ブタさん子爵の大戦略!?

SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
黒鯛の刺身♪
黒鯛の刺身♪

第三十一話……【モロゾフ将軍記②】 ──王国参謀本部──

公開日時: 2020年11月30日(月) 16:25
文字数:3,570

今日の天気は晴れ。


澄み渡る空。そろそろ春真っ盛り。




──戦争とはなぜ起きるのか?


 よく上げられるのは、思想や利害関係の不一致だが、最も単純な理由は『相手が自分より弱い』からである。


 歴史学者……マーチャン・アサイ




 ハリコフ王国の北方に位置するトリグラフ帝国は、温暖で広大なアーバン穀倉地帯を持つ王国とは違い、不毛な寒冷地帯が延々と拡がる貧困国である。


 おもな産業は、その貧しさに打ち勝つべく人々が鍛えた学問であったり、剣術であったりした。


 ブタ領ニャッポ村の官吏たちがそうであるように、有能な学生たちは出自を差別されながらも、諸国の薄給下級官吏として登用されていた。


 又、鋼のように鍛えた武人たちも、多くの諸国に精強なる兵士として就職していた。


 彼らは得たお金そのものだけでなく、お金を小麦や米、野菜などの漬物、肉や魚の干物に交換して、長期休暇の際に帝国の家族のもとへ持ち帰った。


 まさしく帝国の産業と資源は、『人』そのものであった。



 だが、帝国自体は食料生産高が限られており、養われる人口も低い水準で推移していた。誰から見ても大国ハリコフに挑むことなど想像もつかなかった。




──が、彼らは、ハリコフ王国に挑んだのである。





 当初、ハリコフ王国側としては、帝国は攻略しても旨味のない土地だった。むしろ安い労働力の供給地として見ていた。


 しかしここ2年間、ハリコフ王国は不作続きの為、地方貴族と民衆の不満は王都に向いていた。

 王都を取り仕切る宰相ドロー公爵は、その活路を外敵に求めた。

 が、外敵なら何でもよいというわけでもなく、勝てそうな相手が求められた。まさか勝てない相手に国家の浮沈を賭けるわけにもいかない。


 ドロー公爵は周辺事情を幕僚に調べさせ、その矛先をトリグラフ帝国に定めた。


 すぐさま、王の最高諮問機関である六公侯会議に諮った。

 ハリコフ王国の六公侯会議とは、侯爵以上の6名で行う秘密会議である。が、半分公然の秘密であり、ボロンフ辺境伯爵が侯爵に昇りたいのもこのためである。


 ……どのような裕福な組織だろうとも、中枢にいなければ旨味はない。と言ったところかもしれない。



 六公侯会議は宰相ドローの案を全会一致で可決。

 王の追認を受け、秘密裏に王国参謀本部へ通達された。その通達内容は、


 『王国へ向けて、トリグラフ帝国が開戦を仕向けるようにせよ。しかる後、必ず勝て!』


 ……であった。




 通達を受けた王国参謀本部はすぐさま作戦素案を作成し始めた。


 ハリコフ王国参謀本部とは、軍の作戦統括と立案をする機関である。が、兵士の直接指揮権はなく、勤める参謀たちも貴族の次男以下という編成であった。

 規則にも、兵士や領民を従える貴族の参与は許されておらず、あくまでも貴族たちの下につく実務機関に過ぎなかった。



──参謀本部の叡智が大いに試される時だった。






──

「殿! ご出陣の時間ですぞ!!」


 家宰の老騎士がゲームで遊ぶブタをせかす。



 ブタの好きなことは、【釣り】と【テレビゲーム】と【砂遊び】である。


 釣りは最近、虎族のコダイ・リュ-と新たな定置網の開発に繋がった。

 テレビゲームは、今のところ何も役に立っていない。

 最後の砂遊びは、城つくりに波及していった。


 バートルム砦での奪回戦以降、ブタはやたらと【城つくり】に執心した。

 いろいろな書物を取り寄せ、絵図面を沢山作りポコと日夜討議した。



 港湾自治都市アーベルムに対し大森林地帯の権利確約をとったため、ブタ勢は軍務役アガートラムを中心に大森林地帯の実効支配に移った。

 仮に周囲の大領主が決めたとしても、在地領主は反発することは多く、武力による勢力圏の確保は必須だった。

 なにしろ大森林の在地領主はモンスター達であり、人間の支配をより好まなかった。


 この戦役で、ブタは多くの野戦城や砦を設計し、現場をポコと指揮をした。なにしろ巨人族のビットマンがいたので工事は比較的早かった。


 アガートラムは敵を認めるとすぐさま後方のブタに連絡した。ブタ達は予定地に野戦陣地や砦を次々に構築、味方には安全な休息地を確保し、その建築物の数々は在地領主のモンスター達の戦意を砕いた。


 砦のない側はいつ襲われるかわからず、体力と精神力を摩耗した。片や砦のある方は十分に休息が出来た。

 もはや全く戦いにならなかった。


 よって、在地のモンスター達は次々に休戦を申し出て、ブタの旗の下にどんどん臣従していった。



 ニャッポ村から来た従軍文官たちが、ヴェロヴェマの指示のもとに彼らの支配地域を定め、徴税額や軍役動員数を記載した羊皮紙を作成した。その後ブタが署名捺印し、直接在地領主であるモンスター達に手渡した。


 ここで特筆すべきは、臣従したものにウサ特製の銅剣が下賜された。ちなみに新品の銅は輝きがあり美しいものである。

 人間にはあまり珍しいものではなかったが、モンスター達には喜ばれた。なにしろ一応は子爵さまからの特注の頂き物である。


 人間から貰うと嫌だったかもしれないが、アイスマン辺境蛮族子爵はブタであった。



──そう、ブタだったのである。





「もう、おうちに帰って【公務員ファイター】したいだござる!」


……その願いは、ザムエルとヴェロヴェマの怖い笑顔によって打ち消された。



ブヒィぃぃ (´・ω・`)





☆★☆★☆


戦場の夜は寒い。


自分の相方は寝筵だけ。夜の地面は想像を絶するほどに硬く冷たい。



──

 王国参謀本部は、トリグラフ帝国で食料に困っていそうな国境周辺貴族に目を付けた。

 そして彼らに『お見舞い』と称して食料を贈った。そして、暗に王国につくよう唆した。圧力に驚いた帝国貴族たちはその対応を帝都に求めた。


 帝国の首脳部は、ハリコフ王国の真意を確かめるために非公式に特使を送った。

 王国側の回答としては、食料の御礼として『村を一つほしい』とのことだった。


 帝国側は、膨大な国力差があるために王国へ逆らえず、適当な理由をつけて村を一つ引き渡した。

 が、その後も同じようなことが続き、使者を送ると。

 『町が欲しい』だの『やっぱり都市が欲しい』だの『鉱山の権益が欲しい』だの好き勝手に言われる始末だった。


 帝国は苦慮した結果、王国の理不尽な要求を跳ねのけることに決めた。要求に対し黙殺したのである。


 これに対して王国側は、『助けた恩を忘れるような隣人は要らない。以後一切の食料及び資源の輸出を禁ずる。又は、その品を帝国に運ぶものを捕縛する』との旨を帝国に正式通達した。


 これには帝国側は大いに青ざめた。さすがにそれをされると国家の存亡にかかわると思い、次々に妥協案を提示した。

 が、そのいずれもが黙殺された。


 その後、ハリコフ王国は一方的に国境の関所の管理を強化した。『麦の一粒たりとも見逃さぬ!』と張り紙まであった。

 さらには、王国は大々的に大軍を準備し始めた。相手は誰かなど子供にもわかった。


 こうなると、帝国側も一戦やむなしとの風潮になる。

 しかしながら、先制攻撃は外交上まずくなるため、策をようやく模索し始めた。


 このようなときに、国境近くの帝国貴族領で婦女暴行を働く盗賊団が現れた。その領主は部下を引き連れて追いかけたところ、賊は王国領内に逃亡。帝国貴族は待ち受けていた王国国境警備隊と激突し捕縛されてしまった。


 王都の地下牢で厳しく尋問されたところ、この帝国貴族は『帝国首脳部に命令されて王国領内に侵攻した』と自白した。

 このことは王都ルドミラで大々的に宣伝された。まさしく、



──『帝国は王国へ戦争を仕掛けた』のであった。





──


「殿! ここに陣地をお願い致す!」

「ブヒ?」


 コソコソと釣りに行こうとしたブタは、鉄仮面を装備したヴェロヴェマに捕まる。

 陣地構築の依頼である。

 いくら自分たちに不利になろうとも、ブタ達に抵抗する大森林の在地領主たちも沢山いたのだった。


 しかし彼らを野戦、攻城戦で次々に破る名人がいた。ヴェロヴェマである。彼は低身長の容貌醜い男だった。

 彼は馬上にて武器ではなく、よくペンと羊皮紙を携えていた。



 大森林で味方になったモンスター達は、ヴェロヴェマの先手衆として配備された。


 ヴェロヴェマは前線で働く者たちを良く観察して、その戦功を馬上にて次々に書き記していった。


 『今回のボスは紙に成績を書いて渡してくれる。働き甲斐があるぞ!』というのが概ねの意見だった。

 その結果、モチベーションが上がった在地領主たちは次々に敵を撃破。


 猛将として知られるザムエルのように『将たるは兵の前に立つ!』と公言する者もいれば、ヴェロヴェマのように兵の後ろから戦目付として督戦する者もいた。



 そのような感じで戦役は佳境に入っていったが、ブタの前に人が連れてこられた。

 大森林の中、モンスターに捕まっていたそれは茶色い髪の茶色い眼をした可愛らしい女の子だった。



──トクン。


 そう心臓の音がしたのを、ブタは生れて初めて感じ取った。


 ブタにも遅まきながら、春がやって来たのかもしれなかった。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート