今日の空は青い、地平線にみえる雲は赤いけれど……。
ゲームの中の空はわからない。じめじめしたところでお勉強中。
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「美味しい!」
ハロルド王太子は感嘆の声を漏らした。
戦時にあえぐ、王都の庶民には手の届かない新鮮な野菜のサラダのあとに出たのはスッポンのスープだった。
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全ての食材を厳選するのは言うに及ばず、この日のために畜養をほどこし、カモや魚にもとびっきり良い餌を与え続けていたのだ。
そのようなものは餌にせずに、王都の民に分け与えればいいような気もしたが、相手は5歳の王族なのだ。
食材の背景など知る由もない。
一方、御付きのドロー公爵といえば、お腹が痛くて味わうどころではなかった。
スープの次に出てきたのは、お魚の皿だった。
沢山のイクラの上に、沿岸でとれたバフンウニをのせ、火炎魔法で若干あぶったものに、高級品である塩と胡椒を贅沢にたっぷりかけてあった。
……そう、この世界には醤油がない。現代の皆さんが食べた場合にどう思われるかは謎である。
お次のお皿はメインディッシュ。
カモのグリルと鶏卵のボイル添え。
塩釜でグリルしたカモの鶏肋の部分を、丁寧に骨を取り除いたものを、畜養の魚の煮汁で固めたものだった。
王都の上流階級垂涎の品、蜂蜜もこれでもかとたっぷりかけてあった。
デザートは、山盛りの果実の上を円錐状に、精製に精製を重ねた純白の砂糖を盛りつけたものだった。
総じて、極めて健康に悪そうなメニューであったが、この世界の贅とはこのようなものであり、実際に多くの貴族たちが老若男女を問わず生活習慣病にかかっていた。
豊かな体もまた、富の象徴だったのだ。
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「もう少し食べたかったが、余は満足ぞ!」
ハロルド王太子の発言に、ブタ領の幕僚たちはいっせいに胸をなでおろした。
身の回りのお世話の者に銀貨を握らせ、普段の食生活やメニューを調べ、少し物足りないくらいの量の設定にしたのだった。
次代の王に、少しでも味を覚えてもらうことで、ブタ領の幕僚たちは領の平和を図ったのだった。
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ブタ領北端で、王太子の帰りを見送ったヘーデルホッヘは、心労のせいか白髪はより白く、しわはより深くなった印象で、目の下には大きなクマができていた。
が、それは大いなる作戦の成功を意味していた。
仮にも失敗なら、王太子も宰相も無事に領から出すことはできない。
ドロー公爵もそんな辺境領主たちの気持ちをわかってか、変な詮索もしなかった。
何はともあれ、ブタ領としては初めての皆での完全勝利だった。
その夜はあるものは酔いつぶれ、あるものは巣穴で寝潰れた。
「お父さん!?」
帰ってきた父のそのやつれた顔にビックリした娘の胸の中で、老騎士はスヤスヤと静かに寝息をたてているのであった。
【システム通知】……本日は定期メンテナンスの日です。データの保全のため、みなさんの時間に余裕のあるログアウトをお願いいたします。
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「ブルーーよ、最近のゲームはそんなに面白いのか?」
「う~ん、今は勉強にいっぱいいっぱいでござるかな?」
ポークチャップを食べながら、そう答えると。
「馬鹿もんが! ゲームで勉強になることなんかあるかい!」
と拙者は頭をはたかれたでござる。
(´・ω・`)……そう、いつも拙者のおじいちゃんはこんな感じでござる。
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今日は避難訓練の日。
担任のマーチャン・アサイ先生は大慌てだけど、みんなは楽しそう。
だって放射能避難訓練の日はいつもより早く帰れるから。
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今日の学校帰りの空は雨。
ぽつぽつと降ってきた。
しょうがないから友達のグッチャン家にアタゴンと遊びにいった。
「こんにちは! おじゃましま~す」
「あら? いらっしゃい」
グッチャンのおばあちゃんはお相撲が好きな明るい人でござる。
で、グッチャン自身はベースギターが得意で、バンドとか言うやつをやっているでござる。
けどね、アタゴンと拙者は音楽がぜ~んぜんダメで、何も楽器がひけないから、一緒にVRMMOであそぶでござる。
グッチャンはゲームも拙者たちより上手でござる。クラスの人気者は違うでござる。
VRMMO用マルチタップを接続して、三人でフルタイム型VRMMO「艦隊騎士団ハリケーン!」ってので遊んだでござった。
いざ! ヾ(゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ 皆で楽しく大冒険~♪
どんぱち♪ どんぱち♪ どんどんぱちぱち☆彡
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楽しかったでござる。
「じゃあ、またでござるね~♪」
「あ! 待て、アイスマン!」
「ん?」
「お前、前にVRMMOやってるっていってただろ?」
「うん」
「なんてやつだ?」
「あ?名前なんでござろう?」
「ゲームの名前知らんのか? どうでもいいけど、ちゃんとダンジョン周回してレベル上げろよ? 今日みたいに」
「あ……、うん、頑張るでござるよ!」
(……ゲームの名前なんだっけ?)
そんなことを考え、途中にアタゴンとわかれ家路についた。
ガチャ。
(……鍵が閉まってる)
玄関の横の植木鉢の下にあるカードキーを取り出し、鍵をあける。
──
ガラガラガラ
家には誰もいない。
アイスマンは自分の部屋にはいり、VRMMOゲーム本体にささっているゲームソフトをみた。
「うん?」
名前はよごれてて見えにくい。
本体から抜き、まじまじと見た。
『-COPY-』と書かれている。
Σ( ̄□ ̄|||) なんじゃこりゃ?
ゲームのカセットに書かれている製造番号をパソコンに入力して検索した。
【検索結果】……該当するゲームはありません、ただし……。
──
Σ(・ω・`;) ぇ?ぇ? どゆこと?……
「!?」
──
ビシィィィ!
アイスマンは背後からの突然の衝撃で眠りに落ちたのだった。
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