、爪に火をともしたようにして蓄えた銅貨を持参してきた。



──

 確かにブタ領の家宰である老騎士からすればトンデモな買い物をしたウサだったが、彼らにとってみればウサは命の恩人でしかなかった。


 もちろん彼らの持参してきた銅貨は、ウサのとなりでホクホクお芋を食べながら釣りをしているタヌキが作った私鋳銭バッタモンである。



「邪魔になるから持って帰ってくれウサ!」


(ヾノ・∀・`) 食べられないものはイランウサ!


 ちなみにウサはガチでINTかしこさが1である。

 彼らは残念に思ったが、彼らの恩人はタヌキとの釣り勝負の真っただ中だった。



「今日の勝負はもらったポコ!」


 Σ( ̄□ ̄|||)


「そ……そうはイカンザキうさ!」


──

 彼らは仕方なく銅貨をンホール司教の邪教の館に寄進しようとした。が、


「ンホー!! 駄目ンホー!」


 ンホール司教はブタ領随一の知恵者として知られていた。自分の存在を危うくする彼らからの寄付は司教にとって……ごほんごほん。


 ……が、彼らは食い下がった。

 彼らと同じくしてこの地に連れてこられた老人や乳飲み子達、彼らの生活費や養育費として払うとのことだった。



「ンホー! そういうことなら有難く頂くンホー!」


 その後、邪教の館ニャッポ村別館は老人と子供用の福祉施設の様をなした。

 そしてハリコフ王国側からしたら邪教である【茸教】は、この日を境にして一気に信者を伸ばしていくのだった。





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